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魔神来襲-09

 眼下に広がる街並みに、俺は目を凝らす。

 もう深夜だというのに、今だ止まぬ喧騒。魔術によって灯された街灯に、夜を楽しむ人々。

 アルキドア帝国の首都は眠らない。


 中央に堂々たる偉容を見せつける皇帝の居城がある。少し前にテンペスタさんがキレてぶっ壊したはずだったのだが、既に傷痕すら見られない。大方魔術を用いて修復したのだろう。外聞だけはやたらと気にする皇帝だったし。

 

 国家としての機能は全てあの城に集中している。長たる皇帝を筆頭に、皇帝を補佐する官僚や元老、最高戦力である宮廷魔術師の全てはあの城の敷地内で生活している。

 つまり、あの城を滅ぼせば、アルキドア帝国は国家としての機能を全て失う。


 『神よ、何故私をお見捨てになったのですか(エリ・エリ・レマ・サバクタニ)』。


 広範囲殲滅神級魔術の陣を俺は展開した。莫大な魔力は光となって夜の街を照らす。今度は脅しではない。


 一瞬、脳裏をアルキドア帝国に所属していた時代の友人達の顔が掠めた。


 俺は、躊躇わない。躊躇わないと決めた。


 陣が一際強く輝く。この光が最高潮に達したとき、アルキドア帝国は国としての一切の機能を失うだろう。

 大勢の命も、また。


 しかし、あと少し、ほんの数秒で術式発動というタイミングで、事は起きた。


 白い光を放つ巨大な魔法陣の表面に、カビのような赤い光が走る。複数箇所から同時多発的に生じた赤い光はその数を増し、魔法陣を覆っていく。さながら金属が赤錆に覆われていく様子を早回しにしたように、魔法陣が赤い光に蝕まれていく。


 やがて魔法陣は完全に覆い尽くされ、甲高い音と共に四散した。


 誰の仕業か、言うまでもない。


「やるね。さすがは宮廷魔術師。カーテナ、『破魔』の用意を」

『はい!』


 地上に魔力の光が瞬き、俺めがけて次々と射出される。

 その全てが高等魔術か神級魔術だ。


 カーテナを振り回しつつ、俺は魔術の弾幕のど真ん中へと飛んだ。


 緑の光を帯びたカーテナが接触すると瞬時に魔術は壊れる。魔術の残滓や威力の低い魔術は魔力障壁で食い止め、俺は弾幕の中を突き進む。


 『投影』した暴風をブースター代わりに、近付く地面を前にさらに加速すると、俺は10名程の魔術師達が陣取るど真ん中に着弾した。


 衝撃に負けて一瞬怯んだ隙を逃さず、俺は手近の魔術師にカーテナを振り下ろす。

 何らかの障壁が作用しているのか、『破魔』を纏ったカーテナでは思うように刃が進まない。皮一枚を切り裂いた程度のとこらで刃が止まったので、俺は力付くで魔術師を蹴り飛ばし、他二人の魔術師を巻き込んで吹き飛ばした。

 着弾の衝撃で生じた穴から『投影』した磁力で砂鉄を収集。還元分解を行い、パチンコ玉程度の鉄球を得る。

 その間にも残った魔術師が陣を組み上げていくが、俺は陣の完成より早く鉄球を磁力のレール上に乗せ、電流を『投影』した。

 音速に倍する速度で空を裂く鉄球は展開された陣を素通りし、魔術師達の身体に次々と突き刺さり、意識を、或いは命を刈り取っていく。


「こんなもんか。カーテナ、人化して」


 カーテナの刀身が光に包まれ、手を離すと形を変え、いつも通りの人の姿に変わった。


 『神よ、何故私をお見捨てになったのですか』を一度防がれた以上、同じことをしても魔力の無駄遣いになる可能性が高い。

 あれより強力な術式といえば『レーヴァテイン』や『ラグナロク』があるが、あまりにも威力が高すぎて、制御しきる自信がない。かといって威力の小さい術式では破られてしまう。

 方法は一つ。

 

「城に入って1人ずつ殺す。気を抜くなよ」

「……本当にいいんですか?」

「……くーちゃんの安全は全てに優先する。元はと言えば、俺が蒔いた種だ。俺が片付ける」

「主様が、そう仰るのであれば」


 カーテナが『破戒』を纏った右手で城壁を撫でると、城壁の表面を覆っていた物理障壁と魔力障壁が、部分的にではあるが、消滅した。

 さらに『破断』に切り替えて拳を叩き込むと、破砕音と共に城壁に人一人ぐらいならば軽く通過できる穴が開いた。


 皇帝と皇太子、元老を何人か、あと今の筆頭宮廷魔術師に騎士団長。これだけは殺す。彼らがこの国の政治的軍事的中核である以上、彼らが揃って死ねば、この国は戦争を行う余裕を失う。

 

 身も心もボロボロになった俺を救ってくれたのはくーちゃんの存在だった。それを奪うというのなら、俺はお前たちを絶対に許さない。地の果てまでも追いかけ、必ず息の根を止めてやる。


♢♢♢


 リアナ公国とアルキドア帝国の国境にほど近いある村の民家に、旅装の男と紅い巻き毛を持つ少女は滞在していた。


「!! ユウヤ様!」

「……この魔力……彼だね」


 どこか遠いところで、強力且つ個性に乏しい、無属性に限りなく近い魔力が放出されたことを、2人は敏感に感じ取った。

 

「探知できました! いつでも案内できます!」

「よくやった、アスカ。やれやれ……、王が言った通りになっちゃったな」


 旅装の男は手早く荷物を纏めると、綺麗に包装された小箱片手に奥で洗い物をする年老いた女性の下に向かった。


「僕たち用事が出来てしまったので、今日はこれでお暇させていただきます。夕飯ありがとうございました」

「あら、遠慮しなくても良いのに。こんな時間なんだし、泊まっていってくれてもいいのよ」

「すいません。僕たちもできればそうして行きたかったんですけど、何分急な用事で。本当にありがとうございました。これ、地元のお菓子です。良かったら娘さんと一緒に食べてください」

「あら、悪いわねぇ。あまり長々と引き留めても悪いわね。それじゃ、気を付けて」


 旅装の男と紅い巻き毛の少女は家を後にし、星が瞬く夜の山道に入って行った。

 

「アスカ、彼の方向は?」

「概ね西の方向です。距離を考えると……、多分、アルキドア帝国の首都、でしょうか」

「首都……なるほどね。さすが、若いなぁ。おじさんにはそんなアグレッシブな真似できないな」

「ユウヤ様はまだまだ十分お若いです」

「君に比べればそうかもね」


 古より存在し続ける、意思を持つ刀剣。それが紅い巻き毛の少女の正体だ。見た目は少女でも、蓄積してきた年月は旅装の男の比ではない。


「……急いだ方がいいかもしれないな。どうも嫌な予感がする。アスカ、飛ぶぞ」

「はい!」

 

 差し出された旅装の男の手を、紅い巻き毛の少女は嬉々として取った。

 直後、2人の周囲に竜巻よりもさらに激しい気流の渦が生じた。

 渦は2人の身体を浮かび上がらせていき、空を覆う林冠よりも高い位置に達したその瞬間、砲弾のように2人を射出した。

 障壁の力か、身体を持ち上げる程の暴風の中に居たにも関わらず2人の衣服ははためくことはなかった。

 手を繋いだ2人を、上昇気流や水平に流れる通常の気流などが複雑に絡み合った『風』が包む。風は2人の身体を安定した姿勢のまま滑るように運んでいく。水平方向の風は徐々に速度を増していき、やがて2人は音速を超える寸前にまで至った。


 2人は突き進む。

 魔王が『予知』した悲劇を回避するために。

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