放浪する嵐龍王-14
「旦那! 気でも触れたのか!?」
強力な魔術を連発するトルネに龍族の爪で切りかかっていたテンペスタさんが叫ぶ。
気が触れたわけではない。
『破戒』は俺の肉体を傷付けない。心臓にカーテナを突き立てるという見た目のインパクトに反して、俺には傷一つ付いていない。
半実体の刃は俺の細胞を素通りして、心臓表面に刻印された魔術的な印を正確に刺し貫いていた。
『破戒』はその名の通り、戒めを破ること、つまり、結界破りに特化した、カーテナが持つ能力中最も地味と言える能力だ。
しかし、俺にとってはこの能力こそ、一番重要だと言えるかもしれない。
心臓が一際大きく脈打つ。
血が沸き立つ。
身体が火照り、常にない高揚感が生じる。
「ぉぉぉぉおおおおおオオオオオオォォォォォォァァァァァ!!」
咆哮。
叫び、体内にわだかまる力を俺は解放した。
体が白い光に包まれる。漏れ出る魔力が属性に従った色を顕す。
寿命を迎えた恒星が、炸裂する前に一際小さく収縮するように、俺が放つ魔力の勢いが一瞬弱まった。
直後、周囲の樹木をざわめかせる程の魔力の波動が、俺の体から放たれた。それを境に異常なまでの高揚感は引き、代わりに満ち満ちた全能感が俺を満たした。
魔力に当てられたのか、動作を戒める重力場への抵抗を止めたエアリアの頭に、俺は手を乗せた。エアリアを縛る『テイム』の陣を選択的に潰すため、俺は有り余る魔力をエアリアに注ぎ込む。
「……ぁ」
一瞬体を強く震わせると、エアリアは気を失ったのか、目を閉じて動かなくなった。体内を走査すると、テイムの術式が俺の魔力が掛けた負荷によって、粉々に砕け散っていることが分かる。
戒めの重力場はもう必要ないな。
戦闘に巻き込まれないよう、代わりに各種障壁を纏わせて抱き上げると、俺はトルネと戦うエリアルデ支局長とテンペスタさんに向き直った。
トルネの周囲に断続的に魔法陣が展開されたかと思うと、様々な属性の魔術が次々と2人に向けて放たれていく。
エリアルデ支局長はそれぞれの術式に応じた障壁を、テンペスタさんは魔力で強化した爪と鱗で次々と魔術を破っているが、トルネのあまりの手数の多さに、決定打を加えるに至っていない。
強力な龍族である2人を、一宮廷魔術師に過ぎないトルネが防戦一方に追い込む?
俄には信じられない状況だ。
さらにもう一つ。
トルネが使用している魔術が、あまりに多彩かつ多過ぎる。
例外は数多くあるが、魔力属性は基本的に1個体1種が原則だ。それは人であろうと龍族であろうと変わらない。属性を外れた魔術は、無理とは言わないがほぼ使えない。少なくとも、今トルネが放っているレベルの魔術は放てない。
また、魔術を構築するキャパシティというものがある。トルネの魔法陣展開速度は、明らかに人の限界を越えている。
何かある。
龍族のテイムや、多彩多数の魔術を可能にする何かが。
それを見極める必要がある。
俺は2人の体表に『魔力を含む』強力な魔力障壁を展開した。
続いて古代魔術にして戦略級魔術、『神の業火』よりさらに上位に属する光属性広範囲殲滅術式、『神の裁き』を発動。
空に浮かぶ神々しい魔法陣を見て、トルネが目を見開く。
「っ!? これは!?」
「防がなければ死ぬぞ、トルネ」
その気になれば町どころか小国一つを呑み込む、超広範囲戦略級魔術だ。発動した俺自身も対応する障壁を張らなければ防ぎきれない。
しかしトルネは防御に力を割けない。そんなことをすれば均衡が崩れ、龍の爪や魔術が彼を襲うことになるからだ。
だが、俺は別にトルネを殺すためにこの魔術を発動したわけではない。
「支局長! テンペスタさん! こちらへ!」
俺が叫ぶと、2人は阿吽の呼吸で魔術を弾くと、翼を出し、低空を高速移動して俺のすぐ近くに着地した。
すぐさま結界を張る。
直後、『神の裁き』が放たれ、暴力的な白が一帯を席巻した。




