【先行体験版?】 転生ゴブリンの革命!!
お蔵入りしていた小説を体験版として公開いたします。メインがスランプになったり気分転換したくなったら、連載が始まるかもしれません。
誰か勝手にとは違う世界のお話です。
青い空に白い雲がのんびりと流れている。
眼下には、特に人工的に手を加えて整備したような上等な道とは比べるもないが、荷馬や旅人によって長年踏み固められた道が緩やかな上り坂となって、まっすぐ、北に続いており、頂上の丘あたりでいったん東に向かって折れている。
あたりには、膝ほどの背丈の草が四方に広がり、遠くを見上げれば隣国とこのクロムシア王国とを遮るソアル山脈があり、その向かいには黒々とした深い森がたたずんでいる。
その森の名は――オリアナの大樹海。
幾世紀も昔、ダークエルフの伝説の女族長オリアナ,獣の女王とも謡われた女傑の名を冠する魔の森である。その規模は隣接するクロムシア王国の二分の一という巨大さであり、50年前の大陸随一の大国であったギルランダ帝国の10年にわたる内乱と衰退を契機に発生した大騒乱時にも近辺の村々を多くの魔物達が襲撃した、人間達が畏怖し、恐怖する魔の森。
そのオリアナの大樹海の入り口辺りに潜む影があった。しかも複数。
体の形は四肢があり、遠目からは人間と似通って見えるかもしれないが、背丈は人間の半分ほどであり、体毛がなく、肌は苔色をしていた。容姿は、剥げた頭、異様に大きな耳、目は血走っており、口を開けると、黄ばんだ犬歯と血の様な紅い舌が姿を覗かせ、とても人間とは似ても似つかない。
それらが身に着けているのは、体に巻きつけた汚いぼろ切れの上から荒縄をベルト代わりに使っており、それは貫頭衣なんだかシャツだかズボンなんだかもよくわらないものだった。
その影の正体とは多数のゴブリン達だった。彼らはそれぞれ錆びた小剣や、短刀を木に括り付けただけの槍などの武器などで武装し、獲物となる存在を待ち構えていた。
そんなゴブリンの集団からいくらか離れた小さな丘に一匹のゴブリンがいた。地に伏せ、彼方を伺っているそのゴブリンは一匹で(本人は一人と数えてくれと強行に主張するだろうが)彼ら群れのリーダーより言いつけられた偵察を行い、獲物を伺っているのだ。
「はあああぁぁ、遂に自分から人間を狩るはめになってしまったか……」
彼の名はダミアン、因みに自称である。本当はもっとゴブリンらしい名前なのだが、彼はその名前が受け入れられなかったので、本来の名前をもじった場合、記憶の中で一番人間の名前っぽいものに改名したのだった。
まあ、もっともその名前ですら「そもそも人間の発音じゃ表現できないだろう」というものであったのだが。先の台詞は彼がダミアンと自称したときにぼやいたものだ。
彼は普通のゴブリンとは少々毛色が違った。それは文字道理の意味でもあり、その体色は普通のゴブリンの苔色よりも明るい萌黄色をしており、その目には、他のゴブリンとは違い理知的な光が佇んでいた。
また、多くのゴブリンが黄ばんだ犬歯をしているなか、彼は苦労して作った歯ブラシというものを使っているためか、他のゴブリンに比べて格段に白い。そのことを他のゴブリンに言われた際の彼は「ゴブリンも歯が命だからな」と訳の分からないことをいったらしい。
そんな毛色の変わった彼は現在、ついに現れてしまった人間の存在に苦悩していた。彼が頭を抱えているのは、自身がかつて持っていた倫理観の残滓であり、ダミアンはそれを捨てることに大いに葛藤を抱いていた。そうこうしている間に、彼が見つけたその一団はさらにこちらに接近してきている。
向かって来ているのは荷馬車5台に多数の随伴、さらに武装した5名ほどの人間の護衛といった面々だった。彼らは春の暖かな日差しを浴びながら自身に迫る危機に気づかずこちらに向かってきていた。
もう直ぐ隣国に入り、森からの魔物の襲撃からの心配から開放されるという期待からかだろうか、殻らの足取りは気持ち軽くなっているように思えた。
まったく実にいい天気だ。時折春の風が吹き、冷たい空気が頬を撫でていくことがあるが、長い距離を歩いていてきた彼らには、むしろ心地よいものだろう。
――本当にいい天気だ。
「そして、そんな彼らを地獄に突き押す後押しをしなけばならないと思うと嫌になるね」
ダミアンはそう言って、盛大に溜め息をついた。
だがしかし、こちらとしては見逃すなんて選択肢はなどない。集落を離れ、こんな遠方に陣取り獲物を待つこと一週間。やっと見つけたゴブリンでも狩れる”おいしい獲物”なのだ。
隣国に移動する傭兵団やら、身軽な荷物で馬に跨る旅人でもない。遅い荷馬車を押しながら、ゴブリンでもなんとか数で押せばなんとかなる程度の人数の護衛しか連れてきていない馬鹿者共である。
どうしようもないとダミアンは覚悟を決めた。それによく考えてみれば、集落では人間を襲ったゴブリンから人間の肉が提供されることが前からあったのだ。”屠殺場”で殺された豚肉を食しておいて、豚を殺すのが残酷だなどというがごとき馬鹿な物言いはできまい。
「よく考えてみたら、カニバリズムと殺人ってどっちが罪が重いんだろ」
まあ、そもそも、どっちが上か下か以前に倫理というのは疑問に思わないというのが前提なのだから考えるだけ無駄かとダミアンは思い返し、自身の疑問の馬鹿さ加減自嘲した。とりあえず人間を襲うことを表面上は割り切って、仲間の下に報告に向かうダミアン。
仲間の野営先では、長らくの待機の時間が続いた結果、見張りの人員(鬼員?)以外はそうとうにだらけきっていた。まあ、そもそもゴブリンの団体行動のLVなどたかが知れてるのではあるが。
見張りのゴブリンに軽い挨拶をして、だらけきり、ごろ寝しているゴブリンを踏みあけ、リーダーであるゴブリンの前に向かった。
「獲物を発見いたしました!」
その瞬間、変な奴を見る目でダミアンをゴブリン達が見つめた。
ダミアンとしては一応今回のは軍隊行動なのだから、なるべく”らしく”してみたつもりだったのだが、どうやら場違いだったようだ。ダミアンはゴブリンの団体行動のLVの認識を山賊LV以下と再認識した。
ゴブリンリーダーは近場に寝転がっているゴブリンを蹴り飛ばしながら、周りのゴブリンに対して気勢を上げる。
「お前らのような役立たず共にやっと仕事がきたぞ。いつまでも地面に寝転ろんでんじゃねえ!! 族長の期待に答えろ、別にお前らが死のうと生きようとどっちでもかまわんが足は引っ張るんじゃねえぞ!!」
「へ~~い」
辺りに、やる気のない声があがった。現在待機していたゴブリンは約30匹。だがしかし、その内訳はゴブリンリーダー以外のゴブリンはやせ細り、体格の良くない者、まだ成長しきっていない子供などで構成されている。
なぜ、そのような編成になったかというと、一言でいうと厄介払い、捨石という趣きが強い。集落内で地位が低いもの、狩が上手くないもの、物覚えが悪いもの、異端者、etc......
鉄砲玉としてこれから使われようとしているというのに、士気が上がろうはずがない。因みに、ダミアンが選ばれた理由は異端者であったせいである。
そもそも、人間を襲うのは非常に危険な行為である。鉄の武具で武装し、時には魔法を使う者まで存在する。だがしかし、それを補って余りある美味しい獲物であることも確かだ。彼らが、旅するために持ち歩く保存のきく大量の食物、荷馬車を引く馬、そして、ゴブリンでは作れない様々な鉄製の武器道具。それらはゴブリンにとってとても魅力的なものだ。
襲撃に際して、ある程度のゴブリン側の犠牲がでるかもしれないが、それを差し引いても、今後のゴブリンの生活に大いに役に立つ。
この時代、人間にだって人権などという概念はない、ましてや、ゴブリンに人権いや鬼権を求めるほうが間違っているといえるかもしれない。
そのため、ダミアンの部族でなくとも、ゴブリンは散発的(族長の気分次第)に、いなくなってもよい者達で構成された決死隊という名の鉄砲玉達が商隊を襲撃するという事件が、この森周辺で発生するのだ。
ゴブリンリーダーは幹を切り倒された切り株の上に立ち、周りにいる部下のゴブリン達に檄を飛ばした。
「ではダミアンの坊主、案内しろ
貴様ら、出撃だ!! 臆病風に吹かれて逃げたりなんぞしたら、ジャイアント・スバイダーの餌にしてやるからな!! わが部族の祖霊と、族長が為に!!」
『祖霊と族長が為に!!』
やる気がなかった雑魚ゴブリン達も「族長が為に!」「祖霊が為に!」といった感じに、一斉に唱和し続ける事で興が乗ったのか次第に士気を高めていく。そんな中、ダミアンは一人、口パクで、一緒に唱和している振りをしながら、内心で一層頭を抱えていった。
「……今更ながら、なんでゴブリンに生まれ変わったんだろう」
そう、誰にも聞こえない様に、ボソッと呟いた、未だ少年から抜けきっていない年かさのゴブリン。その名はダミアン。
彼は、現代人の前世の知識を思い出してしまった転生ゴブリンだった。
タイトル、あらすじ、まだ未定。プロットは結構あったりしますが、今の所はメインの執筆があるのでしばらくは書かないでしょう。いずれ動く?
タイトル候補;
ゴブリン帝国は、人間共に屈しない!!
転生ゴブリンの革命!!
ゴブリン維新のすゝめ!!