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ぼっちーと オフライン  作者: あんころ(餅)
一の章、誰がその手を汚せといったか
6/24

[004] 確かめファンタジー

     〔1〕


 明けて翌日。

 アルシンは空の白む光とともに目覚めると、寝床から這い出す。

 まずは顔を洗うかと、無限給水筒(魔導具の一種で、少量の魔力消費で清水が湧き出る)から適当な桶に水を注ぎ、顔を洗う。拭いに使うタオルは、ゲーム時において実用的な利点はないが雰囲気出しのために導入されていた、いわゆる「フレーバー要素」に分類されるアイテムの一つだ。こんな物も趣味プレイに走った層のプレイヤーたちにとっては収集の対象であったのだが、まさか役に立つ日が来るとは思わなかった。今はただありがたい。


 寝床は結局、いくつか持っている野営用セットの中から中型のテントを使用した。

 昨日に昼下がりから周辺探索を行ったところ、ちょっとした岩場の割れ目を見つけたので、そこをキャンプ点とした。岩場の割れ目具合がちょうどいい感じに入り組んでいて、外側から直線的な視線が通らない位置取りだったため、防衛的観点から都合がよかったのだ。

 また、このテントセットは高性能品であり、モンスターを寄せ付けない高強度の安全防護結界付きだ。しかし、それだけでは安心できる心境ではなかったため(なにより怖いのは悪意の人間でもあるし)、付属結界とは別に手動で広域探知結界やら反衝防壁陣やらを幾層も敷いた上、侵入予測経路上には凶悪トラップ群をこれでもかと設置しておいた。もちろん、上空や地中からの侵入に対しても抜かりはない。

 問題は、アルシン自身が出て行くのも大変だということだが。まぁ、身の安全には代えられまい。

 ちなみに、テントの大きさと頑強さは個人用とは言えない規模のもので、ちょっとした軍用拠点としても用いられそうなタイプだ。内部の設備としては、寝室やキッチンどころかシャワーやトイレもある。シャワーはお湯も出るし、トイレは水洗だ。(その上水と下水がそれぞれどこから来てどこへ消えていくのかは、誰も知らない永遠の謎である)


「さて……。今日からは当面、周辺地形の探索を進めつつ様々な事柄の確認、となるわけだが……」

 その前に、一晩寝て起きても現実への復帰も何もなかったな、と思わず嘆息せざるを得ないアルシンだった。

 だがこれで状況判断が一つ進むことになった。

 すなわち、一時的な白昼夢や幻覚症の類いである疑いの薄まりと、外部からの早急な救助的干渉に対する期待性の減少である。

 これは悪い意味もあれば、良い意味もあった。

 悪い意味としては、勝手に助かるということに期待できなさそうだということ。良い意味としては、状況が性急に悪化していくということでもなさそうだ、ということだ。なんとなれば、問答無用で殺されるなり消されるなりといったことすらありうる事態なのだから。

 そんなことになっていないだけ、この状況とて“はるかにマシ”な部類ではあるのだ。なぜなら現実でだって、交通事故で突然死、などといったことは珍しくもないのだから。

 まぁそうは言っても、まだ二日目に過ぎないため、そこまで大きくは何を断じられるというほどのこともないのだが。


 アルシンには、いくつかの特に早めに確認しておきたい事柄がある。しかし、それを実行する下準備として周辺地形の把握が必須だった。

 そのため、まずは周辺探査から手を付けることにする。もちろん、並行して出来ることがあれば、そちらも手抜かりするつもりはない。


 そして数日かけてアルシンは、様々な確認を進めていった。

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