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放浪する嵐龍王-13

「折角我々を引き離したのに、逃げないってのはどういうことなんです? 追いかける私が言うのもなんですが、馬鹿なんですか?」


 俺は刀剣状態のカーテナを帯びて、つい数時間前にトルネと相対したギルド・カタリナ支局前に居た。

 単純な話、エアリアのテイムを解き、龍族テイムを可能にする秘密を暴き出すまでは、逃げるわけにも隠れるわけにもいかない。

 馬鹿というなら、俺は馬鹿だ。他人のために、自分がリスクを背負い込むというのだから。弱肉強食がまかり通っているこの世界の住人から見れば、俺の行動は愚の骨頂そのものだろう。


「根性のひん曲がった後輩を指導してやろうと思ってね」

「余裕ですね。たかだか滅犠怒如きの魔術を防ぐために力を使い果たすような凡骨魔術師風情が」


 言葉遣いが急に粗野なものに変わり、トルネは高々と空に手を掲げた。

 強烈な魔力の波動が掌から放たれ、夕暮れ時の色鮮やかな空に、一際目立つ赤い陣が展開されていく。


 戦略級魔術、『神の業火』の陣だ。『神の火』の通称を持つ『滅犠怒』の上位魔術で、本来の名は失われて久しい。

 なるほど、これ程の魔術を使えるのならば、『滅犠怒如き』という発言も、まあ理解できる。


 確かに俺は、この魔術の下位に属する『滅犠怒如き』を防ぐために力を使い果たし、立つことすらできなくなった。

 だがそれは、俺がカーテナを持っていなかったためだ。


「カーテナ、『破魔』を」

『はい、主様』


 緑色の光がカーテナを包み込む。

 物質に対して絶対的な強度を得るのが『破断』なら、『破魔』は魔術に対して絶対的な効力を発揮する。


 俺は『破魔』を纏ったカーテナを一振りするだけでいい。

 緑色の斬撃が放たれ、上空に浮かぶ巨大な陣へと向かう。

 斬撃は数秒で陣と接触し、ガラスが割れるような音を立てて、『神の業火』の陣を粉々に破壊した。


「なっ!?」

「魔の神を殺すということの意味を、もう一度よく考え直すんだな、馬鹿野郎」

「き、貴様っ!! この私を愚弄するかっ!! エアリア! 出てこい! こいつを叩き潰せぇ!」


 メッキが剥がれ、高慢な本性を顕したトルネを、俺は一瞥する。

 一切の情を排して判断すれば、戦略級魔術であろうとお構いなしに潰す俺に対する魔術攻撃は無駄だと判断し、生身で強大な戦闘力を誇る龍族を使ったのは、まあ、戦略的には及第点と言えるだろう。どうしようもなくゲスいのは間違いないが。


 何らかの魔術で姿を隠していたのだろう、突然虚空からエアリアが現れ、角、鱗の一部、爪を露わにした、半龍半人と言った容貌に変化して俺に襲いかかってきた。俺はエアリアに刃を向けることはできない。防御に使うにしてもカーテナはあまりに鋭く、逆に手傷を負わせる可能性がゼロではないからだ。

 龍族の爪は、一種の魔装。

 その爪が、カーテナの恩恵を受けられない俺を引き裂こうと、音を立てて振るわれる。


「っ!?」

「……まあ、カーテナが無くたって攻撃を防ぐ手段なんていくらでもあるんだけどな」


 エアリアの爪は、俺の首元数センチのところでギリギリと震えながら停止した。

 重ねて何層も『投影』された物理障壁は、大家のババアの拳以外はいかなる物理攻撃も通さない絶対の壁となる。


『ちょっと主様!? 今の聞き捨てなら…………はっ! そういうプレイですね!』

 

 刀剣状態の時ぐらいちょっと黙ってろよカーテナ。


「支局長! テンペスタさん! 今です!」


 俺はエアリアの腕をがっちり掴むと、姿をくらます術式を解いて前に飛び出す二人と入れ替わるようにして、後ろに跳んだ。


「ようやくか。俺の孫に手ぇ出しやがって、ただで済むと思うなよ腐れ魔術師!!」


 今まで聞いたことのないような、怒りに打ち震えるテンペスタさんの声が聞こえた。

 冷静さを失わずにここまで来ていたが、さしものテンペスタさんも限界のようだった。


「貴様……! 離せ!」

「悪いな、それはできない」


 十分に距離を取り、俺は暴れるエアリアに重力場による戒めを掛けた。普段カーテナにかける強度の半分程度だが、動きを止めるにはそれで十分だ。


 まずはテイムを解く。

 ……実を言えば、エアリアに接近して『テイム』の術式を解析した段階で、カーテナの『破戒』による解除は不可能だと分かっている。

 エアリアの魔力に絡みついて人格を縛っている『テイム』の陣をカーテナで引きちぎれば、一緒にエアリアの魔力にまで影響を及ぼすのは自明。テイムは解いても廃人になるんじゃ話にならない。

 ……『とっておき』は、できれば使いたくなかった。使わずに済ませられるのならば、例えどんなに重傷を負おうとも使うつもりは無かった。

 しかし、わがままを言っていられる状況ではない。

 

「カーテナ、『破戒』を」

『……いいんですか?』

「恩人の孫がピンチなんだ。止むを得ない」

『……分かりました』


 カーテナが白い光を帯びる。さらに、1メートル近い刀身が小さく縮み始め、最後には刃渡り15センチ程度の短剣のように変化した。


 小さくなったカーテナを握る右腕を伸ばし、刃先を、自身の胸に向ける。


「……っ」


 恐怖を押し殺し、俺はカーテナを、己の心臓に突き立てた。

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