魔神来襲-01
比較的涼しい気候のリアナ公国・カタリナ地方でも夏の気配が感じられるようになってきた今日この頃。
世間一般では女性の家に招かれるというのはそれだけでリア充ポイントの高い偉業である。ましてその女性というのが高位の龍族で、絶世の美女だったりするのならばなおさらだ。
それがどうして、こんなにもうれしくないのか。
「エリアルデ支局長、これは何ですか」
「見ての通り、居間じゃ。まあ、多少散らかっておるがの」
「エリアルデ支局長、『多少』という言葉の意味について少し語りませんか」
「誰がどう言おうとこの程度では『多少』じゃよ。奥はもっと凄まじいからの」
卒倒するかと思った。
エリアルデ支局長の住まいは、豪華なことに、一軒家だ。それも相当に広い。独り身であるはずのエリアルデ支局長宅が何故こんなにも広いのかはいまいち不明だが。
まあ、広いのはいい。育ちざかり元気いっぱいのくーちゃんと不老で変態なカーテナと同居する俺はうらやましいぐらいだ。
しかし何故、その広い部屋のおよそ4分の1が、こんなにもChaosなことになっているのか。何故、人が立ち入れる空間が部屋全体の4分の1だけなのか。
本、書類、杖、皿、箱……、下着?
要素を一つ一つ取り出しても本質を語ることはできない。
要は種々雑多な物品によって部屋が埋まっている。それだけわかれば十分だ。
「エリアルデ支局長、つかぬことをお聞きいたしますが」
「何じゃ?」
「支局長って片付けできないんですか?」
「失礼な、妾とて片付けぐらいは……片付けぐらいは………………片付けたいという意志はある!」
片付けられないんだな。
それも多分、片付けようとするも何故か逆に散らかっていくタイプの片付けられない人だ。
「片付けたいのじゃが、妾が片付けると何故か余計に散らかるのでな。汝なら片付けられると信じて居るぞ」
「エリアルデ支局長、片付けるのは構いませんから、こういうのだけは何とかしていただけませんか?」
俺は何故か魔導書に絡みついていた、やたらと派手なブラをつまみ上げた。
家には肉体年齢18歳程度のカーテナがいるので洗濯の最中にブラを目にする機会が多い俺は、今更ブラ程度で興奮するほどガキではないが、それでも、あまりにもアレ過ぎるだろう。
俺の中でのエリアルデ支局長像が怒濤の勢いで崩壊を始めているが、残念ながらとどめる手段は無いようだ。
反応がないのでブラ片手に振り返ると。
「……あ………………」
エリアルデ支局長が、顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。
エリアルデ支局長が、顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。
大事なことなので二回言いました。
意外というより驚天動地の乙女な反応だったが、出来ればこの場面では泰然自若としていて欲しかった。
今、俺の中で、かっこいいエリアルデ支局長は死んだ。
♢♢♢
どうも姉貴が恋をしているらしい。
そう気付いたのは、アルキドアに殴り込みをかけにいく直前のことだ。
相手は隣の部屋に住んでいる神殺しの魔術師・ハルト。
龍神の御子であるクリス様の親代わりで、時々ドン引きするレベルでクリス様に愛情を注いでいる。
性質は温厚。基本的に争いを好まない。ただしここぞという時は率先して戦いに身を投じる意志の強さを持っている。
圧倒的な戦闘力を持つが、それに驕って傲慢な真似をすることはない。
端的に言えば、好青年だ。
クリス様が背負う『龍神』のように、『龍王』の役割を背負う姉貴は、その性質故か、今まで孤高を貫き、誰かと一緒になろうとしたことはなかったはずだ。つまり今日に至るまで独身であり、交際の経験一つ無かった。
もちろん弟としては喜ばしい限りだ。『龍王』である姉貴は俺より年上でも肉体的には十分な若さを保っているから、誰かと一緒になる分には何の不自由もないはずだ。
素直に応援してやりたいと思う。
目の前で鼻歌を歌いながらセーターを編む孫が、同じ人に恋をしていなければの話だが。
「エアリアよ、そろそろ夏なんだが」
楽しそうなのはいいのだが、形を為しつつある毛糸のセーターを贈られた側は困惑するしかないのではなかろうか。
「いいの。贈る分にはいつ贈ったって」
そういうものなのだろうか。
孫娘が上機嫌だというだけでもう全てを許したくなってしまう。
「エアリア、お前、旦那をデートにでも誘ったらどうだ? いきなりセーター贈るよりも、親密になってからの方が喜ばれるぜ」
「おお、なるほど。さすがおじいちゃん、名案だ。では早速行ってくる」
「今は行っても無駄だぞ」
「どうして?」
「……旦那は上司の家に仕事しに行ってる」
嘘は言っていない。決して嘘は言っていない。
姉貴は旦那の上司だし、遅刻の埋め合わせとして家の片づけを申し渡されているのだから、仕事というのも間違いではない。
姉貴からすれば意中の男性を家に招いた気分なのだろうが、如何せん家があんな状況だからなぁ。旦那は普通に厄介ごとを押し付けられたとしか思わないかもしれない。
「そうか、それは残念だな。では、また帰ってきたら誘うとしよう」
姉に孫。
二人とも俺にアドバイスを求めてくるが、頼むから余所を当たってほしい。というか、他に頼れる奴は居ないのか。
がさつな姉貴はともかく、孫まで友人の居ない寂しい奴なのだとしたら、俺は泣くぞ。
大体そもそも、どうして親戚内の三角関係発生に俺が加担しなければならないのか。
かつては嵐龍王と呼ばれた俺が、何故こんなことで悩んでいるのか、分かる奴が居たら是非とも教えてくれ。
『魔神来襲』編です。
そろそろこの作品はハーレムな方向に進みそうです。




