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龍神の聖母-31

注意:地の文が大半を占めてます。

 変わり果てた姿ではあったが、くーちゃんを取り返してから1週間近く、俺は体力の回復のために静養していた。龍族の回復力を継承しているためなのか、以前に比べると異常な速さで俺は体力を取り戻すことができた。さらに俺が回復しきる頃にはテンペスタさんやエリアルデ支局長、大家も快癒していた。


 大家は龍玉に変えられてしまったくーちゃんの状態を詳しく調べるためにうちに滞在し、テンペスタさんとエリアルデ支局長はその補助を行っている。過去の文献を漁ったり、くーちゃんの負荷にならない程度に魔力を通して反応を探ってみたりと、やっていることはいろいろだ。もちろん俺もくーちゃんを助けるために行動しているが、俺のアプローチは3人とは違っていた。

 龍玉化を広義に『怪我』として捉えるのならば、それに適合した術式を構築すれば、変化を逆行させて元に戻すことができるかもしれない。実際にこの世界には、例えば火傷に対してのみ効く術式とか、切り傷に対してのみ効く術式とか、症例を限定した回復術式が存在している。同じように『龍玉化』という現象を解析して逆行させる術式を開発すれば、もしかすればくーちゃんを元の姿に戻せるかもしれない。3人は今、『龍玉化』という現象の方を解析し、そのアプローチでくーちゃんを救い出そうとしている。


 一方で、俺は俺にしかできないアプローチで動いている。

 『投影』は事象を概念的に理解し、思い浮かべることでこの世に表す、ほとんど反則みたいな裏技だ。しかし起こせる事象の規模は魔術より小さく、また汎用的な使い方はできない。『神の火』は紫炎を出して一体を焼き払う術式だが、もし『投影』で同じことを実現したければ、まずは『紫色の炎』という現象に対する定性的な理解と、それを実現させるプロセスを具体的に思い浮かべる必要がある。

 そして、何故か生物相手に作用できないという性質がある。くーちゃんもまた生物である以上、『投影』によってくーちゃんを治すことは困難だ。


 ところが、その困難を取り払う術式がある。俺と同じ異世界の人間、梅宮さんが構築した、魔力と『投影』を繋げる術式だ。

 魔力をエネルギー源とすることで、本来『投影』では不可能な生物への作用が可能になることは、既に実証されている。

 その結果として梅宮さんは今アルベルトのところ(当初の予定通り入院して頂いた)で意識不明のまま昏睡状態だし、俺は魔力制御系が一時的にとはいえ使い物にならなくなるし、色々と散々な目に遭ったが、理論上はあの術式を使えば、くーちゃんを元の状態に戻せる可能性は高い。


 問題は、俺の状態だ。

 あの術式は、最低でも2つの魔力制御系を要求する。

 絶えず変化する要求魔力量に合わせて術式への魔力注入量を制御するために1つ、『投影』を組み込んだ術式を実際に実行するために1つ。

 今の俺には2つの魔力制御系がある。

 1つは俺が元々持っていた魔力制御系だ。ボロボロだが、かなり回復しつつあるし、早晩完全に元に戻るだろう。

 もう1つは、インベルの『犠牲サクリファイス』によって俺に付け加えられた、インベルの魔力制御系だ。

 一応両方共俺の意識の統御下にあり、魔力制御系の数は問題ない。

 だが、残念ながらあの術式を俺の意識1つでこなすのは無理だ。

 断言してもいい。制御を誤って暴走した挙句、俺は絶対に死ぬ。

 

 だから今俺が研究しているのは、『犠牲』によって肉体を分け与えた方が本来持っていた意識をもう一度呼び覚ます方法だ。


「我ら龍族の始祖に関わるとされる術式だ。そんな方法があるならば、とうの昔に見つかっていそうなものだ。今更そうそう方法が見つかるとは思えんが」


 大家にはそう言われたが、俺は可能性はあると思っている。

 インベルの魔力制御系は、既に俺のものとして取り込まれ、インベルの龍としての肉体を俺は自分の手足のように扱える。

 もしインベルの意識が消失しているなら、そんなことが可能なわけがない。

 インベルの経験が俺の意識の中に入り込んできていることは言うまでもない。しかしインベルの記憶まで俺のものになっているかと言えば、それは違う。

 インベルの肉体の全てが俺に継承されたならば、記憶もまた継承されて然るべきだ。

 しかし、そうなっていない。


 ここに俺は可能性を見出した。


 1つの肉体に2つの意識があるのは、どう考えても不都合だ。しかし肉体の所有者の意識を完全に取り去ってしまえば、新しく付け加えられた肉体の制御すらおぼつかなくなってしまう。推測だが、『犠牲サクリファイス』という術式は、術式の使用者の意識のうち、自我とでも言うべき部分を封じ込めて不活化しているのではないだろうか。記憶、特に過去の思い出や感情などを含む陳述記憶と呼ばれている記憶は、自我と密接に結びついている。だから一緒に封印されている。それならば『身体が覚えている』という現象の原因となる非陳述記憶が俺の身に残っていて、インベル個人の記憶が一切残っていないことも、まあ説明出来ている。

 ならば、その不活化を解除できるなら、インベルの意識を再び表に取り出すことはできるはずだ。

 

 俺がするべきことは2つ。

 1つ目は、インベルの意識を再び取り戻すこと。

 2つ目は、2つの意識、2つの魔力制御系によって、梅宮さんの術式を使用し、くーちゃんを元に戻すこと。


 俺のアプローチも、大家達のアプローチも結局やることは術式の解析であり、それに対応する術式の創造だ。いずれにせよ、ある程度時間がかかることは間違いない。

 だが、必ずやり遂げる。

 俺は、くーちゃんを必ず取り戻す。

 そうすることが、親としての俺の責務であり、インベルとの約束を果たすことに繋がるからだ。

これにて一先ず『龍神の聖母』編を終了とします。ありがとうございました。

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