マーガレット
深夜。何か聞き慣れない音がする。窓に目をやると、手が窓に張り付いていた。
一瞬体が凍った。手が窓を開けようとしているからだ。私が怖くてその場から動けずにいるうちに、窓は開かれてしまった。
窓を開けた人物は窓の桟に片膝をつき、私を見下ろした。
「……レ、レオン!?」
私のその言葉を合図に、彼は部屋に入ってきた。
「久しぶり。誕生日おめでとう、メグ」
開いた口が塞がらない。間違いない、レオンだ。目の前に、幼馴染が居る。
10年の歳月を経て、レオンはそれなりにかっこよく……じゃなくて!
「な、なんでここに来たのよ!」
はい、と彼は私の手に強引に、何かを握らせた。手を開いてみると、それは真珠でできた、薔薇のピアスだった。
「お嬢様の君には、こんなの要らないかもしらないけど、まあ、受け取って?」
「……あ、ありがとう」
ピアスを両手で握り締める。嬉しい。顔、赤くなってないかな。
「実は俺、出征することになったんだ」
彼の突然の告白に、危うくピアスを落としそうになった。
「え……?」
「だから、どうしても君に会いたかった。勝手に来て、迷惑だったね」
「しゅ、出征って……! 戦争に行くんでしょ!? 死んじゃうかもしれないんでしょ!? やめてよ! そんなこと……」
「死なないよ」
ぽんっ、と彼は私の頭に手を乗せた。
「メグに似合う強い男になって、帰って来るよ」
「……!」
ぼたぼたと、手に水滴が出来る。私の目からはいつのまにか。涙が溢れ出していた。
「行っちゃ、いやあ……」
「やだなあ、俺のこと信じてよ。大佐からも、銃の扱いが良いって褒められたんだからさ」
泣き止まない私からレオンは離れると、彼は窓から飛び降りた。
慌てて外を見ると、彼が私を見上げていた。微笑みを携えて。
急いで両耳にピアスを付けると、彼に向かって大きく手を振った。
「待ってるから! だから、絶対、帰って来なさいよ……!」
まだまだ泣いてる私を見て、彼は笑った。そして手を振り返して、彼は去って行った。
「ずっと、待ってるから……」
数日後、戦争が起こった。
戦争が終わった、10年後の誕生日。
「今夜みたいに冷え込むと、戦地で傷めた足が痛むよ」
いつものように暖炉の前でぼやいていた夫だが、
「私はあなたが生きていてくれただけで充分」と夫に言うと、
「……」
彼の耳が、ちょっと赤くなってた。
私の耳には、薔薇が咲いている。これからも、ずっと。