海と風
どうしてあの子は流れて行ってしまったんだろう。
「海を見に行きたかった。」
ただそれだけの一言で川の流れに身を任せて、下って下ってどこまでもいってもう見えなくなった。
私は手を振り続けていた。
腕が使い物にならなくなってしまうくらいにめちゃくちゃに振り回していた。
わざわざ自分の身を捨ててまでみにいきたかったのか。
もっと他に良い方法があったはずなのになぜか彼女はそれを選んでしまった。
車に乗ることも船で下ることも勧めたのににっこり笑って拒絶して
「ありがとう、でもこれが1番いいんだ。」
って、ざぶんと川の水に身を預けてしまった。
それはいつか見たオフィーリアの絵画を私に思い出させた。
「そういうことをするのはやめなさい。」
「私が泣くしかなくなるんだからそんなことはやめなさい。」
その言葉は空しく響くだけだった。
残念ながら私には彼女のあとを追うことができなかった。彼女のような純粋さも一途さも持ち合わせていない私は、海に流れ着く前に川の底に沈んで動かなくなるに決まっていた。
何もせずに彼女を見送るだけの自分が惨めだった。それでも、たとえエゴだとしても、これが彼女自身への愛情表現なんだと頑なに信じて、もう全く見えなくなった彼女に向かって両手を振り続けた。
そんな私の周りには生温かい風がふわりと漂ってきていて、そのおかげでほんの少しだけ腕の痛みが和らいだような気がした。
そして、急に頬に熱いものが流れてくるのだった。
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