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休憩室の扉が開かれた。
コレットは事務室を見渡している。五つの机と観葉植物、棚に冷蔵庫という、ひとことで言い現わせば飾りっけのない部屋だ。
「さて、今日から私たちの家族となる者だ。自己紹介を頼む」
エヴァがそう促すと、コレットが一歩歩み出た。
「えぇと、コレット・リファールです。オイサートの小さな村の生まれで、身長は百六十五センチ、十六歳です。よろしくお願いします」
転校生のような挨拶に、思わずミハエルは微笑んだ。
「シェズナ出身のミハエル・ハイメロートだ。よろしく、かわいいお嬢さん」
ミハエルが車椅子に腰かけたまま右手を差し出すと、あわててコレットが握手をした。
「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。シェズナってことは――軍人さんですか?」
車椅子の彼に若干戸惑ったらしいが、冷静である。
「あぁ、昔の話さ。先の戦争で地獄を見たんでね」
ミハエルは笑ってそう言うが、とても気楽に受け止められることではない。コレットが座っている双子にチラリと視線をやると、二人がしゃべりだす。
「アルク・エルージャです」
「エテル・エルージャですわ」
「どうぞ、よろしく」
くすくすと笑いながらそう言う双子をみて、コレットは笑みを浮かべた。
「よろしくね、かわいいお二人さん。あなたたちはどこの生まれ?」
どうやら、天性の包容力を持っているらしい。
「ウンテルリッヒです」
「田舎ですけれど」
あまり話したくない、というようにぶっきらぼうに二人が言う。
後ろで扉のしまる音がした。振り返ると、グライツがいた。
「さっきも自己紹介をしたな。ウォルフガング・シャンツェだ。ウォルでいい。家族としてこれからもよろしく」
グライツが腕を差し出すと、コレットが力強く手を握り返す。
「ありがとう。ウォル」
コレットが最後の一人、エヴァを見る。
「エヴァンジェリン・ベルニッツだ。よろしくな」
エヴァも軽く握手を行う。
「よろしく。お姉さん」
その言葉に、ミハエルとアルクが噴出した。グライツはふたたび青ざめ、エテルは口元をおさえた。
「肝の太いお嬢さんだ。将来に期待できそうだな」
「命知らずなことです」
「えぇ、その通りですわね」
心から楽しそうに言うミハエルと、震える声の双子。予想だにしない反応に、コレットは戸惑う。
「え? また? なんでですか?」
「エヴァは吸血鬼だよ。五百歳のベテランだ」
コレットの顔が青ざめた。それもそのはず、吸血鬼は学校で教育される、いわゆる危険魔法生物のレベル五なのだ。真正面から出会ったなら、まず助からない。
「す、すいません! 吸わないで! どうか吸わないで!!」
必死にそう頼むコレットにエヴァはため息を付く。
「私とていつも血に飢えているわけではない」
軽く笑みを浮かべながらエヴァが言う。
「それじゃあ、計測といこうか。シャンツェ、頼んだぞ」
「えぇ、仰せのままに」
グライツが自分の机の上の装束を着る間、コレットは双子に尋ねていた。
「ねぇ、何をするの?」
「簡単に言えば、戦闘試験です」
「私たちのうちでどれほど力があるのかを確かめるんですわ。殺すつもりで行かないと死にますわよ?」
アルクとエテルが答える。彼らもグライツに鍛えられた者だ。
「どんな組織なのよ……」
あきれたように言うが、すぅとコレットの瞳が細くなり、危険な色を帯びた。グライツは装束を着終わると、事務室の壁を回転させ、半球状の部屋へとコレットを導く。
「理解したか? 殺すつもりでこい。俺もそれなりにやってやる」
コレットが口の端を吊り上げた。
「わかったわ。全力で殺る」
二人が向かい合う。
「開始の合図は?」
「お前が動いたときだ。好きにするといい」
言うが早いか、コレットの掌から風の弾丸が打ち出された。