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叛逆の皇女-23

「そいつを渡せ、タカス・ハルト」

「断る」


 俺はライオネルを『投影』で浮かび上がらせ、その腹部に手を回して持ち上げた。

 こんなクズの味方をするつもりは無いが、コイツにはまだ利用価値があるし、何よりもカミラが復讐の連鎖に取り込まれるような事態は避けたい。


「……アナタは私の味方か? それとも敵か?」

「お前の帝位継承には協力する。魔魂石を潰す手伝いも喜んでするが、復讐の手助けはできない。お前の私的な理由で、このクーデターをより確実にする一手を捨てるような真似は、断固阻止させてもらう」


 俺は背後の空間一帯にかけていた認識阻害魔術を解除した。

 煌びやかな玉座、その背後の城壁に開いた大きな風穴が姿を現す。

 『滅犠奴』発動のタイミングで開けておいた、緊急脱出路兼味方の侵入経路だ。


 更に二重で仕掛けていた迷彩魔術を解除すると、側頭部から見事な角を生やす、灰色の龍族が2名、姿を顕した。


 テンペスタさんに、エアリア。

 共に風を操る、俺が知る限りでは最強クラスの龍族の精鋭だ。


 一日を通して今日は風が強い。開いた穴から吹き込んできた風が、ローブの端をバタバタと揺らした。

 

「伏兵……。何としてでも私の邪魔をするつもりか」

「そんなんじゃない。本来はライオネルを両側から挟み撃ちにするために回り込んでもらっていただけだ。俺は自由に空を飛ぶことはできないからな」


 認識阻害魔術まで使って2人の姿を隠していたのは、ライオネルが他に兵を呼び寄せた時、不意打ちをかけるためだ。

 認識阻害魔術は非常にデリケートだから、対象者が魔力を使用すれば途端に解けてしまう。だから、ここぞという時にこちらの合図で戦闘に参加してもらう予定だったのだが、ライオネルがほとんど自爆紛いの攻撃を繰り返して危険が大きかったため、その機会は訪れなかった。カミラを抑え込むために隠れていてもらったわけではない。


 俺たちの人数は3。対してカミラ側の陣営で意識のある者はジェラルドとカミラの2人のみ。戦っても我がままを押し通せるような状況ではない。


 その均衡を崩す出来事が起こった。


「む……」


 『神の薬』で治療を施したパーシヴァルが、意識を取り戻したのだ。

 二つ名の由来ともなっている礼服はボロボロだが、全身から漲る殺気のような威圧感のせいで弱々しい印象は見受けられない。むしろ野生的な凄みすら醸し出している。


 パーシヴァルは聡い。ライオネルを抱えた俺がカミラと向かい合っているこの状況を見て、何となくではあろうが事情を察したようだった。

 そして、出来得る限りを己が主のために尽くすのが、パーシヴァルという男だ。


「……姫、ここは我らにお任せを」

「アナタ、怪我は」

「ご安心を。タカス・ハルトの魔術の腕は本物です。魔力耐性の高い姫はその恩恵を受けられなかったご様子ですが……」


 パーシヴァルは手に持った剣を左腕に押し当てると、思い切り手前に引いた。

 決して少なくない量の血が傷口から溢れる。

 

 とち狂ったか?

 いや、違う。こいつが意味も無く自傷に走るわけがない。


「パーシヴァル!?」


 カミラの慌てた声が響く。


 パーシヴァルは傷口からとめどなく流れる血を、懐から取り出した試験管のようなものに溜め、密栓すると、カミラに投げ渡した。


「お使いください。これだけあれば、この場を戦うには十分でしょう」


 カミラは一瞬躊躇したが、すぐに受け取った試験管の中身を飲み干した。吸血鬼の彼女は、血を媒介に他者の魔力を得ることで、その体質を遺憾なく発揮する。

 すぐに全身の擦り傷やら打撲やら細かい傷は治っていった。

 さらに、手に持っていたサーベルが長さを増し、より高密度になっていく様子が見て取れた。


 何としてでもカミラが血を呷る前に止めるべきだったのだが、できなかったのはジェラルドが居たからだ。他の何かに気をまわしているときにあの男が攻撃してきたら、俺はこの場でノックアウトだ。


 パーシヴァルは中級の治癒魔術を言霊詠唱と伴って発動させ、腕の傷を治し始めた。止血が済んだ段階でパーシヴァルは術を停止し、手に持った鈍色の剣を、腰の高さに構えた。熟練の騎士が纏う闘気は、同じく熟練の魔術師が放つ魔力のプレッシャーとさして変わらない。単なる雰囲気、単なる眼力という曖昧なものに過ぎないはずなのに。


「旦那、あの嬢ちゃん、吸血鬼かい?」

「ええ。強力な魔力耐性と再生能力を備えてます」

「最も龍に近い人間、って訳か。難儀しそうだな」


 テンペスタさんは龍族の爪を解放し、さらに灰色の鱗を全身に表出させた。テンペスタさんが放つプレッシャーもまた、単なる魔力の波動を超える何かを伴っている。経験がそうさせるのだろうか。今だ若輩者の俺には想像もつかない領域だ。


「『嵐龍王』テンペスタか。『神殺し』殿の人脈は、一体どうなっているのやら」

「今は姪っ子を可愛がるだけが生きがいの、ただの隠居ジジイだ。」


 隠居ジジイにしてはあまりに強すぎる御仁だが。


 こちらの戦力は俺、テンペスタさん、エアリア。あちらの戦力はジェラルド、パーシヴァル、カミラ。

 実力はほぼ拮抗しているが、それはあくまでも全体での話だ。個々の実力を比べれば、例えば俺とエアリアの間には大きな実力の隔たりがある。

 確実に戦力を分断し、互いに拮抗する相手とのみぶつかる。

 互いの損害を最小限に抑えるためには、そうする以外にない。こんなところで仲間割れして戦力を失うことなど、向こうも望んではいないはずだ。

 

 俺はエアリアにライオネルを放り投げた。


「エアリア、こいつを教会の時みたいに、空高く打ち上げておいてくれ」

「わかった」


 エアリアは操風系高等魔術『風蛇』を発動した。

 薄く緑色を帯びた風がライオネルの身体を包み込み、城壁に開けた穴から空高く昇っていく。

 

「ジェラルド、お前はタカス・ハルトを抑え込め。私はテンペスタを抑える。姫は術者のあの小娘を。術者を気絶させれば、ライオネルを飛ばした『風蛇』は解けます」


 パーシヴァルの言葉に呼応して、ジェラルドは両腕を再度オリハルコンと化し、カミラは魔力を立ち上らせた。

 エアリアも鱗と爪を解放して戦闘態勢を整える。


「カミラ……」

「私は母の仇を取ると決めた。邪魔するのなら、戦ってでも押し通るまで」

「勇ましい嬢ちゃんだが……。復讐ってのはあまりいいもんじゃないぜ。俺も妹の仇討に奔走して殺しに殺したが、残ったのは穴の開いたような虚無感と、振り向けられた憎しみだけだ」


 しかしテンペスタさんの言葉もカミラには届かない。

 彼女の中にある憎しみは、既に冷静な判断力を奪う域まで達しているようだった。


 もう誰の言葉でも、それが言葉である限り、カミラを踏みとどまらせることはできないだろう。


 エアリアがポツリと呟く。


「諦める気は無いのか?」

「くどい」


 その一言が、戦闘の合図となった。


♢♢♢


 カミラがサーベル片手に迫る。

 私は魔力を練り上げ、筋力と五感を強化した。


 爪をサーベルに合わせて弾き、がら空きの腹部めがけて脚を振るう。

 しかしカミラは突如不自然に身体を上方向に滑らせて、蹴りを回避した。

 その異常な挙動の正体は――――飛翔だ。

 カミラの背に、黒い翼のようなものが形成されている。そのまま壁の穴を目指して飛び去ろうとしている。上空に飛ばしたライオネルとかいう魔術師を追おうとしているのだろうが、させるわけにはいかない。

 上空ならば、私のホームグラウンドだ。

 人化の術を部分的に解除し、背に龍の翼を顕現させる。


 羽ばたきに加えて風をも推進力にしてカミラを追い抜き、風の力を借りて急制動。突っ込んできたカミラのサーベルに、私は爪を合わせた。

 

 ガギンッ、と鈍い音がして、互いに弾かれる。

 

 カミラが叫ぶ。


「どうして私の邪魔をするの!」

「お前こそ、どうして自らの手で殺すことにこだわる!? ハルトが何故貴様にあれ程『復讐は止めろ』という理由が分からないのか!!」


 再び接近し、振り下ろされたサーベルに右の爪で応じる。爪を引込め固い鱗だけとなった左手を、カミラの胸の中央目がけて思い切りたたき込んだ。


「かはっ!」


 気絶を狙っていたが、ここは踏ん張る床のない上空。掌底に体重を載せきることができず、肺から空気を叩きだすだけに終わった。


 それでもチャンスだ。

 私は魔力を通して風を操り、1点に収束させて隙だらけのカミラに叩きつけた。

 

 もはや壁と言っても差し支えない暴風だ。当たればとりあえずハルトが言っていた『時間稼ぎ』を完遂できるぐらいには、ダメージを与えられるはず。


 そう目論んだ私の目の前で、信じられない現象が起こった。


「!?」


 暴風に、カミラが手をかざした。その手が風と接触した瞬間、風は突然解けて四方に散った。


「私に魔術は効かない」


 続けて複数発の風を叩きつけてみたが、結果は同じだった。カミラが風に手を当てる。風が散る。その繰り返しだ。


 最後の一発が防がれて緑色の魔力の残滓が消えうせると、その向こうに赤黒い魔方陣が見えた。


 喉が干上がる。あの魔術には、覚えがある。

 

 魔方陣が浮かび上がって、直後虚空から赤黒い鎖が8本、猛烈な勢いで私に迫ってきた。

 予想通り、かつて私が捕らわれた神級魔術のそれだ。


「っ!」


 私は翼を思い切り振るって上空に逃れる。しかし鎖は進行方向を変えて私を追尾してきた。

 全身を傾けて斜め下方向に舵を切る。鎖はなおも追いかけてくる。

 逃げ続けるだけでは埒が明かない。飛び続けてもいつかは鎖に捕まる。そして一度捕まってしまえば、そう易々と抜け出せないことは既に身を以て経験している。

 私は大きく広げた翼に風を当てて無理に進行方向を変え、カミラの許へ真っ直ぐ突き進むコースに乗った。全身が圧力で軋むが、魔力強化の恩恵か、致命的な事態には至らない。

 爪を解放。

 龍の爪には魔力耐性がある。並の魔術であれば防ぎきれるし、例え神級魔術でも無傷というわけにはいかない。

 このまま、魔方陣を突き破る。膨大な魔力を練り込み、飛行補助のために纏っている風を更に増やす。耳元で気流が渦巻き、地鳴りのような音が聞こえる程の速度域に達した。


 そのまま赤黒い鎖を生み出す魔方陣に真正面から突っ込む。

 爪が接触。ビリビリと魔方陣内に循環する膨大な魔力が爪先で抵抗を見せる。

 が、しかし。

 ピシリ。

 魔方陣に一筋の割れ目が走る。その結果全体のバランスが崩れたのか、甲高い音と共に、魔方陣は半ば崩壊しながら私の爪に断ち裂かれた。追尾してきていた鎖が崩れるように消滅していく様子を視界の端に捕える。

 魔方陣の抵抗が思いのほか大きく、速度は大きく落ちてしまったが、私はそのままカミラの腹部に爪を突き入れようとした。

 しかしこれはサーベルに弾かれた。


「うぅぅぁぁ」


 魔術を中断されたことによるフィードバックか、カミラは表情を苦痛に歪めた。

 しかし、カミラは吸血鬼だ。

 ほとんど一瞬で頭痛から立ち直ると、今まで何も持っていなかった左手に黒い槍状の物を具現化して、私の側頭部に突き立ててきた。


 思い切り体を逸らして槍から逃れようとしたが、完璧には避けきれず、頬に一筋の傷が走る。

 『思い切り体を逸らす』。それは戦闘中に見せるには大きすぎる隙だ。

 立て続けにカミラは具現化した武器を振るう。

 爪を以てそれに応じるが、体勢を崩されてこちらが圧倒的に不利だ。

 

「ふっ」


 私は風を再び翼に当て、カミラから距離を取るのではなく、逆に剣戟のその中央に思い切り体を滑り込ませた。

 カミラもこれには驚いたようで、振るったサーベルの軌道を慌てて変えようとした。

 狙い通りだ。

 無理に軌道を変えようとして速度の落ちたサーベルに爪を合わせ、さらに前に身体を押し込む。ほとんど密着せんばかりの距離に至ったところで、私は再び思いきり上体を逸らして、頭をカミラの額に叩きつけた。


「がっ」

「うっ」


 ゴス、という鈍い音が頭蓋内部に響き、脳が揺れた。


 攻撃をした私の方もそれなりのダメージを受けたが、しかしダメージはカミラの方が大きいはずだ。

 私は頭突きの直前、額辺りの鱗を解放して、ダメージの軽減を図った。

 カミラの方からすれば鈍器で頭を殴られたようなものだ。ダメージが小さいわけがない。


 頭が滅茶苦茶痛いが、我慢して吹き飛んでいくカミラを追いかける。

 『飛翔』を発動し、かなり無茶な軌道での飛行を力付くで実現し、吹き飛ぶカミラの真横にピタリと付いた。

 爪を引っ込めた両手を祈るように握り合わせて、大きく振りかぶる。


「ヤァ!!」


 気合一閃、鱗で硬化したその拳を、ハンマーに見立ててカミラの腹部に振り下ろした。


「っ、か、ぁ!」


 攻撃の反動で私は少し浮かび上がり、逆にカミラは込めた力を受けとって、冷たい空気を裂きつつ落ちていく。


 やがてカミラは、城をぐるりと覆っていた城壁の上に叩きつけられるように墜落した。2度3度とバウンドしながらようやく停止し、全身を投げ出してピクリとも動かない。

 合わせて私も高度を落とし、カミラのすぐそばに着地した。


 額からは血を流し、手から零れ落ちたサーベルは核となっていたダガーに戻り、元々無から作り出した槍は崩れるように消滅していく。

 落下の衝撃を吸収したらしい翼は無残に折れ曲がっていた。その翼も、ボロボロと崩れていく。


 カミラは額から血を流し、気絶していた。

 老騎士の血によって手に入れた魔力も枯渇したらしく、具現化した武器や翼は崩れているし、治癒力も発揮できていない。

 

 勝負は決した。

 いささか乱暴な手段になってしまったが、何はともあれ、カミラを止めることが出来た。

 不毛な仲間割れも、これで終わりだ。

 

♢♢♢


「……どうやら終わりのようだな」


 虚無の翼と触手状のオリハルコンをぶつけ合い、カーテナとオリハルコンの剣を打ち合っていた俺とジェラルドの戦いは、壁の穴からぐったりとしたカミラを抱えたエアリアが降り立ったことで、勝負がつく前に終結した。


 ジェラルドが退き、オリハルコンの触手を引っ込める。

 応じて俺も虚無の翼を霧散させた。


 タイミングとしてはギリギリだった。

 俺は虚無の翼を使えば使うほど強烈な頭痛でダメージを受けることになる。長引けば長引くだけ不利なのだ。


 派手な剣劇を演じていたパーシヴァルとテンペスタさんの戦いも終わりを迎えた。

 パーシヴァルが武器を捨てて降参の意を示すと、テンペスタさんも人化の術で鱗や爪を収めた。


「アンタ、強いじゃねぇか。今まで戦ってきた人間の中じゃ、トップクラスだ」

「魔術も使わず龍化もせず、明らかに手を抜いておった奴が何を言うか」


 もともと互いの目的は1つ。

 ライオネルの殺害に執着していたカミラが倒れた今、彼らにとってこれ以上戦闘を続けるメリットは無い。

 パーシヴァルもジェラルドもカミラに従ってはいたが、ライオネルをここで殺すよりも、後で国内法で裁くなり公開処刑するなりした方が有益であることは理解していたはずだ。

 と、すれば、なおさら戦闘を続ける意味はなくなる。


 丸腰のパーシヴァルがエアリアに尋ねる。


「姫は、無事か?」

「息はある」

「ならば、よい」


 パーシヴァルはどかりと座り込むと、俺にその鋭い眼光を向けてきた。


「して、貴様はどうするつもりだ、タカス・ハルト。我々の軍勢はこの通り、ライオネルの奴に蹴散らされた。姫もまた倒れた。国内全域の各種軍事施設や役場は反乱軍が抑えているが、それも永久には保つまい。皇帝がどこまで逃げたのかは分からないが、このままでは、クーデターは失敗する」

「東方8ヶ国連合の使者が皇帝を追ってる。俺より強いかもしれない人だから、多分大丈夫だろう」

「……そうか。だが、他国の者に肝心要の皇帝捕縛を任せるということは、それ相応の代償を支払わねばならんということだな」

「それは気にしなくていい。東方8ヶ国連合の要求はアルキドア帝国との通商樹立と、通商路の通行税徴税権だけだ。西国との貿易は莫大なメリットを生むし、将来的な通商拡大のためにもアルキドアとは友好関係を維持したいからそれでいいっていうのが向こうの『魔王』の御意向だってさ」

「俄かには信じがたい話だが……」

「そういう方向で話がついてる」


 正直俺も信じがたい。国というものは利己主義の権化だと思っていた俺には衝撃的な条件だった。

 しかし、かつても『魔王』は『魔神』の出現防止のために梅宮さんを送り込んで来たことがあった。何の見返りも求めずに。多分、そういう性質の人なのだろう。

 

 俺は壁際に転がっていたアルキドアの騎士の鎧を剥ぎ取ると、その首に指をあてた。

 微かではあるが、拍動を感じる。


 魔術を阻害する魔抗銀製の鎧を全て剥ぎ取ると、俺は『神の薬』を発動した。

 全身の打撲のような傷はすぐに薄らぎ、ありとあらゆる傷病が癒されていく様子が見て取れる。


 ジェラルドも同様に敵味方問わず、近くに居た者の生死を確認し、『神の薬』を施していた。


 味方はもちろん、敵の騎士達も、クーデターが成った後は、重要なアルキドアの戦力だ。

 1人も無駄死にさせるわけにはいかない。


 梅宮さんからは皇帝を捕縛し次第連絡を受けることになっている。

 それまでは兎にも角にも負傷者の治療だ。

 

 1人ずつ、時にまとめて治療を施しながら、俺は思う。


 このクーデターは成る。

 精神論や希望的観測でもなく、客観的事実に基づく判断だ。

 この国は、変わるのだろうか。

 カミラの治世下で、もっと平和的な国に生まれ変われるだろうか。

 隣国リアナとは犬猿の仲だし、度重なる侵略戦争のせいで隣国には疎まれている。

 それでも、変われるだろうか。


 俺には分からない。

 それは、カミラ次第だ。

 

 憎しみを乗り越えることの意味を彼女が学べば、きっと変われる。

 俺の言葉は彼女を変えられなかったが、彼女の中に残っているはずだ。エアリアと直接戦って、ライオネルを殺し損ねて、彼女は何を思うのだろうか。

 母を失くした哀しみはそうそう癒えるものではないし、母を奪われた怒りはすぐには消えない。そして哀しみと怒りは憎しみを生む。今、こうして仲間割れを起こすほどに大きく成長した彼女の憎しみだが、それに打ち克つことこそ為政者としての彼女の前に立ちはだかる最初の難題だ。

 

 俺には願うことしかできないが、カミラにはローラ夫人のような、思慮深く慈愛に満ちた為政者になってもらいたいものだ。


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