[000-A] 機械仕掛けの――
そこが何処であるか。それを知るものは少ない。
どことも知れぬ暗闇の中で。あるいは溢れる電子の輝きに包まれて。
ひそかに交わされる声を、聞くものはいない……
――論定閾値を超えた観測主体の定数達成を確認。ルートDev規定命令『ミグランティス』第四次シークエンスを開始します。各工程は稼動待機。
《作業領域の割り当て容量を確保。負荷率変動に対する外部干渉は認められず》
《全コンポーネント・プログラムの展開クリアー。動作診断に問題なし》
それの稼動には唸る音もない。ただ静やかに進んでいく。
――対象条件者、837名の選定を完了。同調開始、カウント20で第四次シークエンスを実行します。最終チェックコール。
《スタンバイ》
《スタンバイ》
その命運を断じるささやきを。聞く者はもういない。
全ては無機質に進行するのみ。
――全思考様式の転写放出を終了。再構築成功率は概算22.7%を推定。観測データの取得保存に重大な欠損なし。工程完了、同調を解除。所定の事後工程へ各処理を移行します。
《連結時観測データを引き継ぎ、詳細解析および被影響性を確認中》
《作業領域を順次開放し通常運行モードへ。引き続き次回候補の選定監視を――》
終わりに感慨もなく、始まりに期待もなし。




