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放浪する嵐龍王-12

 コンコン、と据え付けられたノッカーでドアを叩く音がした。


「テンペスタじゃろ。妾が呼んだのじゃ。今回の件にはあ奴の孫も関わっておるのじゃから、巻き込ませてもらおうと思っての」


 コンコン、ともう一度。

 なるほど、そういうことならば。


「はい!」


 俺は布団から抜け出すと、途中に転がっていたカーテナを踏みつけて廊下を通過し、扉を開けた。踏みつけた瞬間カーテナが一際大きく痙攣した気がしたが、気にしない。断じて意識の内に入れない。

 扉を開けると、そこに居たのはロマンスグレーの元・嵐龍王、テンペスタさんだった。


「よう、旦那。すっかり良いみたいだな。ちょいと邪魔するぜ」

「あ、どうぞ」

「ん? こいつはこのままでいいのかい?」


 テンペスタさんが床に転がって恍惚の表情を浮かべながらビクンビクンと悶えるカーテナを見て言う。


「そいつはいいんです。話の邪魔になるんで」


 ゴミを見るような目でカーテナを一瞥すると、カーテナが一際大きくビクンと震えた。

 寒気がする。


「あ、テンペスタおじちゃんだ!」

「元気か、クリス様」

「うん!」


 くーちゃんカワユス。

 

「エリアルデ……その角……、もう隠さねえのか?」

「ハルだけじゃ」

「ふむ、ならもう旦那の前で他人行儀になる必要はねえな、姉貴」

「そうじゃな」

「姉貴!?」


 姉貴って、エリアルデ支局長が、テンペスタさんの、姉?


「雷を操る妾に風を操るこ奴、もう死んでしもうたが、水を操る妹が居ての。『大嵐の兄弟姉妹』などと呼ばれたものじゃ」


 大嵐、か。嵐龍王と通じるところがあるのは、偶然ではあるまい。


「さて、世間話はここまでじゃ。火急の危機が迫っておるからの」

「かきゅーのきき?」


 マイエンジェル・くーちゃんがエリアルデ支局長にしがみついたまま純真無垢な目を向けている。

 かわいいけど、今からの話はあまりくーちゃんには聞かせたくないな。

 そんな俺の意志を感じたのか、エリアルデ支局長が気を遣ってくれた。


「とっても危ない、ってことじゃ。クリスよ、しばし隣の部屋で遊んできてくれるか? 妾はそなたの描く絵を見てみたい」

「うん!」


 満面の笑みを浮かべて、くーちゃんはエリアルデ支局長の膝から飛び降りると、俺がプレゼントしたクレヨンと画用紙片手に隣室に走っていった。

 ……大家のババアは頂けないが、こういうときにボロいけど無駄に広い部屋のありがたみを感じる。


 エリアルデ支局長は今まで見たことがないような慈愛に満ちた目でくーちゃんを見ていたが、すぐに厳然な支局長の顔に戻り、俺に向き直った。


「下種もテンペスタの孫も十分距離のある場所に跳ばしたし、魔法陣に結界をしかけておいたから、まだしばらく時間の猶予はあるはずじゃが、下種の目的が汝である以上、拘束が解け次第こちらに向かってくるのは間違いない。方針を決めたら、すぐに出発する」

「なあ、姉貴、エアリアがテイムを受けてるってのは、確かなのか?」

「間違いないの。最近同様にテイムされたAAA級魔獣共を始末したのじゃが、術組成はほぼ同様じゃ。複数の魔力が入り交じった、複雑な陣が敷いてある」

「……俄には信じられねえな。龍族の年若い娘にテイムをかける根性の曲がり具合もだが、それ以前に龍族をテイムできる奴がいるなんて事がな」

「同感じゃが、事実じゃ」


 静かに、絞り出すように声を出すテンペスタさん。孫が『テイム』の餌食になっているのだ。今その胸中は煮えたぎる怒りで満たされていることだろう。


 テイムは、天と地ほどの魔力差があって初めて成立する術式だ。それを、魔力量において人を遥かに上回る龍族の若者に対してかけられるとなると、途方もない莫大な魔力が必要となるだろう。

 複数の魔力が入り交じっていることから、必要な魔力は多人数で補っているのだろうが、しかし、魔力を混ぜるなんてことは、本来不可能なはずだ。それを一体どうやって……。


「下種の始末は妾とテンペスタが居ればお釣りが出るぐらいじゃろう。問題はテイムされた孫の方じゃ。テイム術式を潰すほどの魔力量となるとな……」

「俺や姉貴の魔力量はエアリアを上回るが、圧倒的、ってほどの差は付かねえな」


 一般的に魔術を単純な魔力で叩き潰すためには、その魔術に込められた魔力を遙かに上回る魔力量が必要となる。


「それなら、俺に任してください」

「旦那が? しかし、旦那の魔力量じゃ……」

「大丈夫です。魔力はいらないんで」

「いらない……?」

「『投影』とカーテナの『破魔』でテイム術式をぶっ壊します。魔神級までなら、何とかなります」


 何とかならなかったとしても、俺にはもう一つだけ『とっておき』がある。


「…………ふむ、ではハル、エアリアは頼む。妾とテンペスタはあの下種を潰す。戦略級魔術の使い手相手じゃ。加減はいらぬな」

「俺の孫にふざけた真似した下種相手に、手加減するつもりなんざ最初からねえよ」


 その気になれば小国一つ相手取れる最強クラスの龍族が二名に、神殺しの元宮廷魔術師 with 妖刀。

 対する敵は、一介の宮廷魔術師と、若い龍族。

 トルネごときの魔術師に龍族をテイムすることができるとは思えない。敵は龍族をテイムするほどの『何か』を持っているのは間違いない。彼我の戦力差は明らかだが、それを覆し得る『何か』をトルネが持っている可能性は十分にある。


 不安要素はあるが、しかし今は、万全の体制を整えて戦うしかない。くーちゃんとの生活と、おじいちゃんを探してこんな僻地にまで来た龍族の女の子を守るために。

終わりまでシリアス続きます。どうしてこうなったorz

私は変態の方を書きたいのに。

まあ、ゆっくり書いていきます。

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