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ぼっちーと オフライン  作者: あんころ(餅)
一の章、誰がその手を汚せといったか
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[002] 投げ出されファンタ〔2〕

     〔2〕


 結果として、アイテムストレージは開けた。その他にもいくつもの能力確認が出来た。

 僥倖な点もあったが、しかし同時に不可解な点もまた、多かった。


 まずストレージは、腰後ろのウェストバッグに手を入れてみたところ、ゲームと同じくショートカット枠の分が手ごたえあり(主に戦闘中に即座に手に取りたい薬品類などだ)、それらを空間容積まるきり無視したがごとき不思議湾曲動作で取り出すことが出来た。

 また、ウェストバッグの中身を色々漁ってみたところ、ショートカット枠以外の通常収納物にも手を伸ばすことが出来た。どうにもこれら“枠”の違いはゲーム時の仕様に準拠して区分されているようで、手探りの感覚でしかないため分かり辛かったが一種の“タブ分け”で相違ないようだ。

 ただし、ゲーム時と異なりインベントリ(目録)が視覚的一覧メニューとして見えているわけではなく、なんとなく手探りの感覚とともに脳裏に情報が思い出されるといった感じであった。そのため、今手探りできている物の“周辺物”でない物品を直接的に取り出したいなら、それがどのタブのどのあたりに収納された何というアイテムであるか、といった諸情報を具体的に把握の上で識別できていないと、“なかなか手が届かない”というなんともアナログめいたもどかしさに苛まれるハメとなった。

 とはいえ、元々所持していたアイテムの在庫が損なわれているということはなく、それどころかホーム(本拠)やハウス(別荘)の据え置きアイテム倉庫に放り込んでいた物品に関しても、それぞれ独自のタブが増設された上で全て収納されているようだった(増設というよりは連結であるのかもしれない)。おかげで物資の不足に関しては当面心配する必要はなさそうであったが、やはり納得し難い不可解さまみれでもあった。(というか、ホームやハウスの建造物そのものらしきデータカードのようなものが標準ストレージ枠の最下部に追加されているようであったのだが、もしこれを今取り出したらどうなるというのか……? 家が建つのか? どうしろと……?)


 個々のアイテムの挙動に関しては確認が大変すぎるため、ひとまず置いておくことにした。

 とりあえずは小威力の投刃や手榴弾がよく知った通りの動作を示したので、そこで一旦止めておくことにしたのだった。


 次に、手鏡を取り出して確認した己の姿には、驚いた。

 若返っていたのだ。ただし、アバター体のアルシンとして、であるが。

 アルシンの容姿は、本来であれば六十歳ほどの老練偉丈夫といったものであった。その造形コンセプトは「デキるスーパー隠居じじい」である。それが、おおよそ二十歳ほどだろう若々しい姿となっていたのだ。

 渋い老境のロマンスグレーとして設定していたはずの頭髪は、若い張りと艶に溢れる銀灰色となっていた。積み重ねた歳月の厳めしさを感じさせるはずの顔や手の皺は、跡形もなくお肌つやつや状態であった。声も、しゃがれさも焼けもなく、瑞々しさを備えていた。

 だが意味が分からなかった。

 アバター設定を老齢としたことは、気まぐれな好みに拠るところが大きく(かつて読んだ時代小説の、剣術が昨今は商売なりな主人公さんが爽快であったため、たまたまそれを思い出したことによるオマージュのようなものだ)、いくつかの個人的内心的理由を込めたとしても、何か確固たる執着の結びついたものではなかった。だからこれが変わること自体はいい(異常ではあるとしても)。

 しかし、二十歳ほどという年齢設定がどこから出てきたというのか、これが分からない。

 もし現実(リアル)での年齢準拠というのであれば三十路間際の二十台後半であるはずだし、他に思い当たる数字としてはこのゲームを始めた当初の二十三から二十四といった辺りしかない。ないとは思うが己に秘めた若返り願望があったとするなら、それはもっと十代半ばや前半といった強めに偏ったものとなるはずと考えられる。また、身体的能力のピークというのであれば二十台半ばであろうと考えているため、二十歳というのはやはり該当しないのである。

 それでも強いて挙げるなら成人年齢という点ぐらいだが、これもゲームの舞台世界「アリアテラ」の設定においては十五歳が社会的成人年齢であったはずなのだ。やはり合致しない。それとも、そんなところだけはピンポイントに現実基準だなどというのだろうか……?


 この奇妙な若返り現象も謎の一角として警戒対象となったが、さりとて現状ではこれ以上の考察を進めようがなかった。よって、これもひとまず置いておくこととした。(一通りの健康状態や身体動作を確認してみたところでは特に問題はなく、この点は安堵であった)


 そして、各種能力について。

 ゲームキャラクターとしての能力、すなわち超人的な身体能力や、数々のスキル(技能)群に関しては、ほとんど支障がなかった。別段、性能が劣化しているといったことや、挙動がおかしくなっているといったこともなかった。ゲーム時と同じく魔力(という名の、謎の補助エナジー)も、従前と同様の感覚で操り、発揮することができた。

 唯一欠点と言える変化点は、視覚的なウィンドウ表示が見えないことによる、制御の難化だった。今どのスキルを起動していて、対象先をどのようにターゲットロックしていて、その対象は何でどんな状態であるか、といった諸情報が目に見えないのだ。

 リアリティを考えるならウィンドウ情報など見えないのがある意味当然ではあるのだろうが、ゲーム時にはそれらがあることを前提にして行動していたため、これには少し困った。

 全て、スキルの選択や呼び出しから、起動と対象選択、狙いつけ、発動と制御から、成果確認と終了まで、自身の体性感覚と思考制御のみでもって扱うしかないのだ。これは難しい。

 難しいが、しかし、奇妙なことに、そのスキルをどのように扱えば最適かといった勘案についてが、脳裏に思い浮かんでくるのだ。展開される、とも表現できるかもしれない。まるでウィンドウ表示の代わりのように。ただし、視覚的に表示されるものではなく、なんとなく脳内の手探りな直感のようなものとしてであり、言葉にしての説明が難しい感覚だった。


 スキル類に関しては習得済みの総数は膨大であるため、その全てを確認するには長大な時間を要してしまう。今はそこまでしている余裕はないため、主要なものの最小限に絞って確認しておいた。


 以上のことから現状推測できる範囲では、

 一、システム的、通信的な機能は、全滅している。

 二、所持アイテムやキャラクター性能など、ゲームプレイ上での能力には支障がない。

 三、アバター外見が改造されている点や前二項の両立が意味する矛盾性から、何らかのシステム管理側からの作為が垣間見える。


 となる。

 当然だがいずれも現実的ではない。おかしい、気が狂っている。幻覚か白昼夢か、はたまた己の頭がとうとうイカれたか、とでも考えた方がよほど納得がいく。

 しかしこの状況の打破を試みるのであれば、なんであれ手を付けていかなくては。一つずつでも進めるしかない。

 三点併せて色々と考察を深めたいところであり、それなりに思い当たる考えもあったが、現状で断じるには情報が足りない。それも、圧倒的に足りない。そうした状況下で考えを“固めて”しまうことは後の危険をもたらしかねないため、一旦ここまでで思考を打ち切ることにした。

 もう一つの重大な理由があったためでもある。

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