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放浪する嵐龍王-06

「全く仕組みが分からんかった。汝は、やはり不思議な男じゃの」


 目的地であるグランディア渓谷に到着して、ようやく俺の背から降りたエリアルデ支局長は、顎に指をあてながらそんなことを言った。

 俺はあなたの方がよっぽど不思議です。

 俺に気があるんですか?

 俺DTなんで、こんなことされたら勘違いしちゃいますよ?


「面白い体験じゃった。また機会があればお願いしよう」


 また同じことをされたら俺の理性が持たない。今度こそ煩悩の前に完全敗北して間違いを犯してしまうかもしれない。

 勘弁してください。俺にはくーちゃんがいるんで、捕まる訳にはいかないんです。


 なんて、くだらないことを思っていた、その時。


 ――――オオオオオオオオオォォォォォォォォォゥゥゥゥゥゥン!!


 グランディア渓谷全体を揺るがす、魔獣の咆哮が響き渡った。


「さて、気を引き締めよ。AAA級とAA級が合わせて7体。来るぞ」

「言われなくても」


 各種障壁、防護結界を体表に展開。ついでに開発中の反射フィールドも展開。全身の細胞を強化・保護。脳のオーバークロックと思考スピードの加速。

 それらのイメージを練り固め『投影』する。

 

「雷雲よ……在れ」


 エリアルデ支局長は得意とする雷撃系魔術の下準備に、黒々とした雷雲を召喚した。エリアルデ支局長の魔力が雲の内部を縦横無尽に循環していて、任意のタイミングで雷を落とすことができる高等魔術だ。

 エリアルデ支局長の雷雲によって辺りは急激に暗くなり、夕暮れ時に近い暁色を呈している。

 その莫大な魔力に反応したのか、谷底に潜んでいた魔獣が、続々と現れた。

 龍族に似ているが完全に別種で、人に対するゴリラのような生物学的地位を持つのが亜龍。知能を持たないだけで、魔力も力も十分脅威だ。ワイバーンは翼の生えたトカゲのような姿を持つ魔獣で、高い知能を持つ。リーパーは人型の魔獣で、両腕が鎌状の刃になっている点が特徴だが、それ以上に恐ろしい特殊能力を持つ。ワイズマンは空飛ぶ頭蓋骨といった印象の魔獣で、この中で最も力は弱いが、恐るべき魔力を秘めている。スカルデーモンは腕の長い骨ばった悪魔で、7体の中で最強の力を持つ。ジャバウォック、ミズチだけがAA級で、残りは全てAAA級だ。

 常であれば互いに争ってその肉を喰らい合う関係にあるはずの魔獣がぞろぞろと並ぶ様子は、俺に強烈な違和感と不安をもたらした。

 

「雁首揃えてゾロゾロと……。まずは間引くとするかの。初っ端から最大出力じゃ。ハルよ、保護結界を張っておけ」


 エリアルデ支局長が空に手をかざす。

 直後。

 魔獣達に巨大な雷が降り注いだ。

 音はもはや音ではなく圧力として一帯を嘗め尽くし、全ては白く塗りつぶされる。熱膨張した空気が烈風を生み出し、辺り一帯に吹きすさぶ。

 それらは全て、ただの余波だ。

 保護結界がなければ俺などとうに吹き飛ばされている。

 

 土煙が晴れた後、炭化していなかった魔獣は亜龍、ワイバーン、ワイズマンの3体のみ。魔力を繰ることができない魔獣は、軒並みエリアルデ支局長の雷の前に消し炭と化した。


「やはり残ったのはこやつらか」

「まあ、予想通りですね」


 俺は強力な磁力そのものを『投影』し、渓谷の土中から酸化鉄をかき集めた。さらにその酸化鉄から酸素を引きはがし、鉄を作り出していく。

 化学結合の解除はイメージし辛いため効率は著しく悪いが、それでもおよそ20の小さな鉄球を得ることに成功した。

 レールガンの弾にする程度ならこれで十分だ。


「『雷切』」


 エリアルデ支局長がそう唱えると、雷雲から一筋の稲妻がすぐ近くに落ちた。稲妻の落下地点にあったのは、バチバチと紫電を散らす抜き身の日本刀。

 エリアルデ支局長がその刀を手に取ると、紫電はエリアルデ支局長をも包み込んだ。 

 

「汝が持つカーテナと同系統の武具じゃ。意思は持っておらぬがの」


 純粋なこの世界の住人であるはずのエリアルデ支局長だが、着物に似た黒い装束を纏い、日本刀を構える姿は、俺が実際の日本で見た誰よりも様になっていた。

 エリアルデ支局長が武器を構える姿を見るのは初めてのことだ。つまりそれだけ本気ということ。


「汝は亜龍を、妾は残りを殺る」

「珍しいですね、俺に見た目の気持ち悪い奴を押し付けないなんて」


 具体的には、見た目の悪いワイズマンあたりを押し付けられるものだと思っていたのだが。

 そんな俺の軽口に、エリアルデ支局長は凄惨に笑みを浮かべて答えた。


「妾もたまには部下に施してやっても良いと思うことがあるのじゃよ。それに今の妾は、高揚しておるのでな!!」


 キュン、と音が聞こえた。その頃には既に、エリアルデ支局長はワイズマンを一刀のもとに切り伏せていた。

 

「俺も負けてられませんね」


 磁力で形成したレールを『投影』。

 そこに生成した鉄球を載せ、俺は最大出力で電流を『投影』した。

 フレミングの左手、ローレンツ力が鉄球に作用し、音速を遥かに上回る速度で亜龍を襲う。

 それだけに留まらない。俺はさらに自身を誘電場で包み込むと、鉄球に一瞬遅れて、同様に自身を射出した。この技を、俺は『ミョルニル』と名付けている。


 クロックアップした俺の眼球と脳は、超音速下にあっても標的を見失わない。

 まず最初にレールガンが亜龍に襲いかかる。

 流石の反応速度で亜龍は物理障壁を展開し、これを防ぎ切った。

 しかし物理障壁は20発からなるレールショットガンを抑えたことにより効力を失い消滅、亜龍が露出する。

 レールガンに対応できただけでも表彰モノだが、しかし、その後に迫る俺を留めることはできない。

 刹那の瞬間の後。

 俺は、亜龍を貫いた。

 亜龍の肉体に大きな穴が開き、残った部分は俺が通り抜けた時に生じた衝撃波で爆発飛散した。俺は空中でレールと逆向きの電流を『投影』して減速すると、振り返った。

 亜龍は倒れ、ワイズマンは真っ二つになり、エリアルデ支局長が今まさに最後の一体、ワイバーン相手に刀を振るっていた。

 魔術で強化した刀剣を持つワイバーンは、エリアルデ支局長の動きに辛うじてついて行っている。

 が、それも、エリアルデ支局長の勝利に終わったようだ。ワイバーンの首が吹き飛び、俺たちと同じ赤い血が撒き散らされる。


 戦闘開始から僅か3分。

 俺とエリアルデ支局長は、7体のテイム済み超A級魔獣を始末した。

能力も使えないまま逝ってしまったAAA級ですが、ちゃんと再利用いたしますので。

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