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魔神来襲-06

「どうしてこうなった……」


 俺は頭を抱えた。


 危ういところまで着物をはだけ、俺に絡みつくようにして眠るエリアルデ支局長。

 俺の腕の中で爆睡する愛らしいくーちゃん。

 エリアルデ支局長とは反対側から俺に絡みつき、ときどき「主様~、私を食べて~」等とふざけた寝言を漏らすカーテナ。


 エリアルデ支局長がヤバイ。何がヤバイって、このままだと色々ポロリしてしまいそうなのがヤヴァイ。


 動きたい。動きたいが、ここまで気持ちよさそうに寝ている御三方を起こすような真似はできればしたくない。まあ、カーテナはどうでもいいにしても、くーちゃんとエリアルデ支局長に関してはこのまま起こさずに何とかしたいものだった。

 大体動こうにも腰のあたりをがっちりホールドされているので、動くに動けない。エリアルデ支局長は動いたら着物がずり落ちてしまいそうだし。


 さて、どう動くか……。


♢♢♢


「うまい! ハルよ、これはどういう料理なのじゃ?」


 やっと完成した自家製醤油と刺身をメインに、自家製味噌と魚介の出汁をフルに活用した味噌汁、圧力の調整によって艶を増した白米という、これぞ『和』な食事を俺はエリアルデ支局長に供した。

 思いのほか好評だ。


「日本食、俺の故郷の料理ですよ」

「ニホンショク……? 終ぞ聞いたことが無いの」

「でしょうね。この世界では、作れるのは俺の他には多分1人だけでしょうし」

「滅んだ文化の料理、ということか?」

「そんな感じです」

「ふむ」


 エリアルデ支局長はズズっと味噌汁を啜った。

 見た目はかなり日本人に近いものがあるエリアルデ支局長と日本食の組み合わせは、本人は全く気付いていないだろうが、ピッタリだった。

 

「前から気になっておったのじゃが、汝は、一体どこの国の出身なのじゃ? 黒髪黒目というのは、そうは居らん」

「黒髪黒目以外の人の方が珍しいぐらい、黒髪黒目の人に溢れた国があったんです。俺はその国の出身です。またいつか、お話しますよ」


 言外に「今は言えない」と伝え、俺は話を打ち切る。

 俺はまだ、1人を除いて、誰にも、それこそテンペスタさんにも、カーテナにも、異世界から来たということは言っていない。

 言う踏ん切りがつかないのだ。

 いつかは言わねばと思ううちに、ずるずるとここまで来てしまったが、未だ覚悟は決まらない。


「くーちゃん、これは味噌汁っていうスープなんだ。おいしい?」

「くーちゃんこのスープ好き!」


 日本食を食べさせて育ててきた成果が着実に実ってきているようだ。くーちゃんの舌は既に俺同様日本的に慣らされてしまっている。じきに出汁を利用していない雑味な料理では満足できなくなる出汁文化の申し子となるだろう。


 満面の笑みで鮮魚を頬張るくーちゃんを見ていると、くーちゃんの横で、浮かない表情のままちびちび食べているカーテナが視界に入る。


「どうしたカーテナ、口に合わないか?」

「……おいしいです」

「じゃあどうしてそこまで不機嫌なんだ?」

「……主様が……」


 カーテナは箸と食器を置いて叫ぶ。


「こんな泥棒猫、いえ、泥棒トカゲを家に連れ込んだりするから!」


 カーテナがエリアルデ支局長を指差して叫ぶ。


「何度も言うておるのに。妾は泥棒猫でも泥棒トカゲでもない。ただお前の主に礼を言いに来たのじゃと。ハル、おかわり」

「了解」


 エリアルデ支局長は嘆息気味に言葉を漏らし、空になった茶碗を俺に差し出した。


「じゃあどうして主様が何でもない日にあなたの匂いを全身から漂わせて帰ってきたんですか!? どうせいやらしくその豊満ボディで主様に迫ったんでしょ!? この変態トカゲ!!」

「何を言うかと思えば……。魔獣討伐のためにハルに運んでもらったんじゃよ。それに妾が変態トカゲだというのなら、汝は変態金属じゃろう、このド変態」


 俺は「俺に直接接触していることが条件」と説明した上で手を差し出したのに、それを拒否して背中におぶさってきたのは、どういうことなんでしょうね。

 とは、言うまい。

 言えば変態カーテナが面倒なことになるのは目に見えている。

 

「言うに事欠いて……私を変態などと……」

「いや、お前変態だろ」

「なっ!?」


 何で驚いてるんだよ。お前どう考えても変態だろ。

 変態じゃなきゃ、どうして重力場に捉えられて喜ぶのか。電流流されて悶えるのか。主のズボンを脱がそうとするのか。

 今までの行動のほぼ全てがこいつの性質を端的に物語っている。

 カーテナは変態である。


「く、くーちゃん……」


 我が天使に救済を求める変態カーテナ。しかし、変態カーテナに与えられたのは無慈悲な断罪だった。


「テナちゃんはへんたいさん?」

「ぐあ」


 純真無垢なくーちゃんに言われるのは相当なダメージだっただろう。無邪気な分、悪意がない。故に本心である。

 まあ、多分くーちゃんは「変態」の言葉の意味を分かっていないのだろうけど。教えてないし。


「ぐ……、やりますね……。この古の妖刀・カーテナに、ここまで強烈な精神的ダメージを与えるとは……」

「汝は自身が変態であることを自覚しておらんかったのか?」

「てっきり理解した上での行動だと思ってたわ。まさか天然だったとはな。お前昔は最強クラスの魔導士だったとか言ってたけど、本当は遊び人か何かだったんじゃね?」

「ぐおっ」


 かなりの精神的ダメージを受けたらしいカーテナは、フラフラと立ち上がると、部屋の隅に置いておいた、エリアルデ支局長推薦の酒瓶を掴んだ。

 何をするつもりなのかと思って見ていたら、『破断』で瓶口を切り裂いて、中身をラッパ飲みし始めた。


「おい! カーテナ!」


 アルコール度数は知らないが、あんな勢いで酒を飲めば、普通に急性アルコール中毒の危険がある。

 本質的に刀剣であるカーテナだが、人化した状態では肉体の性質は人と変わらないのだ。どんな影響があるのかは未知数だが、危険には違いない。


「なんれすかー?」


 やっと瓶口から口を離したカーテナは、既に出来上がっていた。

 アルコール回るの早すぎんだろ。

 ともあれぶっ倒れるようなことはないようで、それだけは幸いだった。


「やれやれ、ヤケ酒か。あとで飲むつもりだったのに……。ハル、グラスを出してくれんか。確保しておかんと全部飲み干んぐ!?」


 俺は一瞬、我を失った。

 どうやら人間、予想外過ぎる事態に遭遇すると、脳が機能を停止するらしい。

 目の前で起こっている事態を簡潔に表現するのならば、こうだ。


 カーテナがエリアルデ支局長にキスをしている。

 微かに水音を立つ。カーテナが舌を入れているのか、かなり淫靡なキスだ。


 あれ? カーテナお前男でも女でもどっちでもいいの?


「っ、貴様! 何を……あれ……?」


 何とかカーテナを引きはがしたエリアルデ支局長だったが、どうも様子がおかし

 紅潮した頬、揺れる瞳。

 フラフラと、上半身が揺れる。ソファーにもたれ、体重を逃がさなければ安定して座っていることすらできない様子だ。

 この様子は、まさか……。


「ふへへ、どーでしゅかー? おしゃけはおいしかったれしゅかー?」


 口元を拭い、普段では決してありえないほど幼い、というか舌足らずな言葉を発するカーテナ。

 口移しで酒を飲ましたな、コイツ。


「ハル、エリちゃんもテナちゃんもどうしちゃったの?」

「子供は飲んじゃいけないジュースを飲んじゃったんだよ。飲むと気分が良くなってあんな風になっちゃうんだ。くーちゃんはまだダメだからね?」

「はーい!」


 とりあえずカーテナを大人しくさせて、体内のアルコールを分解するところから始めよう。明らかに悪酔いしているカーテナを放っておくわけにもいかない。

 エタノールをダイレクトに水と二酸化炭素にまで分解できたらいいのだが、そこまでのイメージを練ることはできない。どうしても時間はかかってしまうが、順を追って酸化していくなさそうだ。

 カーテナ、貴様は後でお仕置きだ。

 

 重力場は必要ない。ここまでベロンベロンによったカーテナなら、電流をちょっと流してやれば一発だろう。

 

 俺は『気絶で済む程度の電流』のイメージを慎重に練り上げるため、目を閉じて集中しようとした。

 普段のように大雑把な制御で良いのならば集中する必要はないが、今回は酔っ払いが相手だ。強すぎたら人化して生身のカーテナが死ぬかもしれない。逆に弱すぎたら気絶しない。


 しかし、どうやら俺はそんな気をまわしている暇があったら即刻カーテナを重力場で捕えるべきだったらしい。


「目を瞑って、何を考えておるのじゃ?」

「おわっ」


 エリアルデ支局長が酔っ払って、俺にしなだれかかってきたのだ。 

 さらに俺の首に手を回し、頬を擦り付けてくるエリアルデ支局長。

 ……背中に押し付けられるこの柔らかい感触は、まさか。

 

「エリアルデ支局長!? ちょっと、近いですって!」

「別にいいじゃろう。妾と汝の仲ではないか」


 上司と部下の仲にこんなのが含まれてたまるものか。含まれてたらセクハラは成立しない。

 やたらと上機嫌なエリアルデ支局長。ていうか、アンタ酒弱いのかよ!


「あー。あーあーあー。このどろぼーとかげ! 私のあるじしゃまに何しゅんの!」

「ぐおっ」


 そこにカーテナまでもが加わる。

 タックルの如く突進し、横から腰に抱き着く。『破断』を纏う余裕が無い程酔っ払っていたのは不幸中の幸いだ。重力場を『投影』するような余裕は俺には無かったから、もし纏っていたら、俺の上半身は下半身と別れを告げることになっていただろう。

 

「くーちゃんも!」


 俺たちが遊んでいるとでも思ったのか、天使・くーちゃん参戦。

 俺の正面から抱き着き、エリアルデ支局長が頬を摺り寄せる側と反対側の肩に頭を預け、小さな体でひしと抱き着いてくる。


 う、動けん。


「ちょっと、3人とも、離れて、苦しい」

「嫌じゃ」

「嫌でしゅー」

「や!」


 くーちゃんはともかく、2人とも完全に出来上がってやがる……。


 やむなく俺は魔術に頼ることにした。

 使用するのは、高等催眠魔術、『優しき眠り(ヒュプノス)』。

 魔力量が限られている現状、このレベルの魔術を使うと大変疲れるのだが、低級魔術ではかなり強い魔力耐性を持つ3人には効かないだろう。

 本来くーちゃんの魔力障壁は神級魔術でも防ぎきる性能を持つが、敷設者の俺が接触していれば問題なく透過できる。


 しかして、俺の周囲に、濃紺の魔方陣が展開された。

 魔方陣の範囲内の眠り得る全ての生命体を眠らせる『だけ』の魔術だが、効果がその一点に絞られている分、非常に強力だ。

 

 青い光が一瞬輝き、酔っ払い2人と天使の身体を包む。


 これで3人は今、心地よい眠りに就いたはずだ。


 一番不安定な体勢だったエリアルデ支局長がずるりと滑り落ちるのを、俺はすんでの所で受け止め、ゆっくりと床に着地させた。

 しかし、やはりやはり強力な魔力耐性が魔術の効きを若干ながら鈍らせているのか、エリアルデ支局長は上体を起こし、寝ぼけ眼で周囲の様子を伺い始めた。

 そして俺の腰に抱き着くと、そのまま俺に体を預け、コテンと眠りに落ちた。

 

 物語は、冒頭に戻る。

ほのぼの回

どこかで描写の矛盾が起きてるかもしれませんので、書き直す可能性があります。

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