くーちゃん初めてのおつかい-01
「行ってきます!」
玄関先で、買い物袋片手に元気よく宣言するくーちゃん。
「はい、いってらっしゃい」
ニコニコと手を振る古の妖刀改め変態。
「どどどどどどどうしようどうしようどうしよう」
ワナワナと震え、露出が露見した露出狂より不審な様相を呈するのは、俺。
だってしょうがないじゃん!
くーちゃんが一人でおつかいに行くって言うんだもん!
そりゃくーちゃんが少しずつ自立していくのは嬉しくもあり寂しくもあり親代わりとしては本望だけども。だけども!
まだ早いあまりに早い時期尚早と言わざるを得ない。
どうしようどうしようくーちゃんが途中で暴漢なんぞに襲われたら不埒な盗人に襲われたら未成熟な少女に性的興奮を感じる真正のペドに絡まれたらどうしよう!
「落ち着け主様、くーちゃん不安がってるじゃないですか」
「痛い!」
カーテナに頭を叩かれた。
変態に、諭された!
「ハル、くーちゃん大丈夫だよ」
「くーちゃんもこう言ってるんだし、それに、どうせ並大抵の術じゃ破れない障壁だってあるんでしょう?」
「そうだけど、そうだけども!」
「だったら大人しく送り出してあげなさいこのダメ主」
あまりに不遜な物言いのカーテナだったが、客観的に論理の欠片もない駄々をこねているのは俺の方なので、何も言い返すことができない。
涙を呑んで、俺は声を振り絞った。
「……いってらっしゃい、くーちゃん」
「うん! いってきます!」
♢♢♢
心配過ぎて落ち着かず、どうしても動かずにはいられなかった俺は、せめてこの衝動を有効活用しようと、玉ねぎをみじん切りにしていた。刻みすぎてもうすりおろし玉ねぎと見分けがつかない。動きとしては、貧乏ゆすりに近いものがある。
我ながら何やってんだろうと思うが、止められないものはしょうがない。
今夜はくーちゃんが買ってくるひき肉とこの玉ねぎを混ぜてハンバーグだ畜生。
「さて、行きましょうか」
「どこへ?」
「決まってるでしょう。くーちゃんをこっそり追いかけるんですよ。くーちゃんが途中で暴漢やら盗人やら未成熟な少女に性的興奮を感じる真正のペドに襲われてもいいんですか?」
「……大人しく送り出せって言ったのお前じゃん」
「大人しく送り出せとは言いましたけど、追いかけるなとは言ってません。行きますよ」
言うと、カーテナはさっさと部屋を出て、外に飛び出していった。
……。
うん。
俺にはカーテナとくーちゃんの扶養者として、2人の面倒を見る義務があるよね。
いけないなあ、カーテナは。あんな風に飛び出して行っちゃ、俺が心配して追いかけちゃうだろう。本当にいけない子だなぁ、カーテナは。
そういう訳で、俺は『投影』によってエプロンを一瞬で脱ぎ捨てると、施錠する代わりに物理障壁を玄関口に張り、自分の座標を書き変えて外に出た。
♢♢♢
「あら、くーちゃん! お買い物?」
「うん! くーちゃん一人でお買いもの行くの!」
「まあ、そう! 頑張ってね。おばちゃん応援してるわ」
「くーちゃん頑張る!」
俺がくーちゃんを伴って買い物に行ったり、カーテナがくーちゃんを公園に連れて行くうちに、この辺りにも随分と知り合いが増えた。
くーちゃんは知り合いのおばちゃんだのおじちゃんだの、道行く幾人もの親切な人達に声をかけられ、元気よく応対している。
其れ号して天使と云ふ也。
「主様、向こうの茂みに座標転移してください」
「了解」
くーちゃんに見つからないよう茂みから茂みへと自身の座標を書き換えてジャンプしつつ、密かに見守る俺とカーテナ。
カーテナが見繕った次なる物陰へと空間移動しようとしたその時。
「ちょっと君たち」
後ろから声をかけられた。
恐る恐る振り返ると、そこにいたのは軍服のような服に身を包んだ男。俺が元居た世界でいうところの警察に相当する権力機関所属と見られる制服だった。
「小さな女の子を茂みから覗いてる変態が2名居ると通報を受けた。詰め所まで来てもらおうか」
「私達は変態じゃありません。小さい女の子? 何のことですか?」
カーテナはあくまでも冷静だった。
ところで、今のカーテナの発言には、一つだけ、絶対に譲れない部分があった。口には出さないが、心の中で思う分に構わないだろう。
カーテナ、お前は変態だ。俺が保証する。『魔神』の全力で保証する。
「買い物袋片手にはしゃいでいるあの女の子のことだ。本官は現場を目撃している。言い逃れはできんぞ」
「誤解です。私達は真っ白な髪の天使の如く神々しいキュートな女の子なんて見てません」
訂正、そんなに冷静じゃないかもしれない。
「ならばわざわざ身を隠すようにしてまでここで何をしていた」
「そ、それは……、えと…………………、主様と愛のいとなヘブッ」
余計なことを口走りそうになったカーテナに重力場を『投影』して発言を強制的に打ち切った。
アホかお前は。どっちにしても捕まるに決まってんだろうが。
俺は言い訳を試みることもなく、練り上げた座標書き換えのイメージを『投影』し、警察の犬から逃れた。
転移先は、少し離れたところにある、植え込みの陰。ここならあの警察の犬の動きも終えるし、何よりもくーちゃんの姿をバッチリ見ることが出来る。
しかし、どこのどいつだ。
あろうことか、天使(実際は神)であるところのくーちゃんをただ遠くから見守って愛でるだけの俺たちを変態として通報した馬鹿野郎は。
カーテナはともかく俺が変態な訳がない。
「あら、くーちゃんじゃない。こんにちは」
「こんにちは!」
ああ、くーちゃんは可愛いなあ。
ほのぼの。シリアス化する予定は……今はありません。




