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くーちゃんとの生活-03

「ただいまー」

「あ、ハルだー、ハルが帰ってきた!」

 

 くたくたに疲れて我が家たるアパートに帰り着くと、マイエンジェル・くーちゃんが満面の笑みで俺を出迎えてくれた。

 くーちゃん分を摂取した俺の身体にエネルギーが漲り出した。


「くーちゃん、ハルが帰ってきたら何て言うのかな?」

「ただいま!」


 ああ、くーちゃん、可愛いけど、『ただいま』じゃなくて『おかえり』だよ。


「あ、間違えた、おかえり!」

「よくできたね、くーちゃん」


 いつものごとく頭を撫でてやると、くーちゃんは幸せそうに目を細めた。力を入れ過ぎてしまうと生えかけの角に手が当たり、くすぐったがって逃げてしまうので、加減は慎重に。


「主様、私にもなでなでをーー……へぶっ」


 奥から金色の光を曳きながら飛び込んできた女を、俺は『投影』によって発生させた重力場に捉え、垂直方向に叩き落とした。


「あういああ(主様)……、いあいえう(痛いです)……」

「お前の突進は命に関わるっていつも言ってるよな」


 見た目十五歳程度、金髪碧眼の少女は、床と熱烈なキスをしつつ、もがもがと何か言っている。

 しかし慈悲をかける必要はない。

 

 ところで、俺が神殺し、つまり事実上の追放を命じられた日、俺はアルキドア皇帝から一振りの剣を頂いた。

 もちろんアジア系の特徴を持つ人々も居るが、どちらかと言えば洋風な形質を備える民族が中心のこの世界には『和』の文化はほぼ存在しない。にも関わらず、その剣はどう見ても日本刀そのもので、刀身の側面に浮き出る板目のような紋様が見る物の怖気を誘っていた。さらに驚くべきことに、俺の懐かしき故郷、日本の地名の一つ、『嘉手納』という銘が彫られていた。この世界に『嘉手納』という単語は存在しない。何となく、俺は不気味に思ったものだった。

 そんな第一印象は実際正しく、その剣は皇室に代々伝わる妖刀だった。

 それも、主に『所有者となった者』の血をすする、いわくつきの。

 当時の俺はそんなことなんざ知る訳もなく、喜び勇んで貰った刀を背中に吊って神殺しに出かけたわけだ。

 道中、俺は妖刀が妖刀たる由縁を存分に思い知った。

 魔獣が現れて戦闘になったとき、妖刀は、刀を握る俺の腕の制御を奪って俺自身の首を落とそうとしてきたのだ。とりあえず目の前でハッスルしていたキングボア(でかい猪)を『投影』による遠隔攻撃で天の神様の下に送り届け、これまた『投影』によって腕の制御を取り戻し、更に頂いた刀を徹底的に折檻して、遂に刀に憑りついていた、というか、刀の核にされていた古の魔導士の魂を表に引きずり出すことに成功した。

 それが今アパートの床とハグしているこいつ、『カーテナ』だ。

 ちなみにさっきの金色の光は、こいつが備える特性の一つ、『破断』が発動していた証拠だ。危ないったらありゃしない。

 

「ああ……、あういああ(主様)……、おっお(もっと)……」


 何か言っているようだったが、何を言っているかさっぱりわからなかったので、俺はくーちゃんを抱き上げて床と一体化しつつあるカーテナを床同様踏みつけ、奥の居間へと戻った。


「ああ……、いい……、おっおうんえうああい(もっと踏んでください)」


 何やら喘いでいるカーテナは無視して、俺はくーちゃんを愛でることにした。


「くーちゃん、いい子にお留守番できた?」

「くーちゃんいい子にしてた!」

「そっか~、えらいね~」

「テナちゃんと一緒にお絵かきして待ってたの!」


 カーテナの奴、ちゃんと役目を果たしてたのか。偉いじゃないか。

 そんなカーテナに対してあの仕打ちは、ちょっとやりすぎだったか?

 なんて思い直して、俺は『投影』によって作り出した重力場を消した。

 

「あ、あれ……?」

「ご苦労だった、カーテナ」


 のろのろと起き上がると、カーテナは目元を潤ませつつ、わなわなと震えだした。

 何だ、泣く程うれしかったのか。あるいは、泣くほど痛かったのか。


「あ、主様、どうしてやめちゃうんですか~。私、痛い方が好きだっていつも言ってますよね。折角あと少しでイきへぶっ!」


 くーちゃんの教育上大変よろしくないワードを吐きそうになったカーテナを重力場の刑に処すと、俺はカーテナを意識の外に排除してくーちゃんの方に向き直った。


「何を描いたのかな? ハルに見せてほしいな」

「うん、いいよ!」


 まだ見ていてハラハラするような不安定な足取りでくーちゃんは駆け出し、部屋の隅に積んであった画用紙の束から何かを探し始めた。

 その様子を、俺は目を細めて眺める。

 ああ、可愛いなあ。天使だなあ。

 

「あういああ~(主様~)」


 などと後ろから嬌声が聞こえてきたが、俺は無視した。

 変態め。

 折檻したら、何か特殊な性癖に目覚めてしまったらしく、俺のことを「主様」とか呼びだすわ、手荒に扱うと喜ぶわで、正直どうしようもない。

 俺の『投影』を受けてものともしないその頑強さだけは、まあ認めてやってもいいが。

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