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魔神来襲-11

 俺が宮廷魔術師を優先的に潰していたのは、ひとえに魔装の起動、特に、『トール』の起動を防止するためだった。

 トールは人間よりも圧倒的に強力な龍族を、人間が討つために作られた、龍殺しに特化した魔装だ。機体は強度を増した魔抗銀製で、魔力障壁発生機能と相まって魔術への耐性は尋常ではない。いつだったか、ギルド支局で暴れた馬鹿が持っていた魔封筒に類する機構を持ち、予め強力な魔術を装填することで強力な魔術攻撃を放つ機能を持ち、龍族の魔力に共鳴して魔術の発動を阻害するジャミング攻撃や人化した龍族を識別する専門的な探査能力を備え、そして、今俺に放たれたような、強力な魔術砲を持つ。

 龍族どころか国一つ滅ぼせるんじゃないかと思う程の性能を備えた機械の化け物。


 今、その化け物は、赤いサーチライトのような目を俺に向けていた。


「確かあれはあなたが実用化した兵器でしたね」


 現在の筆頭宮廷魔術師だという男は今にも笑い出しそうなほど愉快な調子で言う。


「その兵器が最初に手をかける相手が貴方だというのですから、皮肉な話ですねえ。さて」


 男は懐から表面に簡易的な通信魔術の陣が刻まれたカードを取り出した。


「トルネ、聞こえていますね。国賊を殺しなさい」

『了解』


 空間移動系の魔術を発動した男は虚空へと掻き消えた。

 直後、ギチギチと歯車がかみ合う不快な音が響き、轟音と共に宮廷の天井が崩落した。


「チッ」


 俺は自身の座標を瓦礫の隙間を縫うように『投影』して瓦礫を避け、気流を捜査して体を浮かべた。


 屋外に出ると、宮廷に張り付いていた『トール』の全容が目に入る。

 銀色の装甲を纏った、細いシルエットの人型。頭部はさながらしゃれこうべのようで、目にあたる部分が妖しい赤い光を放っている。

 

 そのしゃれこうべの口が、がぱっと開き、光を放ち始めた。

 そう認識した直後には、俺の腕は勝手に動いていた。


『主様! ボーっとしないで!』


 数分前と同じ魔術砲が口から放たれ、『破魔』を纏ったカーテナと拮抗。加速に使われていた魔術を完全に打ち消されてただの鉄球に戻ると、重力に引かれて自由落下していった。


 間髪入れずに『トール』の口元が光る。


「ほとんど溜め無しかよ!」


 俺が実用化した段階の『トール』にはこれほどの威力を生み出すことはできなかった。俺が東へ旅立って以降、何らかの手が加わったことは間違いない。


 恐らくは、魔魂石。


 そう思考を纏める間にも、2発目、3発目が次々と放たれ、カーテナを使って抑える。カーテナが打ち消すよりも魔術砲の方が若干ラグが短いようで、受け止めるうちに徐々に余裕が無くなっている。


 一発一発受け止めていも埒が明かない。

 しかしこんな砲撃が市街地の方向に流れれば、何十人の人が死ぬか分からない。


 ジリ貧の中、俺は突破口を見出した。


「カーテナ、人化しろ! 砲撃を叩き落とせ!」

『はい!』


 カーテナが強い光を帯び、その形を変えていく。当然その間『破魔』は使えないので、代わりに魔力障壁と物理障壁を何十枚も重ねた壁を形成し、魔術砲を抑え込む。

 しかし、相手はカーテナが打ち消しきるまでに2秒を要する砲撃。俺の魔力障壁は次々とガラスが割れるような音と共に次々と砕かれ、速度こそ落ちたものの、それなりの勢いを保って砲撃が迫る。 

 さらにそこに、駄目押しの追撃。

 既に破れた障壁は何の意味も為さない。 


 最後の一枚、特に厚く作り込んだ障壁にヒビが入ったその瞬間。

 

「ハッ!」


 人化を完全に終えたカーテナが、緑色の光を纏った腕で砲弾を殴りつけた。

 気流で作った見えない足場が衝撃で揺らぎ、俺は慌てて追加のイメージを『投影』して安定を保った。


 続けて迫る砲撃を、カーテナはその細腕で次々と叩き落としていく。


 そうして生じた余裕を使って、俺は神級魔術、『神の雷』を発動した。

 黄色い光を放つ魔方陣が上空に形成され、恐ろしく太い稲妻が空気を断ち割って『トール』に降り注いだ。


 熱膨張による衝撃波と烈風が生じるも、俺は物理障壁を展開してそのすべてを遮断した。


 稲妻は実に3秒近く続き、放射された莫大なエネルギーは空気すらもプラズマ化して強い光を放つ。


『無駄です。この機体の魔力耐性はあなたが一番御存知でしょう?』


 突然響いた拡声器で大きくしたような不自然な広がり持つ声は、かつて敵対した宮廷魔術師、トルネのものだった。

 続いて操風系魔術が発動し、プラズマ化した空気も、舞い上がった砂煙も、すべてが吹き飛ばされる。

 光の中から現れたのは、傷一つ無い『トール』だった。


「チッ……カーテナ、30秒、いや、20秒だけ時間を稼いでくれ」

「はい主様!」


 『飛翔』をカーテナにかけ、限定的ではあるが飛行能力をカーテナに付与する。持続時間は30秒程度だが、しかしそれだけあれば十分だろう。


 砲撃音と砲撃と拮抗する『破魔』の音が炸裂する中、俺は目を閉じた。

 カーテナ、頼むぞ。


 深く深く、集中する。


 空間を繋げる術式、『結合コネクト』を発動。ここより数百キロ離れたところにある海と接続し、莫大な海水を召喚する。

 そこについさっきも使った神級魔術、『神の雷』を落とす。

 海水はつまりは塩化ナトリウム水溶液。正電荷を持つナトリウムイオンと負電荷を持つ塩化物イオンが存在し、電子を運ぶ媒介となる。

 目的は水の電気分解。

 それによって得られる莫大な水素。

 重力場を『投影』。酸素や塩素などの余計な物質は排除して、水素のみを一点に集約。外側から圧縮、圧縮、圧縮。

 核融合が始まり、熱と光が水素の塊から放射され、あたりを強く照らす。

 疑似太陽生成術式『レーヴァテイン』。

 俺のイメージで実現できるのはここまで。

 この疑似太陽を解放するだけでも王宮を中心とした広範囲を舐め尽くす爆発を引き起こすこともできるが、それは俺の本意ではない。殺す必要の無い人まで巻き込むつもりは毛頭ない。

 

 バレーボール程度の小さな太陽の両サイドに手をかざす。


 神級魔術、『神の力』を発動。単純な加圧術式だが、神級魔術故に、その力は人知を超越する。内側から生じる圧力によって膨張しようと抗う光の球を、さらに極限まで押しつぶしていく。

 発生し始める光すら逃さない重力を魔術で制御し、安定させる。

 

 疑似ブラックホール生成術式『ラグナロク』。

 今の俺に使い得る最強の術式だ。


 このBB弾程度の小さな玉を形成・維持するだけでアホみたいな魔力を持っていかれて、魔力量にはかなり自信のある俺も肩で息をする始末だ。

 効果範囲はこの小さな黒い球の体積分だけ。

 しかし、この小さな黒い球は、それがこの世界の物質である限り、あらゆる防御を許さない『絶対』となる。


 後は放つだけという、その時。


「っ!?」


 異変が起きた。

 

「な、あ゛……」


 突然体から力が抜けた。

 ぐわんぐわんと目の前が揺れ、意識の集中が困難になる。


『時代は進んでいるんですよ、ハルト。かつては龍族だけを対象に取っていた魔術ジャミングも、ライオネル閣下によって改良されて、この通り、龍族以外も対象に取れるようになりました。魔術師は全て、このトールの前では無力です』


 混濁する意識の向こう側で、嘲るような口調のトルネの声が聞こえる。


 眩暈はその強度を増していき、遂にギリギリのところで保っていた『ラグナロク』の制御術式が揺らぎ始めた。


 もし制御術式が破られれば、後に待っているのはホーキング輻射か、ガンマ線バーストか、それとも無限の重力か、高校物理で止まっている俺には想像もつかない。

 いずれにせよ、ろくなことにならないのは間違いない。


 後悔先に立たずとはよく言ったものだ。

 魔術は神級のそれですら無効化される。『投影』による物理的手段に出ようにも、俺のイメージ力(周辺一帯を焦土に変えないという条件付き)で可能な範囲内の攻撃は、全てあの砲撃の前に塵と消えるだろう。

 だからこそ、俺は範囲を限定しつつ最強の攻撃力を誇る『ラグナロク』を持ち出した。

 しかしまさか、あのジャミング回路を対人仕様に変更していなんて、欠片も考えていなかった。

 予測していれば、こんな諸刃の剣は使っていない。


 無知とは恐ろしい。

 科学の無い世界に生きるトルネは、俺の術式を壊すことで生じる影響など微塵も理解していないだろう。ジャミングによって、確かに魔術師である俺を無力化することはできるかもしれないが、同時にこの世界をまとめて滅ぼすことになるかもしれない。


 ああ、まずい。


 制御術式が、解けていく……

Wikiと専門書とお友達の力でこの話は成立しました。

捕捉しておきますと、本編では長くなるので省きましたが、疑似太陽のエネルギー原である水素は魔術で補充しまくってます。

ローレンツ力ならまだしもブラックホールは理解の範疇外なので、何か致命的な物理学的な破綻があっても、『魔術だから』で押し通しますので悪しからず。

取り返しのつく破綻でしたら是非とも指摘してくださいませ。検討して反映します。

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