放浪する嵐龍王-16
「くーちゃんごめんね! 大家なんかに預けちゃって本当にごめんね! いい子にしてた?」
全てを終えてアルキドア帝国から戻った俺は、いの一番にくーちゃんを迎えに行った。
テンペスタさんにもカーテナにも頼ることができなかったので、止む無く俺はくーちゃんを大家のババアに預けるしかなかったのだ。
ああ、本当にごめんよ、くーちゃん。
「くーちゃんいい子にしてた! あのね、大家のおばあちゃんね、くーちゃんとおままごとしてくれたの!」
あのババアが、くーちゃんとおままごとを?
「あとね、一緒にお絵かきしたの!」
あのババアが、くーちゃんとお絵かきを?
くーちゃんを引き取りに来た際、俺に対して散々憎まれ口を吐き、いつもの流れでバトルに突入し、そしていつものように、いつもと違って魔力全開の俺を一瞬で屠った、あのババアが?
俺はこの世界に飛ばされてきた時以来の驚愕を覚えた。
あのババアがそんなことをするなんて。
「くーちゃんね、今度はハルと一緒におままごとしたい! あと、エリちゃんに見せる絵も描いたの!」
ああ、癒える。ババアとの戦闘で傷ついた俺の身体が、癒えていく。
くーちゃんより天使な天使がいるだろうか、いやいない。(即答)
「ねえねえ、ハルはエリちゃんとテンペスタおじちゃんとテナちゃんと、何してたの?」
「んー……?」
龍化したお二方と一緒にアルキドア帝国の首都に不法侵入し、星が灯る夜空をお昼どきの青空よろしく明るくなるほどの魔力を練り込んだ広範囲殲滅神級魔術、『神よ、どうして私をお見捨てになったのですか(エリ・エリ・レマ・サバクタニ)』の陣を展開した上で王宮に(わざわざ壁を破って)押し入り、「皇帝陛下、私は戦争が嫌いです。戦争する国なんて滅べばいいと思っています」と言った後、「そういえば、最近魔魂石とかいう戦争の火種になりそうな魔具を開発した国があるそうですねぇ」
と言って暗に「余計なことしたら国ごと潰す」と脅した。
なんて、純真無垢なくーちゃんに言えるわけがない。
テンペスタさんは、帰り際腹いせに皇帝陛下の居城の七割近くを倒壊させた後に「次孫に手を出したら殺す」と、こちらはだいぶ直接的な物言いで皇帝陛下を脅していた。あれだけの破壊を撒き散らしたのにもかかわらず、一人の死者も出なかったのは奇蹟だと思う。
エリアルデ支局長はエリアルデ支局長で、「皇帝、『貴様の』部下が我が根城に多大なる損害を与えてくれてのう。修築したいんじゃが、妾、人間世界の金をあまり持っておらんくての。今、ちょうどスポンサーを探しておるのじゃ。誰か良い者はおらぬか?」等と、ある意味一番エゲツないことを言っていた。
確かに、トルネの来襲によってギルド・カタリナ支局がこうむった実害は相当なものだ。依頼の中には休業によって無効となったものもあり、そういう場合の補償金はカタリナ支局が出さなければならない。そんなわけで、俺は減給が現実になるかもしれないと戦々恐々としていたのだが、もしかしたらその心配はなくなるかもしれない。
こんなことも、穢れを知らないラブリーマイエンジェル・くーちゃんに言えるわけがない。
「えーと、お散歩……かな?」
当然、国家的反逆者とその一味を帝国が見逃すはずはなく、『|神よ、どうして私をお見捨てになったのですか《エリ・エリ・レマ・サバクタニ》』の陣を消した直後に宮廷魔術師が大挙して襲ってきた。面倒なので、俺は魔術によって召還した莫大な量の海水を『神の雷』やよって電気分解し、得られた莫大な量の水素に重力場を『投影』して核を作り、さらに外側から魔術で超圧縮して作り上げた小さな疑似太陽で再び夜を昼にして、宮廷魔術師達を黙らせた。
核融合を知らないこの世界の住人には俺が魔術で太陽を召喚したように見えたらしく、エリアルデ支局長とテンペスタさんにまでドン引きされた俺は、術の原理を詳しく語って聞かせなければならなくなった。
何度も使える術ではないが、まあ、一国を相手取って脅迫する分にはちょうどよかっただろう。
これのどこが『お散歩』なのか甚だ疑問ではあったが、しかし、真実を伝えるにはくーちゃんはまだまだ幼すぎる。
「ずるーい! くーちゃんもみんなとお散歩したい!」
「こ、今度一緒にお散歩行こう? ね?」
「……約束?」
「うん、約束」
「じゃあ、指切り」
くーちゃんが、まだまだ小さいその手の、一際小さい小指を俺に向ける。
俺は自分の小指をくーちゃんの小指に絡めた。
「ゆーびきーりげんまんうそついたらはーりせんぼんのーます」
こんな風にくーちゃんと先のことを話せる生活を、俺は守りきったのだ。
『神殺し』としての能力を大々的に見せ付けてしまった以上、これから先、何かと厄介事は増えるかもしれないが、それでも十分ハッピーエンドの範囲内だ。
そして、ハッピーエンドを迎えたのは俺だけではない。
祖父を探して各地を放浪していたエアリアはやっと、離れ離れになっていた祖父と再会を果たした。
二代目嵐龍王を名乗っていたのは、そうすることで祖父が興味を持って何らかのアクションを起こしてくれるかもしれないと考えたためだそうだ。
「あなたには、二度も助けられてしまった。この恩は、いつかきっと返すから」
と言って微笑んだ彼女は、嵐龍王を名乗り、勝ち気な口調と態度で武装していた時よりも、何倍も美しく、誇り高き龍族らしかった。
「ハルー、くーちゃんお腹空いた」
「よし、じゃあご飯にしようか。今日はくーちゃんの好きなハンバーグだよ」
「ほんとっ!?」
ハンバーグの一言に笑顔を炸裂させるマイエンジェル。
「今から作るからね、くーちゃん、30分だけ待てるかな?」
「うん!」
俺は愛用のエプロンを身に着け、『投影』と簡易な氷雪系魔術で作り上げた冷蔵庫から、ビッグボアのひき肉を取り出した。
魔術が溢れる異世界に来て5年目の春。大学生から最強の魔術師にクラスチェンジした俺は、龍族の小さな女の子、くーちゃんのためにハンバーグを焼いていた。
どうしてこうなった。
でも、こんな生活も、悪くない。
以上で「放浪する嵐龍王」編は終わりです。
この最終話は、後で手直しするかもしれません。
次は「カーテナの育児日記」編です。最近真面目すぎたので、ほのぼのしたいです。




