科学者と魔術-04
魔力を口の前に集積し、圧縮するイメージ。ここで圧縮が不十分だと溜めた魔力が顔の前で思い切り弾け飛ぶことになる。
なんて、初めて使うはずの『ブレス』の『溜め』をしながら俺は思っていた。
いや、初めてではないのだ。『俺』という意識にとっては初めてのことだが、この肉体にとっては過去何十何百と繰り返した行為に過ぎない。
十分に溜めた魔力を、一息で放出するイメージ。身体はそのイメージに応えてくれた。
風の魔力を帯びたブレスはもはや衝撃波に等しい。
しかしただブレスを撃ち放つだけではインベルの真似でしかない。それだけでも十分強力だが、ここに俺らしいオリジナルを加える。
強力な斥力をブレスに対して『投影』。放射状に広がろうとするブレスを、強制的に一本の筋のような経路に通す。
その上で身体を思い切り逸らして、レーザーのように成型したブレスを振り回せば、立体的にに撒き散らされる『破壊』は平面の『切断』へと昇華する。
悲鳴を上げる間すらなく悪龍の長い身体が半ばから断ち切られ、緑色のおよそ生物のものとは思えない奇妙な血液を振りまきながら再び落下していく。
「インベルの力を上手く使いこなしておるようじゃの」
「そんなことありませんよ。身体に教えてもらっているだけですから。ところで」
インベルの経験が、俺に身体の扱い方を教えてくれているに過ぎない。そうでなければ、俺はブレスはおろか、翼を出して飛ぶことすら不可能だっただろう。
龍体を引っ込めて翼だけを出した龍人形態に戻った俺は、切断面から伸びた繊維のようなもの同士が絡みついて今まさに再結合しようとしている悪龍を指差した。
「あれ、どうしましょうか」
あの様子だと遠からず、つい先程エリアルデ支局長が感電させた時同様に蘇るだろう。一応悪龍の体内の強い魔力反応を示す部位を避けて、収められた魔力が暴走しないよう気をつけながらの切断だったわけだったが、それでも悪龍は肉体の3割は失っている。
細切れにして核だけにすれば何度も何度も殺さずとも事実上排除できるのではないかと思っていたが、そうもいかないようだ。この様子だと、例え肉体の一部を消し飛ばしたところで普通に生えてくるだけだろう。もちろん普通に殺すよりも修復にかかる魔力量は大きくなるだろうから、決して無駄というわけではないが、あまり大技は使いたくない現状、その選択肢を選ぶメリットは少ない。
「せめて核に使われてる術式さえ解析できれば、内から崩せるんじゃが……」
「起動してる状態では無理くさいですし、一度殺して停止させても復活までのラグが短すぎますね。かといって、このまま魔力尽きるまで殺し続けるのも時間がかかりすぎる」
既にリアナ公国の魔獣掃討を担当する騎士団がこちらへ向かっているだろうし、あまり時間をかけていては厄介事が増えるだけだ。かといってこの化物を幾十幾百回もなんとか出来る程の力は騎士団にはないだろうから、放っていくのも後味が悪い。
求められるのは効率だ。術式の規模を抑えつつ、最大限効果を発揮できる方法が必要だ。
ブレスを成型した切断術は悪くはないが、操作を誤って下手なところを切断してしまえば暴走の恐れがある。『神の鎖』すら引き千切るような奴相手に封印も何もないし、周囲の生命体からの生命エネルギー吸収と魔力への転換を止めなければそもそも何度倒しても無駄だ。
と、頭のなかで様々なシミュレーションを繰り返していたまさにその時。
「――――――!!」
遠くの方から、高い音のような、しかし明確に声と認識できる何かが聞こえた。
声は魔力を帯びていて、何らかのパターンのようなものがあるようにも感じられたが、それが何なのかは判別できなかった。
「……魔境の方からじゃな」
「まともな奴ではなさそうですね」
「コイツ一匹でも厄介というに……」
次々と変わる状況に、エリアルデ支局長と嘆息していた俺だったが、都合3回謎の『声』が響き渡ったとき、更なる変化は起きた。
悪龍が徐々に高度を下げていき、やがて地面に這いつくばって身体を丸めたかと思うと、しぼむように小さくなっていったのだ。
あれだけの巨体を誇った悪龍はしぼみ続け、やがて人間サイズを下回り、最後には手のひらサイズの小さな像のような塊にまで成り果てた。
その様を、呆然と俺は見続けていた。




