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叛逆の皇女-06

「治せない。ギリギリのところで命を繋いでいるけど、このままじゃ30分保たない!」


 平時であれば『大声で騒ぐアルベルトなんて珍しいなぁ』とでも思うところだったが、今は明らかにそんな呑気なことを言っていられるような空気ではなかった。

 何より、『治せない』という言葉が俺を戦慄させた。


「アルベルト、治せないってどういうことだ」

「以前君が運び込んできたジェラルド君は、オリハルコンで覆われていた部分こそ魔力耐性が高すぎて手を出せなかったが、生身の部分はそれほどでもなかった。だけどあの女の子は、オリハルコン程じゃないが、ジェラルド君の肉体とはけた違いの魔力耐性で魔術を拒絶してる。今は陣を最大出力にして何とかギリギリ命を繋ぐ程度に魔術を作用させている状態だ。僕の魔力じゃここまでが限界だから、エリアルデあたりに魔力を注入してもらわなきゃ、あの子は助けられない」


 早口でまくし立てたアルベルト。常にはないその慌てきった様子が、事態の深刻さを物語っていた。

 エアリアが慌てたように立ち上がり、泣きそうな顔をしている。


「強い魔力……、エリアルデ支局長ぐらいの魔力があれば、治せるんだな?」

「いや、それでもギリギリだ。致命傷を自然治癒可能なレベルに戻せるかどうか」


 だったら。


「どれくらいの魔力があれば完治させられる?」

「完治となると……、少なくともエリアルデの3倍は欲しい」

「分かった。俺が何とかする」

「君が? だけど、君の魔力量じゃ……」

「大丈夫。俺も『魔神』だ」


 それだけ言って、俺はアルベルトとの会話を打ちきり、エアリアに向き直った。


「エアリア、俺が戻ってくるまでで良い。あの子を保たせてくれ。頼む」

「了解した」


 エリアルデ支局長ほどではないにせよ、莫大な魔力を持つ龍族の若者であるエアリアなら、あの子の延命を行うには十分だろう。

 エアリアが事情をアルベルトに説明し始めたのを見て、俺は医院を出た。

 上空に転移してできるだけ人目を避けると、俺は『投影』による疑似テレポートを連発した。

 

 『投影』の使いすぎで脳に負荷がかかり始め、頭痛が生じる。

 俺は側頭部に手を当てて痛みに耐えつつ、カーテナが居る自宅にを目指した。


 盗賊の殺害を黙殺したばかりか隠匿までした俺が今更何を、と思わないでもないが、俺は目の前で失われゆく命を放置するのが堪らなく嫌だった。必要とあらば殺人もやむなしのこの世界では俺の価値観なんて生存の邪魔でしかないのは分かっているが、こればかりは俺の主観的な好みの問題なので仕方がない。

 人間死んだらお終いだ。

 だから俺は、『殺し』を好まない。殺さずに済ませられるならばできるだけ殺したくない。

 盗賊を引き裂き殺した俺にそんなことを言う権利は無いような気もするが、あえて言おう。


 命は尊い。人の命が軽いこの世界でも、俺はそう思う。


♢♢♢


 カーテナはくーちゃんの母親代わりであり、俺の唯一の武器であり、そして、俺の力を解放する鍵だ。

 カーテナが持つ『破戒』の力によって魔力を解放した俺は、飛行魔術『飛翔』と『投影』を併用して、往路の数倍の速度で医院に戻った。

 完全解放した俺の魔力量は、エリアルデ支局長のそれの5倍に達する。

 その魔力と、アルベルトが開発した魔力をそそぎ込むだけで多様な治療を行える魔法陣によって、少女は一命を取り留め、どころか全身の傷が完治するに至った。


 代償として、俺とエアリアは医院の待合室で、ソファーと一体化してへばっている。

 俺もエアリアも魔力の大半を持っていかれたのだ。心身ともに疲れ果てて、もうヘトヘトだ。知り合いのエリアルデ支局長の魔力量を想定して陣を構成するならまだ分かるが、エリアルデ支局長の軽く10倍以上の魔力を通せる術式を構築するなんて、あの男、一体何のつもりで術式を組んだのだろう。完全にオーバースペックじゃないか。

 どうせアルベルトのことだから、ノリだけで作ったんだろうけども。

 しかし、あの少女が助かったのはアルベルトが無駄性能を誇る術式を用意していたから、というのは間違いない。治療の際に垣間見た魔術への抵抗から何となく分かったのだが、あの少女は、恐らく『神の薬』でも治療できなかった。アルベルトが居なければ、より厳密に言うならば、アルベルトが作った術式が無ければ、あの少女は確実に死んでいた。


「ハルトさん、お願いごとがあるのですが」


 ばあやが浮かない表情で、待合室のソファーでへばっていた俺とエアリアの許に歩み寄ってきた。俺は半分意識を手放しかけていたが、直前で踏みとどまってばあやの呼びかけに応じた。 


「何でしょう」

「金髪のお嬢さんのことでございます。申し訳ないのですが、当院にはもうベッドの空きがありません。先に入院手続きをした御三方用の隔離部屋を用意した段階で、スペース的な余裕が完全になくなってしまいました」

「……受け入れられないってことですか?」

「その通りでございます。本当に申し訳ありません。週末に1名退院する予定になって居りますので、3日間だけそちらで身元を引き受けていただけないでしょうか。他の医院に移そうにも、この周辺の医院はここだけですので……」


 世知辛い。

 医療がまだまだ未発達なこの世界において、病院という組織は歴史が浅いどころか、創始からまだ100年すら経っていない。

 にもかかわらず、需要はある。

 結果起こったのが、慢性的な病院不足だ。

 診療所というか、回復魔術をかけてくれる治療所は数あるが、入院可能な病院の数は少なく、長時間をかけて行わなければならない治療は在宅で行うのが基本だ。


 無理を言って女性3人を受け入れてもらったのだから、その程度のお願いなら断る理由もない。


「構いません。特別にすべきことは無いんですよね?」

「容体は安定されていますし、3日であれば特段には必要御座いません。3日後改めてお迎えに上がるまで、どうかよろしくお願いします」


 深々と頭を下げるばあや。

 ばあやとて、患者を連れ込んだ側である俺に患者を押し付けるような真似はしたくないのだろう。表情が悲痛そのものだ。

 しかし、物理的な制約は如何ともしがたい。研究と診察を行うアルベルトとその他雑事全般を行うばあやの2人だけで運営している以上、人手も足らないはずだ。


 3日ぐらいなら、何とかなるだろう。隣の部屋にはエアリアやテンペスタさんも居るし、最悪の場合には大家のババァに頼み込んで空き部屋を借りよう。

 

 俺は大あくびをして、思いっきり身体を伸ばした。目を覚ますために伸ばしたのに、脱力してソファーの背もたれにもたれかかると、抗いがたい眠気が俺を襲い、抵抗するまもなく俺は眠りに落ちていった。


 エアリアと少女と朝帰りすることになりそうだが、確実にプッツンするであろうカーテナをどう宥めすかすかが、当面の俺の課題だ。

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