[006] 確かめファン〔3〕
〔3〕
次にアルシンは、改めて自身の能力程度も確認していた。
最もスキル熟練度の高い能力は、ゲーム開始時に選んだ五つの初期スキル、すなわち【投擲】【魔力】【製薬】【調理】【錬金術】である。
この五つを選んだ理由は、アルシンの目指した戦闘スタイルにある。敵には爆弾や毒薬を投げつけ、味方には回復霊薬類を投げて使うという、いわゆるアイテムピッチャーとでも言うべき立ち回りをやりたかったのだ。その方針は概ね結実し、中盤以降では毒薬爆薬罠ハメ雨あられの凶悪消費投入型デストロイヤーとして一躍を馳せていた。
攻撃範囲には味方も容赦なく巻き込むことになるため、結果としてはますますソロ道を歩み極めることにもなったが。
また、初期においてろくな毒も爆弾も罠も作れなかった頃、主力は投石だった。工夫を重ねたところ、ただの投石でも【魔力】を乗せることで威力や射程を向上させられることが分かり、これの使い勝手を気に入ったアルシンは今でも戦法の一つに用いていた。もちろん流用して投刃や投槍にも魔力を乗せて一撃必殺化しているし、各種アイテムを製造する際にも素材精錬段階から魔力を焚き込めまくったりもしている。
【魔力】スキルは、それ単体では具体性を持たないがあらゆる魔法的能力の基礎となる、といった説明文を添えられたスキルであった。当初は生産系スキルにおける魔化(魔導具作製)の補助として将来を見据えた選択に過ぎなかったのだが、まさか各属性魔術スキルなどだけでなく投擲スキルを始めとした物理系行動とまで組み合わせられるとは、意表を突かれて驚いたものだった。(ちなみに【魔力】スキル単体の効果としてはMP(魔力量)総量の増加と魔力操作の精密さが向上する効果があるものの、本当に単体のままだと事象として発揮する術がないので、役に立たないわけだ)
なお、【調理】は【製薬】の補助的な位置づけで当初は習得したものであったが、今となっては珍味モンスター料理を食する秘境探索のお楽しみとしてむしろ【調理】スキルの方が心のメインさんになりつつあったりなんかして。
ゲーム《ミグランティス》において、レベルやスキルの値は一千がその上限と見なされていた。
実際は数値自体がカウンターストップするわけではないのだが、一千から先はそれまでと比べても格段に上がり難くなり指数関数的に至難化の傾向を示すこと、および一千達成によってMaster印の星印が付いたりいくつかの特典(称号や能力補正、伝授に関する制限緩和など)があるため、プレイヤーの間では一千値をもって「極めた」扱いになっていた。
ちなみに、最前線の一点特化型スーパーハイプレイヤーが情報公開したところによると、スキル値1,024以上が確認されているらしい。これにより、いわゆる「10ビットの壁」が突破され、ならば次なる壁として16ビット(2byte)、すなわち65,535が限界値ではないかと目されていた。なお、根拠としては他にもアイテムストレージの一枠個数限界がリアルマネー課金なども用いた最大拡張時で「FFFF」(16進数の65,535)になることが挙げられている。(ちなみにアルシンさんもストレージ容量は最大拡張済みです)
アルシンは、初期スキル五つをマスター達成している。また他にもメインスキルの補助に早期習得したスキル、例えば【錬金術】の補助に【彫金】、【投擲】の補助に【槍術】などの武器系統と【鋭敏視覚】や【狙撃】といった補正系、さらに立ち回りのための【回避】【柔術】【跳躍】【軽業】【走破】、トラップ系にも手を出しての【罠術】【隠蔽】【隠形】、身を守るための索敵系【察知】【探査】【看破】などは、いずれも高スキル値を誇る。
なお、習得スキルに関しては更に補助の補助の補助……と続くものがある。例えば、【錬金術】の補助に覚えた【彫金】だが、これの更なる補助に【鍛治】を覚えており、更に鍛治の補助に【革工】と【木工】が……、となるわけだ。際限がないため、ある程度のところで割愛せざるを得ないが。
こうした自身の能力を鑑みた上で、今回の周辺探査には【錬金術】によるゴーレムを用いた遠隔偵察が低リスクかつ効率的だと判断した。
ただし、このゴーレムを使用するということ自体にもまた、一定の危険を見込まなくてはならない。すなわち、ゲーム時と同じく隷従的かつ安定して動作するかどうかが不明であることだ。少なくとも初めの一度だけは、危険を承知で試してみるしかない。
考慮の末、アルシンはこのリスクは踏み込むことにした。
むろん、対策は備えた上で、だ。円陣内を封鎖する隔離障壁陣や縛鎖投射罠、万一の際の爆破陣などを複層敷設しておき、その中で中型の哨戒用ハウンド(猟犬)型ゴーレムを一機だけ起動した。特殊行動や戦闘の能力がなく、また大きさが巨大でないのはもちろんのこと小さすぎても人体に対して脅威度が増すため、それら併せて最も扱い易いだろうこれを選んだ。
結果、特に問題なく命令通りの挙動を示したため、そのまま同型のハウンドタイプを五機ほどストレージから取り出して追加起動、近中距離の対地哨戒任務へと放っておいた。
そして改めて、イーグルタイプ八機を上空八方へと放ったという次第だった。
これらスキルの能力確認は、おおむね問題がなく、その点は一安心ができた。
魔力を込めた投石であれば従前通りに貫通力や爆裂力を発揮したし、それが投槍ともなれば岩をも貫き大地を穿った。
薬品類も調合できたし(ただし効能確認はいきなり自身で人体実験する気はないので、後回しにしてあるが)、作成した爆弾も不発や動作不良なく発破できた。
【柔術】を基軸に【跳躍】や【軽業】を組み合わせた体裁きは達人どころか超人だの人外だのの域だったし(マンガめいた空中殺法も軽くこなせた)、自身でも思わずドン引きするほどの高速で走り回れるくせにいくら走っても軽く汗ばむ程度で体力の底も見えない。
【探査】によって数キロメートルも先までの生物気配らしき幾千もの情報が脳裏に流れ込んできた時には驚いたが(ゲーム時には簡易マップウィンドウに表示反映される形だったのだ)、その膨大な知覚情報量が特に苦痛であったりもせず、効果範囲自体はゲーム時のスキル値性能に準拠したものであることも分かった。
能力は、凄まじい。また、それで身体能力が優れていることはいい。アバターの身体だ。
しかし、脳裏への情報反映やら処理性能の超人性、これは看過するには恐ろしい要項だった。
この点への懸念を考察するため、更に他の要素にも確認を広げていく必要があった。
2013年06月04日18時、【魔力】スキルの説明文(習得意図に関する)に抜けた要素があり理解し難くなっていたので修正させて頂きました。




