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叛逆の皇女-20

 ジェラルドの参戦で、戦局はこちらに傾いた。

 異常なまでに短いスパンで高威力の魔術を連射してくる宮廷魔術師だったが、肉体をオリハルコンと化すことができるジェラルドには傷一つ付けることができない。

 魔術の種類など関係ない。ただ魔力を帯びていれば、オリハルコンは全てを打ち破る。


 あまりの手数にさしものジェラルドも迎撃が精一杯のようだったが、それでも十分すぎる。ジェラルド以外の全員が魔術攻撃に気を回す必要が無くなったのだから、攻撃の合間を縫って襲い来る騎士を潰すぐらい、それ程難しくはない。


「魔抗銀は相性が悪すぎます! どうぞお下がりください!」


 味方の軽装騎士が促すまま、私は下がった。

 魔術の迎撃をジェラルドが一手に引き受けている以上、私は役に立てない。

 魔力強化しなければ私は単なる小娘だし、持っているサーベルは具現魔術の賜物だ。魔抗銀の鎧を斬りつければサーベルは崩壊するし、膂力任せの攻撃も魔力を基礎にしている以上魔抗銀には通用しない。

 ならば、無理して戦う必要はない。できることをやるべきだ。


 戦列の後方には、魔術と剣が入り乱れる戦闘の最中、重傷を負った者を必死に治療している魔術師たちが居た。

 そのうち、最も危うそうな騎士を治療している魔術師の許に駆け寄る。


 屈強な若い騎士が、血に濡れて倒れている。

 腹部は大きく抉れ、左腕が無い。脈もかなり弱っていることは、わざわざ確認するまでも無く、その出血のスピードで分かった。


「状況は!? 魔術による止血は施した!?」

「施しましたが、一向に治癒しません!」


 魔術は所詮『補助』でしかない。肉体が本来持つ回復力を極限まで高めるのが回復魔術だ。

 しかし、例外もある。


 具現魔術を解除すると、サーベルは刀身を失い、1本の短剣に変じた。

 左の袖をまくり上げて騎士の上に左腕を伸ばす。


「カミラ様!? 何を」


 来る苦痛に耐えるために歯を食いしばり、私は短剣を一閃した。


「ぅうああ゛」

 

 思わず、うめき声が漏れた。

 熱のような痛みと共に、左腕から血が迸り、傷ついた騎士に降り注いだ。


 変化はすぐに訪れた。

 

 騎士の抉れた肉が内側から盛り上がるように補充され、千切れたはずの腕がゆっくりと伸び、新しい腕を形作っていく。

 蒼白だった騎士の顔に再び血の気が戻る頃には、既に傷らしい傷は見当たらなかった。


「これは……」


 驚く魔術師に、私は言う。


「吸血鬼の血液には魔力を介した再生作用があります。手遅れと判断した者は私の許に連れてきなさい。死ぬことだけは絶対に許しません」


 私の腕の傷は既に塞がっていた。元来、吸血鬼は圧倒的な回復力を持つ存在なのだ。

 にも関わらず重傷を負って気を失ったことが、私はどうにも気がかりだった。あの時はすぐ直前に血を飲んだばかりだったから、再生能力が弱っていた可能性は低い。もしも吸血鬼の回復力に対抗する何かをアルキドアが持っているとしたら、全力で警戒する必要がある。


「しかし、そのような方法ではカミラ様ご自身が」

「私は構いません。重傷を負って倒れた者達が味わった苦痛に比べれば、これぐらいどうってことありません」

「しかし……」

「ジェラルド達が宮廷魔術師の先遣隊を殲滅するまでに治療を終えます。あなたも急ぎなさい。一国の猶予もありませんよ」


 尚も食い下がる魔術師に口早に命令を飛ばすと、私は次の負傷者の許に急いだ。

 

 宮廷魔術師の主力も皇帝の近衛騎士共も、まだ現れていない。この部隊の人員はいずれも蜂起軍の中では最高の精鋭達だが、筆頭宮廷魔術師のアイツや近衛騎士達は尋常じゃなく強い。

 戦術的には、ここで騎士を1人たりとも失う訳にはいかない。

 心情的には、私を信じてついて来てくれた部下を、1人だって死なせたくは無いのだ。


♢♢♢


「『神殺し』だと!?」

「倉庫番兵より全軍へ、『神殺し』が現れました! 繰り返します! 倉庫番兵より全軍へ、『神殺し』が現れました!」

「チッ」


 魔魂石を保管しているという倉庫の位置を城を取り囲む城壁から周囲を哨戒していた兵士に吐かせた俺達は、まず敵の戦力を極力抑え込むためにいの一番に倉庫に向かった。


 そこで番兵に見つかってしまったのは失態だ。

 とりあえず、俺は電流を『投影』して番兵の意識を刈り取ると、倉庫に侵入を果たした。


 ずらりと並ぶ剣や鎧の奥に、妖しい光を放つ赤い小石のようなものを収めた試験管が大量に並んでいる。


「これが魔魂石か……」

「強い魔力を感じるな。旦那、どう処理する?」

「破壊は厳しそうですね。1個2個ならともかく、これだけの数ともなるとこちらの魔力が枯渇してしまいます。無難に封印する方向で行きましょう」


 言って俺は、魔法陣の構成に入った。

 試験管が並ぶ棚の真下に白い魔法陣が浮かぶ。

 ちょうど棚を包み込むサイズまで魔法陣を広げ、魔力を緻密に練り上げていく。

 

 この魔術に名前はない。カーテナの飲酒を防ぐために酒類をまとめて保管するために俺が開発した魔術だが、よもやこんな風に役立つとは思わなかった。


 この魔術により陣によって規定された空間ではあらゆる干渉が不可能となる。魔術による転移はもちろん、空間内に侵入することも不可能だ。唯一例外は魔力耐性の高い物品、例えばオリハルコンなどを使われた場合だ。魔術である以上自然の摂理としてオリハルコンを防げる道理はない。

 だから魔術以外の力も使う。

 魔力を遮断する障壁、物理攻撃を妨げる障壁を多重に『投影』する。

 俺の意志が介在していない状況下ではあまり長時間は保たないが、それで十分だ。永遠に封印するわけではない。


「これでよし、と」

「次はどうするよ、旦那」

「城内の混乱を収束させます。梅宮さんのことだから大丈夫だとは思いますけど、混乱に乗じて皇帝に逃げられても馬鹿らしいですし。もし混乱の原因が反乱軍なら、カミラの居場所も掴めるかもしれません」


 まずはカミラの居場所を探ることだ。皇帝を捕らえても彼女が居なければ、俺の望みは叶わない。


 倉庫を後にしようとした、その時。


「居たぞ!! 『神殺し』だ!!」


 抗銀の甲冑で全身を包み込んだ重装の騎士が1部隊、倉庫に踏み込んできた。

 鎧だけで数十㎏は下らないはずなのに、騎士たちの動きは機敏だ。肉体強化の魔術を使えるかなり高位の騎士であることはその動きから一目瞭然だ。


「下がってください。ここは俺が」


 テンペスタさんとエアリアを後ろに下げ、俺はイメージを練る。

 踏み込んできた5人の騎士それぞれに、俺は電流を『投影』した。

 

 電気の流れが空気を割り、独特の音が鳴る。

 どれほど魔術で五感を強化していようと、時速200キロ近い速度の雷撃を避けられるはずも無く、騎士達は雷撃をダイレクトに受け、倒れ伏した。


 しかし、流石は拷問のような訓練を潜り抜けてきた騎士。戦闘の部隊長と思しき男は、1度倒れた後、ものの数秒で意識を取り戻してきた。


「バカ、な……。魔術が……何故……」

「魔術じゃないからね」


 『投影』は魔術ではない。じゃあ何なのかと言われれば、梅宮さんはどちらかと言えば物理現象と言っていたが、実際のところ俺には理解できていない。ただ、魔力を使わないことだけは間違いない。

 魔力の介在しない『現象』は、魔抗銀だろうがオリハルコンだろうが、防ぐことはできない。


 先ほどよりも弱い電流を再度『投影』して、今度こそ騎士の意識を刈り取る。殺さなくても良いのなら、出来る限り殺したくはない。


「……相変わらずだな、旦那」

「叔母さんみたいだ」


 唖然としている龍族2名だったが、俺から言わせればエリアルデ支局長の大出力の雷撃や、テンペスタさんやエアリアの繊細な操風系魔術の方がよっぽどうらやましい。『投影』は良く言えば『万能』だが、悪く言えば『器用貧乏』な能力だ。もちろんそれも1つの価値であることは分かってはいるが、隣の芝は青く見えるものだ。


 俺は2人の体表に特別強力な障壁魔術をかけて防御面を強化して、倉庫を出た。

 

 以後、俺を狙ってアルキドア兵が押し寄せることになるだろうが、その時は薙ぎ払うだけだ。こちらにはテンペスタさんにエアリアも居る。力によって暴虐を正当化してきたこの国だ。圧倒的な力の前に屈服するのなら、それもまた仕方のない事だろう。

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