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1.少年と蒼月

全国高校生童話大賞に出すつもりで、書いていたモノです。

「お前さんは知っているかい?蒼い月からオルゴールを貰った少年の事さ。そのオルゴールは、蒼い月が少年の未来を祈って、あげた物だぜ。流れるメロディーは〝月のワルツ〟らしいさ」



 そんな話を、旅先で泊まった宿の主人から聞いた。私は、その話の少年に会いたいと思い、目指した。分かった事は、その少年は街外れの小屋に、一人で暮らしていたという事。私はその少年の家に向かい、ドアをノックした。コンコンと。



「はい、何の用ですか?」

「私は、君の話を聞きに来たんだよ」

「お兄ちゃんも、オルゴールを?」

「私は、君が蒼い月に会ったと聞いたから、興味が湧いたんだよ」



 私は少年の真っ直ぐな瞳を見つめていた。少年の言葉から、大勢の人々がオルゴールを聞きたがっていることに気が付いた。身寄りのいない少年。私はそのことが、不憫に思ってある提案をした。



「私と暮らしませんか?」


 私の言葉に、少年は驚いた。唐突だったかもしれない。


「此処に君だけが住んでいるのは、おかしいからね」

「……して…」

「はい?」

「一緒に…暮らして…」


 少年は、恥ずかしそうに私の服を掴みながら言う。その言葉を聞いて、私はニコッと笑う。


「そうだね、暮らそうか」


 この日から、私と少年の暮らしが始まった。


「お兄ちゃんの名前はなんていうの?僕はね、裕っていうの」

「私は蒼月というんだよ、裕君」

「うん、分かった…蒼月お兄ちゃん」


 私は裕君の頭を撫でる。


「食事にしましょうか」

「今日は何が出るの?」


 私は裕君と、夜を共にした。その日の夜は、雲がひとつも無く澄みわたり、月が寂しそうに輝く。まるで、私と裕君の心情を表しているかのような、空模様にいかにも月が踊りだすような綺麗な月がある。私は月に向かって、口すさむ。



『私と踊りましょう、お月さまよ。風が音楽、草木や動物を観客に、私たちのワルツを見せましょう』


 と、その時、音がした。私が振り向くと、裕君がいた。


「それが〝月のワルツ〟なの?」

「そうだよ、今のが〝月のワルツ〟だよ」

「それは、蒼い月と僕しか知らないはずだよね?」


 裕君は、そう聞く。


「僕のオルゴール、聞いたんだね!」

「違うよ…〝月のワルツ〟は、私が作った曲だから」

「蒼月お兄ちゃんが作ったの?」


 私は裕君の驚いた顔を見て、笑う。


「皆に喜んでほしいから、作ったんだよ」

「そうなんだ、だから知っていたんだね」


 私は裕君に隠していた。自分の正体を。裕君の笑顔を見ていたら、言えずにいた。私は〝月のワルツ〟を歌う。


『私と踊りましょう、お月さまよ。風が音楽、草木や動物を観客に、私たちのワルツを見せましょう。

花は舞い、草は揺れ、風は奏でる。私とお月さまのワルツは毎日続くでしょう』


「続きはあるの?」

「そうだね、続きはまた今度だよ」


 私は裕君を部屋に戻す。裕君を寝かしつけた後、私は〝月のワルツ〟の相対の〝太陽のポルカ〟を作る。これは、オルゴールに入れて裕君の枕元の置いておくつもり。


「やっぱり、私は人が好きなんだね…」


 多くの人々に出会って、分かったのは〝好き〟だという感情だった。夜が更けて、いつの間にか朝になっていた。


「蒼月お兄ちゃん!僕のオルゴールが…壊れちゃった!」


 裕君の小さい手には、壊れたオルゴールが乗っていた。ぜんまいは伸びきっており、木の箱は至るところにヒビが入って、トゲは折れていた。


「大丈夫だよ、私が直してあげますよ」


 そう言って、私はオルゴールに手をかざす。オルゴールは淡い蒼の光に包まれて、みるみると直っていく。


「うわ~、凄い!直っている!」


 私は笑って、裕君に渡す。直ったオルゴールを抱えてはしゃぐ。


「ありがとう、蒼月お兄ちゃん」

「いいんだよ、壊れたままじゃなくて、裕君に聞いて欲しいから」


 私は寂しそうに笑って言う。裕君が開いたオルゴールから、流れた柔らかい音の旋律が流れて、あの時の記憶が浮かんだ。小さな少年と出会ったあの夜のことが。


「裕君に秘密にしたくないよ…」


 私は言えずにいた。と、その時。


「蒼月お兄ちゃん、聞きたいことがあるの」

「聞きたいこと?」

「蒼月お兄ちゃんは、あの夜、僕にオルゴールをくれた蒼い月だよね?」

 


 ーーそれを聞いた私の顔には、笑みが零れていた。



「あの夜、オルゴールをあげた蒼い月は…私ですよ」

「だから、あの時、オルゴールの話を聞かなかったんだね」


 裕君は確信したみたい。私は嬉しく思う。気付いてくれた事に。


「空に浮かんでいる黄色い月は、私の弟だよ」


 私は夜空を指す。


「あの月も、なれるの?」


「大丈夫だよ、私が手伝えばなれるから」



 私は裕君を寝かせようとする。しかし、裕君は何処で私が蒼い月と分かったんだろう。寂しい蒼い月は、人の姿になって旅をした。特殊な条件を満たした夜にしか、出て来れず、どんなに地上に憧れたか。何世紀も思い続けてきた。オルゴールは、旅行く人に教えてもらい、作った。たくさんの子供の笑顔を見て、あげて良かったと思う。



「私は地上に憧れていた、多くの楽しみを抱えて」


 私は口すさむ。


『私と踊りませんか、太陽さんよ。風が音楽、草木や動物も交えて、私たちのポルカを見せ付けましょう。花は舞い、木は揺れ、風が奏でるだろう。私とあなたのポルカ、楽しく踊りましょう』


 歌っていて楽しくなる。


「蒼月お兄ちゃん…」


 裕君はドアから、顔を覗かせていた。ありがとう――。そう、裕君の口は動いていた。


「いいんです。楽しかったですよ」


 そう言って、私は裕君の家を離れた。


 そして、街へ向かっていく。裕君のために、私はある物を買いに行った。


「確か、此処にひっそりと、営んでいたと聞いたはずなんですが…」


 私は噂で聞いた、秘密の店を探した。その店は、〝幻〟の店と言われている。


「あ、あれが噂の店ですか」


 私はお目当ての店を見つけ、駆け寄った。怪しい感じの雰囲気が漂う店だった。


「すみません。此処に〝白鍵《しらかぎ》の秒《びょう》〟はありますか?」


「ああ、確かにあるが、よく見つけられたな」


「私は人間ではないので、見つけられるのですよ」


 そう言って、私は証を見せた。


「ああ、確かだな」

「では、出していただけますか?」


 私はそう言って、笑う。


「ほらよ、〝白鍵の秒〟だ」

「ありがとうございます」


 私は店を出て、裕君の家に向かう。街から離れた、一人だけの家。


「裕君、今から君だけのオルゴールを作ってあげるよ」

「え?僕、持っているよ?」

「それは、皆が持っているオルゴールと同じだよ」


 私はそう言って、作り始める。


「これ、白いね」

「ああ、これは〝白鍵の秒〟という物だよ」

「〝しらかぎのびょう〟?」

「これは、自動でネジを巻いてくれるんだよ」


 そう言って、私は次々と組み立てていく。一人の少年しか、持っていないオルゴール。世界に一つしかない最高の物。私は丹念込めて、作り上げる。


「裕君、出来ましたよ。これを大切にしてくださいね」

「うあ~、凄いね」

「珍しいのだよ。私が誰かのために作る事は」


 そう言って、私は裕君の頭を撫でた。

 一人で暮らしていたご褒美に。後は、壊れたオルゴールを大事に持っていたから。私は、純粋な裕君を見ていて、なんとかしてあげたいと思ってしまった。


「蒼月お兄ちゃん、どうして僕と暮らしてくれたの?」

「……裕君は、一人で暮らしていてどうだったかな?」

「怖い…。お父さんもお母さんもいないから、寂しいよ…」


 裕君は悲しい瞳で、私を見る。


「だって、皆…僕から離れていくの」


 涙を流して、泣いている裕君を私はただ、無言で頭を撫でた。泣き止むまで、待ってあげた。


「〝誰だって、寂しいのは嫌ですよ。でも、傍にいる人もいる事を忘れないでください〟」


 私は裕君を抱え上げて、そう言う。


「そばにいる?」

「裕君には、私がいるでしょう?」



 そう言って、私は裕君の頭を撫で、居間に向かう。一人で暮らすには、寂しすぎるほどの家。裕君は一人で孤独と戦っていた。それを、見ているのは私でも寂しい。

 だから、あの時に〝私と暮らしませんか?〟と言った。裕君は恥ずかしそうに言って、私の申し出を受け入れてくれた。嬉しいと思ってしまったんだ。人間は言われると、こんな気持ちになっていたんですか?私には、理解出来ない事ですね。

 そういえば、オルゴールと言って思い出した事がありました。それは、約45年前に私が旅の途中で立ち寄った村でのお話を。



    ***



『オルゴールの奇跡』


 昔々、ある村にオルゴールを作る若い男の職人がいました。


 彼は、昔からの婚約者である彼女のために、オルゴールを作っていたのです。


 彼が作るオルゴールを気に入ってくれていた彼女のために、精一杯真面目に取り組み、何年も掛かって作り終えた。


 彼女はとっても喜んで、彼が作ったオルゴールを大事にしました。


 それはそれは、幸せなカップルであったのです。


 村中の人たちが、二人を祝福していました。


 ところが、ある日…事件が起きたのであった。


 それは、彼の婚約者が隣の村から発生した流行病に罹って、死んでしまったのです。彼は、何日も泣き続けました。


 自分が落ち込んでも、彼女が帰らないのは分かっていました。


 だけど、自暴自棄になっていた彼を一人の旅人が問いかけたのです。そして、彼の話を聞いた旅人は、ある提案をしました。


「その婚約者を生き返らせることは出来ますが…あなたはどうしたいですか?」


 旅人からの返事に彼は、飛び付きました。


「……そうですか。それなら、あなたのオルゴールを貸してください。――私があなたのオルゴールを使って、奇跡を起こします。だけど、一つだけ条件を付けます。それは、このことは秘密にしてください。」


「ああ、別に構わないが。どうしてなんだ?」


「私は〝人間〟ではありません。こういうことです」


 そう言って、旅人はオルゴールの手をかざした。


 ――すると、オルゴールは淡い蒼の光に輝きました。


「では、このオルゴールを婚約者さんの遺体に聴かせて上げてください」


 旅人はそう言って、彼から離れた。


「あんたの名前は?聞かせてくれないか」


 彼の言葉に、旅人は振り向いて、笑いながら言う。


「私は蒼月です。また、会えることを祈りましょう」


 旅人は微笑んで、村を出ていきました。


 この後のことは分かりません。きっと、仲良く暮らしているでしょう。




    ***




「蒼月お兄ちゃんは、どうしてこの世界に降りてきたの?」

「それはね、〝人間〟のしていることに興味が沸いたからだよ」


 裕君は、よく分かっていないみたい。


「分かりやすく言うと、私は皆がどうして楽しくしているのか、知りたかったからだよ」

「へえ~、そうだったんだ」

「それに、私は〝人間〟のことがよく分からないんだ。何故、そこまで他人に優しくなれるのか。自分の利益にならないのに」


 私には、一生を掛けても分からないままなのかな?

 〝人間〟じゃないと、『ココロ』が分からないのかな?


 私は裕君の家にいる。裕君は私が作ったオルゴールで、毎晩寝ている。

 初めて作ったオルゴールだから、形がいびつになっている。でも、裕君は大切に持っていてくれた。壊れてしまうまで。


「嬉しいですね。大切に持ってくれていたとは。」


 そう呟くと、何故だか胸が痛み始める。この…感情は何だろう。神には分かるのだろうか?私には、到底理解出来ない。

 この感情はなんという名前だろうか。

 私が知っている名前は『恋しい』だけ。それとも、『愛しい』なのか。

 中でモヤモヤと煮えきる、親愛の『ココロ』。


「私はどうしたんだろう。〝人間〟のような感性を感じるとは。理解を超える感情です」


 あなたは〝分かりますか〟?

 私には分かりません。だって、月ですから。

 まあ、それは横に置いておきましょうか。本題からずれましたから。

 オルゴールは、誰でも作れます。簡単ですし、綺麗ですから。

 

 

 ーーさて、〝あなたには、好きな物がありますか?〟



 私の好きな物は、弟です。たった一人の肉親だから。最後まで、見守っていなくてはいけない存在。失ってしまわないように。


「しかし、私の感情はなんだろうね」


 考えることは、自分を保つ最良の手段。

 あなたは、理解出来ますか?親に教えてもらえない感情の理屈を。

 なに、難しい話はしていないから。誰にでも、きっと分かる日が来ます。

 だって、0と1の理論を〝人間〟は理解しようと足掻いていますから。

 別に、私はあなたを害しようとはしません。

 それに、私には何の権利もありませんからね。


「多くの物を失って、なお生きていけるのは素晴らしいですね。私も沢山、学ばせていただきました」


 裕君の元へ、帰りましょうか。

 私は買い物を済ませる。

 裕君には、留守番をしてもらっているから、何か買っていきますか。

 最近の子供は、何が好きなんでしょうか?

 私には、常識は通じない。というか、何も知らないから、勉強しに降りた。……さっぱり、ですね。


「裕君は、何をあげたら喜ぶんだろう。分かりませんね」


 今になって、実感したかな。親とは、なんて素晴らしいんだろう。子供の事が分かるのだから。子供の好きなモノを把握しているんだから。


「私も頑張ってみますか」


 裕君が私の帰りを待っている。好きなモノは、いつか聞いてみよう。

 おや、家が近くなりましたね。


「ただいま。お留守番は出来ましたか?」

「うん!出来たよ」


 裕君は無邪気に笑って、そう答えた。

 泥だらけのまま、私を待っていたみたい。


「先にお風呂に入りなさい。その後で、ご飯にしますよ」


 そう言って、私は料理を作り始める。


「そういえば、裕君は何が欲しかったんだろう?」


 今なら、聞けるかもしれない。多分、裕君は欲が無いから簡単なモノで済ますのかも。

 私的には、別に構わないんだけど。でも、我慢する子だからね。


「蒼月お兄ちゃん、出たよ~」

「出ましたか。ちゃんと、拭いてね。風邪を引いてしまいますから」

「今日の夕飯は、何~」

「エビのピラフだよ。あ、そうだ…裕君は何が欲しいのかな?」


 私は、そう言ってみた。もしかしたら、言ってくれるかもしれないから。私の手に入るモノだと思うから。


「蒼月お兄ちゃんが一緒にいてくれるだけで、僕は何もいらない」

「――えっ…」


 それは、嬉しくなる言葉だった。私と一緒にいたい、と言った裕君の欲のない、純粋な願いだから。


「ふふふ、分かりました。では、一緒に暮らしていましょうか」


「うん!」と、元気に言って裕君は笑う。

 街の外れに佇む小さな小屋に、小さな子供と不思議な見た目をした青年がいました。

 それは、きっと仲のいい兄弟か親子に見えたのでしょう。


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