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放浪する嵐龍王-10

「あの娘、『テイム』されておるの」

「……テイム……? 龍族を……?」


 生まれつき莫大な魔力を備える龍族。亜龍と共通の祖先から分岐し、知的生物として進化を遂げた彼らを、『テイム』することが、果たして可能なのか?


「原理上は不可能ではあるまい。莫大な魔力を以てすれば、亜龍と共通の手法が通用するじゃろうな」


 歯を嚙みしめる力が残っていたら、自分の歯を砕いていたかもしれない。

 龍族を『テイム』だと?

 知性を備える龍族の女性に、よりにもよって、『テイム』だと?

 

「まずいの。妾も汝を抱えたままではまともに戦えん。仮にまともに戦えたとして、殺さずに止めるのは至難の業じゃ」

「殺さないで……ください。あの人は……テンペスタさんの……お孫さん……です」

「何と、あ奴、孫がおったのか。となると、ますます殺すわけにはいかんの」

 

 そんな俺とエリアルデ支局長のやりとりを見て、男はクククと喉を鳴らすように笑った。


「エリアルデ支局長、あなたが大人しくハルトを渡してくださればこの娘は用済みです。テイムを解除してもいい。悪くない取引だと思うのですが」

「……下種が」

「下種で結構。こちらもこれが仕事なので。いかがいたします?」


 仕事。

 宮廷魔術師が関与してきたことで、戦略級魔術『滅犠怒』の謎は解消された。

 彼らならば、国お抱えの人間兵器たちならば、滅犠怒の発動も十分に可能だろう。今なら分かる。何故滅犠怒が突如消滅したのか。

 あれは、俺をおびき出すための餌だ。

 カーテナを用いた魔方陣の破壊でも、魔力障壁を用いた防御でも、何でも構わない。ただ、圧倒的魔術に対して正面突破をかける力を持つ何者かを炙り出したかった。そのための、いわば撒き餌だったのだろう。空を覆う魔方陣をすっぽりと覆うような魔力障壁を展開できる者は、確かにこの辺り一帯では俺ぐらいなものだ。展開された時点で、俺がこの地域に居るという間接的な証拠になり得る。

 ……大家のババアなら俺と同じことできるかもしれない。全くの勘だが。


「答えは否じゃ。半分敵対関係にあるリアナ公国内で戦略級魔術を未遂とはいえ使用し、知性ある龍族に『テイム』をかけるような輩を信用できる思うておるのか?」


 十中八九、俺を確保したら目撃者を皆殺しにしようとするだろう。

 俺が宮廷魔術師だったころから、下の連中はそんな奴らばかりだった。


「そうですか、残念です。ではエアリア、行きなさい。女の方の生死は問いませんが、男の方は確実に生かして捕えなさい。分かりましたね?」

「はい」


 エアリアの体から緑色の燐光が漏れ出した。莫大な魔力を練り上げている証拠だ。


 エリアルデ支局長は俺にだけ聞こえるような音量で呟いた。


「汝よ、転移魔法陣で下種を魔境のど真ん中に、エアリアを永久氷壁内の洞窟に飛ばす。いったん引くぞ。一瞬でよい、あ奴らを牽制してくれ」

「……了解」


 現実的な選択肢だ。俺はこんな様だし、ここはギルド・カタリナ支局長の真ん前だ。戦端を開くには状況が悪すぎる。


 イメージを練り上げていく。

 今の俺のコンディションでは抽象的で細やかなイメージを練ることはできないので、電撃の類は使えない。

 ならば、具体的かつ既にイメージが固まっているモノを『投影』しよう。


「『気銃散弾エアショット』」


 エアリアの周囲に、可視化するほどの緑の魔力を込められた空気の弾丸が出現した。

 今の俺なら、一発当たるだけで致命傷だろう。

 当たればの話だが。


 かつて地下洞窟を進む俺を苦しめ、ミョルニルを編み出す契機となった、印象深いあるモノを『投影』する。

 即ち、鋼鉄でできた、壁を。


 放たれた空気の弾は俺が作った鋼鉄の壁に次々とぶつかり、当たった箇所をベコベコと凹ませるが、貫通には至らない。

 本家大本の壁よりだいぶ薄いので、それだけでも僥倖だ。


「上出来じゃ」


 壁の向こうに、エリアルデ支局長の転移魔法陣が放つ光が漏れ見えた。

 一瞬強く輝いたかと思うと、光は消えた。トルネとエアリアを陣のうちに巻き込んで、それぞれどこかへと転移させたのだろう。


 ともかく、これで少しは時間を


「っ!?」


 ズキン、と強烈な痛みが頭に走った。限界まで力を使った代償、だろう。

 ここまでしぶとく意識を保ち続けたが、どうやら限界のようだ。


「ハル! 大丈夫か! ハル!!」


 エリアルデ支局長の声に答える間もなく、俺は意識を失った。

次回は変態が席巻します

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