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科学者と魔術-03

 ォォォォォああああああああァァァァァ!!


 悪龍は咆哮を放ち、スピードを上げてこちらへと突っ込んできた。

 俺は空中に『神の鎖』の魔法陣を展開して12本の赤黒い魔力の鎖を召喚した。

 鎖は龍の四肢を捕らえ、胴に巻きつき、尾を戒めたが、龍の巨体に比してその太さはあまりにも頼りない。もちろん鎖は見た目通りの強度ではないが、やはりその巨体から生み出す力は圧倒的の一言で、ものの数秒で鎖は引きちぎられてしまった。


 だが、それで十分だ。


 俺が数秒足止めしている間にエリアルデ支局長は2種類の魔術の準備を終え、数十発に及ぶ高出力レールガンを放ち終えていた。

 プラズマの尾を曳く金属球が悪竜の肉体に次々と突き刺さり、悲鳴のような叫びを上げた。


「効いとるが、決め手には程遠いの。ハルよ、何かないのか?」


 エリアルデ支局長は心底めんどくさそうだ。


「派手になり過ぎない、って条件での話ですよね。だったら、地道な攻撃を繰り返すしかありませんよ」


『魔神』化すれば、この程度の魔獣なら瞬殺できるが、それをすれば大家にかけてもらっている魔力の波長を封じ込める障壁が壊れて、教会に居所が割れてしまう。めんどくさいが、ちまちま攻撃する以外にはない。

 

「仕方ないの…………。見ておれ、ハルよ。龍の戦い、とくと見せてやろう」


 エリアルデ支局長はより高く舞い上がると、その姿を本来の姿、黒い鱗を持つ龍体に姿を変えた。

 ただそれでも、悪龍との間にはネズミと猫程のサイズ差がある。


 あろうことか支局長は、何の魔術も使わず、身一つで悪龍に突っ込んでいった。

 とてつもないスピードに悪龍は一切反応できず、気付けばエリアルデ支局長は悪龍喉辺りに噛みついていた。

 痛みに暴れる悪龍だったが、支局長は牙と爪を深々と食い込ませ、がっちりと離さない。

 直後、悪龍の全身がビクンと硬直した。

 さらに立て続けに二度、三度と悪龍は痙攣するように身体を硬直させ、地上へと落ちていった。合わせて支局長は脱出し、龍化を解いて翼だけを現した姿へと戻った。


「…………めっちゃ原始的」

「ブレスを吐かなかっただけマシと思え」

「そこまでしたらまるっきり魔獣じゃないですか」

「まるっきりも何も、妾も汝も半分魔獣のようなものじゃ」


 まあ、確かに。

 亜龍辺りと見てくれは大差無い。


「今の、雷撃ですか?」

「牙を通じて体内に流し込んだだけじゃ。これならば見た目の派手さはないし、何より確実じゃろ」


 牙を通じて体内に直接雷撃を流し込み、内側から壊す。理に適っているし、何より強力だ。ただし人間如きの顎や爪で真似できる芸当ではないし、龍の肉体ありきの戦術だ。相手が己より巨大な場合に、なるほどこれは有効だ。

 今まで俺は肉体と武器と無意識的に分けていたが、龍族ほど強靭な肉体ともなれば、そういう区切りは最早必要ないのかもしれない。

 ていうかさらっと流してしまったけど、そういえばブレスという手段もあるのか。


「とりあえず先を急ぎましょうか。こいつに気付いたリアナの騎士団とかが来ても面倒ですし」

「いや…………少し待て。様子がおかしい」

 

 エリアルデ支局長は、倒れ臥す悪龍に目を向け、何かを観察しているようだった。

 俺も気になって悪龍の方に視線を向けたが、そこには煙とタンパク質が焦げる嫌な匂いを放つ死体を野に晒す、悪龍の姿があっただけだった。


 確かに目から得られる情報はそうだ。

 感知に集中してみれば、悪龍の死体の奥底から本当に微かにだが、魔力の波動が感じられた。何も生物は死に至ったら即魔力を失うわけではない。人間程度のサイズならほぼ一瞬で消失するだけで、この大きさの生物ならば、魔力の消失に少々時間がかかることも不自然ではない。


 ただ、それも短時間の話だ。

 エリアルデ支局長に引き止められて数十秒、ずっと悪龍の魔力は消失しなかった。


「おかしいとは思わんか? 何故魔力が消えぬ」


 直後、悪龍の肉体が仄暗いオーラのようなものに包まれた。かと思うと、エリアルデ支局長に与えられたダメージが一気に治癒し始めた。ものの数秒で全身の焦げ跡全てが消え、悪龍は鎌首をもたげた。


 あのレベルの傷から秒単位で復帰できるなんて、一体どんな生物だ。


 悪龍は8つの目で俺たちを見据え、咆哮を放った。

 巻き起こった暴風に長い黒髪をはためかせながら、支局長はため息をついていた。


「厄介厄介。こやつ、東方の魔造生物ゴーレムの一種じゃな」

「東方の、ゴーレム……?」

「生物を象った入れ物に核となる魔法陣と膨大な魔力を収め、作者が与えた命令のままに動く操り人形じゃ。もちろん収めた魔力が尽きればそこで力尽きるが、こやつの場合、周囲から生命を吸い上げて己が内に魔力として蓄えておるのじゃろ」

「……なるほど。じゃあ、核を壊せば」

「待て、早まるな。言ったじゃろう、膨大な魔力を収めていると。これほどの巨体に収められた魔力が核の制御を失ったら、どうなると思う」


 よくてこのあたり一体が向こう何十年かに渡って草一つ生えない不毛の大地となり、最悪の場合近隣の市街地に何らかの影響が出るだろう。案外魔境のすぐ近くだから、魔力を帯びた土地でもお構いなしにぐんぐん成長するたくましい草木が進出してきて、魔境の一部になるかもしれない。どちらにせよ、人が立ち入れる場所ではなくなる。


 カーテナの『破魔』で魔法陣は壊せても、その後吹き荒れるであろう魔力の嵐までは抑え込めない。『魔神』の力が使えれば何でもないことだが、ここで教会に捕捉されれば後々厄介なことになるのは目に見えてる。


「殺し続けて魔力を削るしかない、ってわけですね」

「面倒じゃが、そういうことじゃ」


 何度も何度も、殺しては生き返り続ける悪龍を、その度その度殺し続ける。そうして魔力を削りとって、内在する魔力が枯渇したところで核を破壊する。

 龍の強さはそれほどでもないが、こちらもハンデがある。

 俺は『魔神』の力や神級魔術を始めとした大規模な魔術を使えない。エリアルデ支局長は十八番である雷雲召喚からの諸魔術を使えない。

 その上で耐久力に優れる悪龍を圧倒しなければならないのだから、必要なのは力ではなく技術だ。


 ちょうどいい。

 ぶっつけで教皇との戦闘に及んだ時、俺はあくまでもこれまでの『タカス・ハルト』の戦術に強力な龍族の肉体が加わったものとして行動していた。この肉体の特性を活かすような、インベルと融合した『龍族としてのタカス・ハルト』の戦術を、実戦の中で研究しておいて損はないだろう。

 

 迫る悪龍を見据え、俺は龍体を開放した。


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