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放浪する嵐龍王-05

「また、ですか」

「また、じゃ」


 支局に早々と到着した俺を待っていたのは、エリアルデ支局長と十枚弱の書類。

 

「亜龍、ワイバーン、リーパー、ワイズマン…………、全部AAAランクの魔獣ですね。また魔境で魔力の放射があったんですか?」

「いや、今回は無い。いっそその方が妾としては助かるのじゃがな」

「と、言うと……?」

「今回の魔獣共はどうも何者かにテイムされておるようでの。片っ端から魔境近くの村落を襲っているそうじゃ。発見当初に発令された避難指示のお陰で幸い死者は出ておらぬが、時間の問題じゃろうな」


 テイム。

 術名こそ他の高等魔術に比べてシンプルだが、絶大な魔力を以て魔獣を意のままに操る超高等魔術の一つだ。


「でも、AAA級をテイムできるような魔術師なんて限られてくるんじゃ?」

「……居らぬのじゃ」

「……居ない?」

「存命の魔術師で、AAA級を複数体同時に操ることができるような魔術師は居らぬ。より正確に言えば、汝を除いては、じゃが」

「俺……? そんな、俺は何もしてません!」

「分かっておる。そんなことは、妾も良く分かっておる。じゃが、アルキドア帝国やリアナ帝国はどう思うかの」

「どうって…………。っ。そうか……!」

「奴らは汝の居所を知らぬ。汝は世界的には神殺しの後『行方不明』となった魔術師として認知されておるからの。『死亡』ではない。汝にしかできぬはずのことが成されたならば、汝の仕業だと考えるのが自然じゃろう」


 実を言えば俺ができるのは『投影』による強制的な使役であって、魔術に区分されるテイムとは毛色が異なる。

 しかし俺がAAA級魔獣を使役できることに変わりは無い。

 そして、この世界ではできる者が他に居ないという理由で、俺は国家に追われかねない状況に陥った。そういうことだ。


「裏で糸を引く術師を捕まえるためにも、これ以上の被害を広げんためにも、とりあえずテイムされた魔獣共を叩く必要がある。何、心配するな。普段より少々リスキーなだけで、やることは変わらんよ」


 エリアルデ支局長はそう言うと、笑みを浮かべた。

 心強いが、しかし、不安は俺の心にくすぶったままだった。


♢♢♢


 普段ならば、A級以上の魔獣が出現したときはその日の夜中に始末するのだが、今日ばかりはそうも言っていられなかった。

 魔獣共が村を襲うのは、決まって夕方過ぎだったからだ。夜中を待っていては村が一つ犠牲になってしまう。やむなく、俺とエリアルデ支局長は昼間から魔獣討伐に出かけることとなった。

 勤務時間中に俺とエリアルデ支局長が連れだって外出するという事態は男女問わず職員の皆様方に多大なる誤解を生じさせたようだったが、しかしどうすることもできない。

 男性職員の誰かが放った『鎮魂歌レクイエム』という致死呪術を弾き飛ばすと、俺は支局を出た。

 何分時間が無い。くーちゃんをテンペスタさんに預けて、くーちゃんのお守をしているはずの人化したカーテナを妖刀・カーテナとして連れ出すこともできない。AAA級なら、まあ俺一人でも大丈夫だろうが。


 山道を歩きながら、俺はエリアルデ支局長に尋ねた。


「いつもの移動魔術は使わないんですか?」

「誰にも見られる恐れのない夜中ならいいのじゃが、昼間じゃからな。妾があの術を扱えることは、出来る限り知られたくないのじゃよ」


 知られたくない秘密の一つや二つぐらい、誰にでもあるはずだ。

 かく言う俺がそうなのだから、エリアルデ支局長にとやかく言う資格は俺にはない。

 しかし未舗装未開の山道はさすがに堪える。たまらず俺は、エリアルデ支局長に代替案を提案した。


「あの、何なら俺が空間移動で連れて行きましょうか? エリアルデ支局長みたいに一瞬での移動はできないですけど、歩くよりはかなり早く着きますよ」

「ほう、汝の空間移動とな。興味深い。そうしてくれ」

「分かりました。では、俺の手を握ってください。どこか一か所でも俺と直接接触してないといけないんで」

「……ふむ」

 

 俺は左手をエリアルデ支局長に差し出した。座標を移動できるのは俺とその付随物だけなので、二人まとめて移動するためには手を握るのが手っ取り早いのだ。

 しかし、エリアルデ支局長は俺の手を握り返そうとはしなかった。代わりに意図不明の要求を俺に出してきた。


「ハルよ。後ろを向け」

「……? 何でですか?」

「いいから、取って食ったりはせぬから、後ろを向け」

「はあ……」


 言われるままに俺は背を向けた。正直、何をされるのか気が気ではない。


「そのまま、しゃがみ込め」


 こんなことに、何の意味が?

 と思うが、俺は何も言わずに指示に従った。

 エリアルデ支局長の言うことだ。何か理由が


「ふぐっ」


 突然背中に強烈な荷重を感じ、しゃがんだまま思わずよろける俺だったが、気合で踏ん張って転倒だけは何とか回避した。


「エ、エリアルデ支局長!? 何してるんですか!?」


 俺の顔のすぐ横に、エリアルデ支局長の美貌。


「疲れた。妾をおぶってけ」


 エリアルデ支局長程の美人にしなだれかかられてドギマギしないほど俺は枯れてはいない。健全な男の子ですので。

 さらに俺の首に手を回し、完全におんぶの体勢に移行したエリアルデ支局長。


「直接接触しておれば問題ないのじゃろう? ならば良かろう」


 良い悪いで言うのならば、もちろん良いですむしろ進んでお願いしたいくらいです。

 世界を跨いでも彼女いない歴=年齢記録を更新し続け、更には彼女や妻より先に子供ができた俺の周りには、ほとんど女っ気が無い。唯一の女っ気エリアルデ支局長にこんなことをされては、俺の心臓の高鳴りは止まるところを知らずに青天井だ。

 いい匂いするし。

 背中に、何か柔らかいものが二つ押し付けられてるし。

 これなんてエロゲ?

 俺いつの間にリア充に?

 世界ってこんなに俺に優しかったっけ?

 ここが噂の桃源郷パラダイス


「ほれ、固まっておらんで、早う空間移動とやらをせぬか」


 やたらご機嫌なエリアルデ支局長にペチペチと頬を叩かれて、俺はようやく正気を取り戻した。

 エリアルデ支局長は俺にしがみついて離れる様子が無い。

 もはや道は無い。

 俺は脳を支配する煩悩に抗いつつイメージを練ると、『投影』を駆使して空間を跳んだ。

 集中できず、何度か『投影』に失敗してしまったわけだが、その原因なら今俺の背中に張り付いている。

エリアルデさんご乱心

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