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放浪する嵐龍王-08

 いくら二代目嵐龍王エアリアといっても、食事をとらなければ死んでしまうし、呼吸しなくては死んでしまう。

 したがって私がクレープを買うことも、甘いクリームの香りやフワフワの生地から立ち上る芳香を含む『空気』を胸一杯に吸い込むことは、何も悪いことではない。

 そう自分に言い訳しつつ、私はこの地域のギルド支局からほど近いカタリナ市街地の商店街で買ったクレープを、公園のベンチに座って頬張っていた時のことだ。


「神殺しとの戦闘に入ったら、お前たちはここから術を発動して援護しなさい。魔魂石はいくら使用しても構いませんし、どれだけ周囲を巻き込もうと構いません」

「ハッ」


 神殺し、という単語が、私の耳に入った。

 私に、この地域に祖父・テンペスタが居ると強く訴えてきたギルド職員。

 誰も思うまい。あのような地方ギルドの職員の中に、AAA級魔獣どころか魔神すら殺せる超越的な存在が紛れているとは。

 神殺しとは、伝説だ。

 故に『神殺し』という単語はそれだけ強い意味を持つ。


「陽動術式、敷設完了いたしました」

「よろしい。では、起動しなさい」

「ハッ」


 そんな会話が、公園の緑地帯から聞こえてきた直後のことだ。


 空に、巨大な魔法陣が展開された。


「なっ……!!」


 種類までは分からない。

 ただ、込められたら魔力のあまりの大きさと。

 その陣が、地上に矛先を向けていることは。

 知識のない私にも分かる。


 そして、この陣を展開した者達が、すぐそこの緑地帯に居ることもまた分かっていた。


 私は残りのクレープを大急ぎで口に放り込んで飲み込むと、緑地帯に入った。


「貴様等、何をしている!!」


 薄黄緑色のローブを纏い、丸メガネをかけた痩せ男と、黒いローブを来た3人の男が、驚いたような表情を浮かべてこちらを見た。


「おや、見られてしまいましたか。始末なさい」


 痩せ男が何の躊躇もなく指示を出すと、部下とおぼしき黒いローブの男たちが火炎系魔術の詠唱を始めた。


 愚かな。その程度の火炎系魔術が、風を支配する私に通用するものか。


 男たちの魔術が発動するより早く、私は無詠唱による中級操風系魔術、『風威エアブレイク』を発動する。


「ガッ!?」「う……」「っ!!」


 黒いローブの男達は吹き飛び、それぞれ太い樹木に強かに叩きつけられ、動かなくなった。当然、火炎系魔術はキャンセルだ。


 森の中で火を放ったら、火事になるだろうが。


「ほう、少しはやるようですね。あなた、名は?」

「名を聞くなら、まずは自分から名乗るのが礼儀だろう」

「これは失礼しました。私はトルネ。所属は言えませんが、魔術師の端くれです。さあ、あなたの番ですよ」

「……エアリアだ」

「…………エアリア……? はて、どこかで…………。ああ、あなた、テンペスタのお孫さんですか」

「!! 貴様、何故それを!!」


 私は祖父がテンペスタであることは基本的に秘匿している。話したのはノーリッド村の人々と、一部の信頼できる人達だけだ。

 それを、なぜこいつが……。


 トルネは私の言葉を無視して、クククと押し殺すような笑い声を上げた。


「殺すには惜しい戦力です。あなた、私の下で働くつもりはありませんか? 報酬は弾みますよ」

「あんな危険な魔術を平然と発動する外道の下で、私がか? 冗談じゃない」

「そうですか、それは残念です。では、力付くで従っていただくといたしましょう」

「やれるものならな」


 基本的に、どんな魔術でも発動者が意識を手放せば強制的にキャンセルされる。

 直接的に陣に干渉する術を持たない私があの陣を消すためには、この痩せ男を殺害ないしは気絶させる必要がある。


 口の前に魔力を集める。


 生まれつき風の性質を帯びた私の魔力は、圧縮された風の塊として集積し始める。

 威力を抑えているとはいえ、龍族の『ブレス』だ。そこそこの魔力障壁を展開していたとしても、余裕で貫いて対象を潰せる。

 

「野蛮ですねぇ。いきなり『ブレス』ですか」


 どうでもいいと言わんばかりの痩せ男の涼しい口調に、私はカチンときた。

 後は息を思い切り吐き出す要領で発射すれば、痩せ男は少なくとも気絶、よほど運が悪ければ死に至る。


「!?」


 しかし突然、溜めていた魔力が霧散し、ブレスが形を失った。


 いや、それだけじゃない。

 体が、動かない……?


 体重を支えきれず、私は倒れた。


「龍族といえど、所詮は魔獣の一種ですからね。このように『テイム』することもできるというわけです」


 テイム?

 この私が、AAA級を遙かに上回る力を持つこの私が、たった一人の人間によってテイムされた。こいつは、そう言っているのか?

 あり得ない。

 しかし、この状況は……。


 地面に伏し、指一本動かせない体に何とか魔力を通わして制御を取り戻そうともがくが、効果は見られない。


 そんな折。

 突然、上空の魔法陣から放たれていた莫大な魔力の気配が薄まった。消えたわけではなく『薄まった』ことから、何者かが陣を覆い尽くすほどの巨大な魔力障壁を展開したものと思われる。


「……神殺しがかかったようですね。さて、エアリア、あなたにも働いてもらいますよ」


 痩せ男の声が聞こえた直後、意識が急に混濁し始めた。魔力を高めて抗おうとするも、無駄だった。

 

 ふと脳裏におじいちゃんの顔が浮かび、そして、私の意識は暗い淵に飲まれていった。

真面目過ぎワロタorz

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