プロローグ
お伽噺の中の存在であった蒼い月が、初めて人間の子供たちにオルゴールを送った。その中に、一人だけ蒼い月が『ココロ』の底から親しみを持ち、自らの手でオルゴールを作り渡した。
それは、世界にただ一つしかない蒼い月のオルゴール。その特別な音を聞きたいと世界中の人たちが、その少年の許に訪れる。
その少年は毎日訪れる人たちの心が醜く、自分の事を珍しそうに見てくる目に疲れ果ててしまった。
それを見ていた蒼い月は、『少年を助けたい』と思った。
ーー『ココロ』を持たない蒼い月は、自分の中に芽生える『何か』の意味を問い続ける。そんな蒼い月の背中を黄色い月は寂しさを隠して、後押しをする。
斯くして、蒼い月は弟である黄色い月に仕事を任せ、人間に姿を変えて少年の許に向かう。
それは、蒼い月が初めて『ココロ』から思った感情。自分が持った事のない、この感情の意味を知るために旅に出る。
蒼い月は人間に何を思い、付き合っていくのか。それを知っているのは世界を造った創造神だけ。
そして、黄色い月は何を思い、兄の蒼い月を送り出したのか。
さて、物語を語りましょうか。
「蒼い月はずっと、夜にしか存在していられなかった。
何故なら、自分が月だったから。それでも、人間たちを見ていた。
毎日、人間たちが起きてから寝るまで、観察しては思っていた。
どうして、人間は楽しそうにしているんだろう。
人間になれば、楽しくなるの?
考えた末に、思いだった。
――そうだ、自分が降りればいいんだ――
蒼い月は人間になる術を探し求めた。
そして、ようやく知った。
ある夜、蒼い月は人間の姿に変えて降りてきた。
彼の名前を蒼月と云う。
その容姿は白髪に蒼い瞳の青年だった。
そして、彼は旅に出て行く。
これは、長きに渡る旅の始まりに過ぎない。
まずは、いつだったか、少年にあげたオルゴールから辿っていこう。
きっと、少年は元気でいるだろうと思い、会いに行くことにした。
何も持たずに、その足で少年の噂を求める。
――彼は、色んな場所を渡り歩くーー
それは、時間すらも超越するほどに。
誰も彼の素性を知らず、昔からの知り合いのように接する。
彼が、何世紀も昔からいる事を知らない。
皆が懐かしいと思うのは、彼が蒼い月として夜に君臨していたからだろう。
今は、彼の弟である黄色い月が夜を暖かく見守っているから。
だから、彼は気兼ねなく旅を続けていられる。
彼の知っている物語は、童話という形で語られている。
しかし、語られる物語はどれも年代がバラバラである。
彼は何を想って、旅を続けては物語を語っているんだろう。
誰もその理由を知らない」
さて、これはまだ物語の序章に過ぎないよ。次から、話が始まるからさ。