龍神の聖母-22
刃はレオナルドの肉体を通りぬけ、しかし一滴の血すら流させない。
『破魔』を纏うカーテナが斬るのは、魔性。人体には傷ひとつ付けず、魔力だけを斬る。
大抵の場合、手応えを感じないままカーテナを振り切ることになるのだが、今回は手に『何かを斬った』という強い手応えが残った。
暴風を起こして砂煙を吹き散らすと、地に膝を着いたレオナルドの姿があった。
あれだけ堅牢だった翼がボロボロと無残に崩れ、虚空に消えていく。その様子をこの目で確認したことで、ようやく俺は勝敗が決したことを実感できた。
しかし『魔神』の力は収めない。まだもう1人『魔神』が残っている以上、ここで気を抜くわけには行かない。
「……そうか、それは……古の魔剣……」
「……古の魔剣?」
「何も……本当に何も知らないのだな……『時空の旅人』よ」
『時空』。
そんな単語が、この世界の住人の口から出てきたことに、俺は驚愕した。
俺同様別の空間、別の時間軸からこの世界にやってきた梅宮さんはともかくとして、この世界の人間の口からそんな単語を聞いたことは、今までのおよそ六年間で一度も無かった。
問い詰めようとしたところで、突如足元に赤黒い魔法陣が出現した。間髪入れずに魔法陣から飛び出してきた同色の鎖がレオナルドの体を縛り、さらに俺まで縛ろうと伸びてくる。
「っ!」
俺は『破魔』を帯びたカーテナで眼前まで迫った鎖を切断した。本体たる魔法陣と切り離された鎖の先端部分が崩れて消滅していくが、尚も鎖は迫ってくる。
上半身を思い切り捻って鎖を辛くも躱すと、『投影』による擬似テレポートで大きく後退する。
間違いない。今のは神級魔術『神の鎖』だ。それも、きちんと12本の鎖を現出させている。魔力や練度が足らなければ12本の鎖を現出させることはできない。『神の鎖』を完全に発動させることのできる魔術師はそれだけで十分な脅威だ。
ジェラルドではない。俺は常にアイツを『天眼』で見張っていた。魔術を発動した素振りはなかった。
では、一体誰が?
以外にも、術者はすぐに姿を現した。
黒いローブを纏う、5人の魔術師と思しき男女。
各々異様な気配を纏っているが、中でも白髪の年若い女性から感じる威圧感はその他4人の比ではない。
この局面でまた援軍。
敵の本丸に攻め入っている以上やむを得ない展開ではあるが、些か露骨過ぎる。
すなわちそれだけ敵もなりふり構っていられる状況ではないということだ。
白髪の年若い女性は、『神の鎖』12本のうち6本に縛られて動けずにいるレオナルドの許に跪くと、頭を垂れた。
「メリオール卿、申し訳ありません。以後のタカス・ハルトとの戦闘は、我々が引き継ぎます。ジェラルド・アウリカルクムも参戦させます。宜しいですね?」
「…………勝負は着いている。好きにするがいい」
白髪の女性は床に手をついた。女性の手を中心として魔力が放射状に放たれたかと思うと、レオナルドを囲うように白い魔法陣が現れた。白い魔法陣は一際強く輝くと、内側のレオナルド諸共消え失せた。
どうやら床に魔法の式が仕込んであるらしい。特定の術者の魔力に反応して術が発動するよう組まれているのだろう。今発動した術式は移動に関するものらしいが、仕込みがそれ1つで終わるわけがない。レオナルドは一切そうした仕込み魔術は使用せず、あくまでも身一つで戦いを挑んできたが、今度のこいつらはそうもいかないだろう
白髪の女性は俺に向き直ると、鋭い眼光を放ってきた。女性の魔力がざわめき、他4人も臨戦態勢に入ったようだった。
「タカス・ハルト、救世主の忠実なる僕に危害を加えた罪は重いぞ」
盗人猛々しいとはこのことだ。何が救世主だ。
これだから、俺は宗教が嫌いなんだ。今も昔も、どの世界でも。
「くーちゃんはどこに居る、って聞いても答えるわけないし、拷問しても言わないんだろうな、お前ら」
1つの価値基準として宗教を受け入れ、入れ込んでいる者の口は堅い。信心深さがそのまま意志の強さに変わるからだ。
「かと言って、ここでお前らを無視して先に進もうにも、ジェラルド・アウリカルクムが通してくれないだろう。だったらもうシンプルに行くしかない」
俺は龍化の度合いを更に上げ、筋力と肉体の強度を上げた。加えて障壁魔術を複数展開し、『魔神』の力に振り分ける力の割合を大きくした。
当然負荷は大きくなり、龍化したこの状態でも体が軋むような痛みが走る。
決してレオナルドとの戦闘で手を抜いていたわけではない。あれ以上力の出力を上げれば、競り負けて自壊する可能性すらあった。レオナルドを撃破した所で力尽き、ジェラルドに負けてしまえばそれまでだ。
しかし、状況は変わった。
敵は魔術師5人と『魔神』が1人。
1対1の戦いではなく、1対6の戦いとなる。出力を無理してでも上げなければ、どうにもならない。
数の不利は厳然とある。しかし、俺は負ける訳にはいかないのだ。
進まないorz




