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叛逆の皇女-15

「巻き込んでしまって済まなかった」


 エアリアの話を聞き終えた俺は、頭を垂れてエアリアに謝った。


 逃げ出しただけならともかく、第三者に迷惑をかけるとは……。障壁か結界を張って閉じこめておくべきだった、あのクソガキめ。


「頭を上げてくれ。それよりも、あの子をどうするか考える方が先だ。命を狙われている以上、放っては置けないだろう」

「ああ。アルキドア帝国が差し向けた奴らの他に、ギルドを通じて捕縛クエストが発注されている。カタリナ周辺はエリアルデ支局長が止めてくれたけど、他の支局まではどうしようもなかったらしい」

「だったら、見つけ出して保護する以外に方法は無いな」

「そうだな」


 そもそも見つけ出すことが至難の業なのだが。

 ただでさえ魔力耐性の高さゆえに探索魔術が作用しないってのに、認識阻害魔術まで身に着けているらしい。

 イタズラ好きもここまで来れば大したものだ。就寝時間前に逃げ出したカミラを探すのは、そういえば俺の仕事だった。


「だが、ハルトはそれでいいのか?」

「……? どういう意味だ?」

「カミラを匿えば、ハルトが危険に晒されるのではないか? くーちゃんはどうする。あの子にまで累が及ぶ可能性は十分にあるぞ」

「そうだな。その通りだ。普段ならくーちゃん最優先でもう少しドライな決断をしているだろうな、俺は。だけど、今回ばかりはそうもいかないんだ」


 あのクソお転婆小娘が、恩人・ローラ夫人の1人娘だから。

 それだけでなく、もう1つ理由がある。

 かつて、くーちゃんを守るためという大義名分の下、俺は城ごと帝都を吹っ飛ばそうとしたことがある。ローラ夫人やカミラを、俺は1度、切り捨てようとした。あの時点でローラ夫人の生死がどうだったのかは分からないが、仮に生きていたら、俺はあの時、大恩あるローラ夫人を殺すことになっていたのかもしれないのだ。

 もちろん、吹っ飛ばすのに使おうとした術式は、妨害されることが前提だった。そうやって注意を逸らす陽動だったのは間違いない。

 だけど、もし妨害が入らなかったら。

 或いは、妨害が不十分だったら。

 俺は、帝都を吹っ飛ばす術式をそのまま使っていたに違いなかったのだ。

 そのことが、強烈な後悔と共に俺を苛んでいる。

 負い目がある。恩がある。だからカミラを助ける。

 

 その結果くーちゃんに累が及びかねないようなことになれば、その時初めて、俺はカミラを切り捨てるという選択肢を採るだろう。


「あのクソガキは、恩人の娘なんだ。どうにかして助けたい。一応、根本的な部分からカミラを救うプランもある」


 俺のプランが上手くいけば、カミラの危機と一緒にくーちゃんや俺が今もなお持つリスクをも消すことができる。

 そして俺のプランは、カミラの利害とも一致する。

 だから、カミラを切り捨てるなんて残酷な選択肢を採る必要は、多分ない。


「私に何かできることはないか?」

「カミラを探して貰えるか。俺のプランは、カミラが生きてなかったら意味がない」

「分かった」


 魔術によるインチキができない以上、あのお転婆を探し出す手段は足を使った捜索に限られる。

 その点、エアリアは俺よりも優れている。

 俺は『投影』を使用して上空にとどまることはできても、梅宮さんみたいな自由な飛行はできない。『飛翔』のような細かい制御を必要とする魔術もあまり得意ではない。

 一方エアリアは『飛翔』の達人だし、そうでなくとも翼を使えば自力で飛行できる。『投影』で上空を跳ね回るよりも、よっぽど効率良く探すことができるだろう。

 エアリアには悪いが、ここまで来たらとことん巻き込ませてもらおう。


♢♢♢


 エアリアとの密談を終えて支局長室から出た。

 視線が突き刺さってきた。主に男性職員の。


 ああ、久しぶりだな、『これ』も。


 助けを求めようとエリアルデ支局長に目配せした。

 ニヤニヤされた。意訳:『自分で切り抜けろ』

 すがるようにハリカさんを見た。

 目をそらされた。意訳:『ごめんなさい、無理です』 


 支局の利用者達は、恒例行事と化した『これ』をニヤニヤしながら見守っている。


 ふぅ。

 とりあえず、魔力障壁を3枚展開。


「……私何かしたか?」


 凍った空気に耐えかねたエアリアが、小さな声で聞いてきた。


「いや、多分俺だ。巻き込まれないうちに帰った方が良い。命の保証ができない」


 まともに食らえば一発アウトな呪詛魔術とか飛んでくるし。


「戦闘か? だったら私も」

「いや、違う。そういう訳じゃない。だけど、とにかく危ないから帰った方が良い。俺なら大丈夫だから、お願いだから、奴らが爆発する前に帰ってくれ」

「……幸運を祈る」


 エアリアが支局を後にする。

 扉の閉まる音が、ゴングになった。


「さて、ハルト、分かってるな?」「殺す」「何でお前ばかり…………」「美女を全員独占しやがってぇ、ハルトぉぉぉ」


 ジリジリと近付いてくる男衆。

 

 先手必勝。

 俺は退路を完全にふさがれる前に、職員エリアを飛び出した。

 途中追うように放たれた戦術級呪詛魔術『邪魂』が俺の魔力障壁のうち2枚を破り、3枚目にヒビを入れたが、何とか直撃は避けられた。背筋が冷や水を浴びたように凍え、全身が粟立ったが。

 そろそろ本格的に呪詛対策しないと、俺近いうちに死ぬかもしれない。


「待てコラッ!!」


 追ってきたガタイの良い男の逞しい腕。腕などを掴まれてしまえば痣は確実だ。

 俺の首を狙って伸びてきたその腕を、俺は『投影』でばれない程度に加速して避けた。

 

 俺の肉体が持つスペックのギリギリまで使用して、一目散に支局から逃げ出した。そのまま右に曲がって男衆の視界から外れると、『投影』による疑似空間移動で支局の裏に転移し、高等魔術『天眼』で様子を伺う。


「アイツどこ行きやがった!」「チッ、逃げられたか」「美女とばっかりイチャイチャしやがって、今度という今度は殺す!」


 ……今日はもう戻れそうにないな。


 そう判断した俺は、こういう時のためにいつも懐に忍ばせてある有給休暇申請書をエリアルデ支局長の机の上に飛ばした。

 認識さえできれば『投影』による転移は可能と分かってからは、こうやって危険を回避しつつエリアルデ支局長に『逃げます』と意思表示できるから楽だ。


 エリアルデ支局長が申請書にサインをして、ニッと笑ったことを確認すると、俺は『投影』による疑似空間移動を連発して支局を離れた。


 ……女性さえ関わらなければ、普段はいい同僚なのになぁ……。


♢♢♢


 最近習得した高等魔術『天眼』は、『見ること』に特化した魔術だ。眼球が向いている方向に関係なく、ある一定範囲内の情報を『見る』ことができる術式で、『投影』との親和性が強い。

 特に座標書き換えによる転移の時に役立つ。

 俺の座標転移は移動先を認識していることが条件となる。例外的に人のすぐ後ろとか、認識できる範囲から大体1メートル以内であれば認識できていない場所へも跳べるが、例えば壁を隔てた向こうの部屋とか、そういうところへの転移はできなかった。しかし『天眼』を使えば、障害物を無視してある一定範囲を見ることが出来るので、この『認識の条件』を十分に満たすことができ、目視していない空間への転移も可能となる。


 日常生活はもちろん、戦闘においてもこの技術は役に立つ。建物や洞窟内での戦闘が格段にやりやすくなることはまず間違いない。

 アルキドア帝国に攻め入った時にこの『天眼』さえ会得していれば、失敗することは無かっただろう。敵兵と戦って余計な時間を割く必要も、『トール』による干渉の隙を与えることも、多分無かった。


 悔いは残るが、しかし結果的にはそれで良かったのかもしれない。1度失敗していなければ、国という後ろ盾を得ることはできなかったのだから。


 今回の俺のプランは、いかに大義名分を用意するかにかかっている。いかに正当性を確保するかにかかっている、とも言える。

 それがどんなに個人的な理由であったとしても、戦いを仕掛ける『正当』な理由があればいい。戦争の理由なんて何だっていい。どんなに些細でも、理由さえあれば戦闘は始まる。理由が無ければ作り出すことだってあり得る。その理由こそを国というものが重視するのは、何も俺が居た2050年代に限った話ではなく、それこそ2000年以上前から何も変わっていない普遍的な原理だ。この世界でもなおそれは通用する。ただ互いの正義を主張して、勝てば官軍、負ければ賊軍だ。


 そして、正義を主張するには対等な立場に居なければならない。この場合、アルキドア帝国に対抗するためには同様の『国』である必要がある。1個人の意見なんて言論統制でいくらでも歪められるが、国が発した意見は他の国を監察者とすれば歪めるのは困難だ。


 俺が国という後ろ盾を欲した最大の理由は、カミラの帝位簒奪を正当なものにするためだ。

 ストーリーはこうだ。

 条約違反と非人道的行為を理由に現皇帝に退位を要求。

 当然拒否するだろうから、『アルキドア国民の保護』を口実に宣戦。実際のところは魔境を隔てた国同士、直接的な戦争になることはあり得ない上に、魔境を超えるだけの実力を保持しているのは梅宮さんを擁する東方の国だけだから、俺や梅宮さんが少数で一気に首都を叩くことになる。

 で、皇帝と皇太子を捕える。魔神の力を振りかざして城全体を脅し、皇帝の所業を全て大っぴらにした上でカミラの皇位継承を発表する。

 カミラの話によれば、国全体で現体制への不満が募っているらしい。

 そりゃそうだ。魔魂石を作るために自国の民を犠牲にする統治者など、嫌われて当然だ。

 ならば、カミラが魔魂石の製造を完全に停止し、さらに投票なり何なりで皇帝の処刑を決めれば、民衆は一気にカミラ支持に傾くだろう。問題はカミラも現皇帝の血を引いていることだが、母親を殺されたエピソードもついでに流布しておけば多分問題は無い。そうなれば、絶対的多数を味方に付けたカミラの地盤は盤石となる。

 正当な手段を以て帝位に就き、地盤を固めたカミラは、その権力を使ってゆっくりと抵抗勢力を無力化していけばいい。

 それで、カミラの皇帝としての地位は『絶対』となる。


 ……歴史から学んで革命を考えるなんて、人生で初めて、世界史の勉強が役立った瞬間かもしれない。 


 もちろん不確定要素を多分に含むし、最大の問題点は国に圧力をかける主要な手段である軍事力が、俺であることだ。俺を主体に、ではなく、俺だけ。

 

 最高なのは民衆蜂起に乗じる形を取る事だが、それはあまりに運頼みが過ぎる。

 最悪の場合は俺が皇帝を殺し、カミラよりも皇位継承順位が高い奴らを脅して抑え込めば、まあ60%ぐらいは俺のプランも達成される。


 もうただ闇雲に殴り込んだりはしない。

 思考停止して力を振るっていればそれで全てが何とかなると思うのは脳筋のバカだ。

 本当にカミラを救いたいのなら、本当にくーちゃんを守りたいのなら、知恵も力も、持てる全てを尽くして事に当たるべきなのだ。

語り多めでした。

正月書き溜めも残すところ後1回分ですので、センター試験前後は次の話を投稿したらしばらく更新できません。悪しからず。


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