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2-2

 休憩室の扉が開かれた。

 コレットは事務室を見渡している。五つの机と観葉植物、棚に冷蔵庫という、ひとことで言い現わせば飾りっけのない部屋だ。

「さて、今日から私たちの家族となる者だ。自己紹介を頼む」

 エヴァがそう促すと、コレットが一歩歩み出た。

「えぇと、コレット・リファールです。オイサートの小さな村の生まれで、身長は百六十五センチ、十六歳です。よろしくお願いします」

 転校生のような挨拶に、思わずミハエルは微笑んだ。

「シェズナ出身のミハエル・ハイメロートだ。よろしく、かわいいお嬢さん」

 ミハエルが車椅子に腰かけたまま右手を差し出すと、あわててコレットが握手をした。

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。シェズナってことは――軍人さんですか?」

 車椅子の彼に若干戸惑ったらしいが、冷静である。

「あぁ、昔の話さ。先の戦争で地獄を見たんでね」

 ミハエルは笑ってそう言うが、とても気楽に受け止められることではない。コレットが座っている双子にチラリと視線をやると、二人がしゃべりだす。

「アルク・エルージャです」

「エテル・エルージャですわ」

「どうぞ、よろしく」

 くすくすと笑いながらそう言う双子をみて、コレットは笑みを浮かべた。

「よろしくね、かわいいお二人さん。あなたたちはどこの生まれ?」

 どうやら、天性の包容力を持っているらしい。

「ウンテルリッヒです」

「田舎ですけれど」

 あまり話したくない、というようにぶっきらぼうに二人が言う。

 後ろで扉のしまる音がした。振り返ると、グライツがいた。

「さっきも自己紹介をしたな。ウォルフガング・シャンツェだ。ウォルでいい。家族としてこれからもよろしく」

 グライツが腕を差し出すと、コレットが力強く手を握り返す。

「ありがとう。ウォル」

 コレットが最後の一人、エヴァを見る。

「エヴァンジェリン・ベルニッツだ。よろしくな」

 エヴァも軽く握手を行う。

「よろしく。お姉さん」

 その言葉に、ミハエルとアルクが噴出した。グライツはふたたび青ざめ、エテルは口元をおさえた。

「肝の太いお嬢さんだ。将来に期待できそうだな」

「命知らずなことです」

「えぇ、その通りですわね」

 心から楽しそうに言うミハエルと、震える声の双子。予想だにしない反応に、コレットは戸惑う。

「え? また? なんでですか?」

「エヴァは吸血鬼だよ。五百歳のベテランだ」

 コレットの顔が青ざめた。それもそのはず、吸血鬼は学校で教育される、いわゆる危険魔法生物のレベル五なのだ。真正面から出会ったなら、まず助からない。

「す、すいません! 吸わないで! どうか吸わないで!!」

 必死にそう頼むコレットにエヴァはため息を付く。

「私とていつも血に飢えているわけではない」

 軽く笑みを浮かべながらエヴァが言う。

「それじゃあ、計測といこうか。シャンツェ、頼んだぞ」

「えぇ、仰せのままに」

 グライツが自分の机の上の装束を着る間、コレットは双子に尋ねていた。

「ねぇ、何をするの?」

「簡単に言えば、戦闘試験です」

「私たちのうちでどれほど力があるのかを確かめるんですわ。殺すつもりで行かないと死にますわよ?」

 アルクとエテルが答える。彼らもグライツに鍛えられた者だ。

「どんな組織なのよ……」

 あきれたように言うが、すぅとコレットの瞳が細くなり、危険な色を帯びた。グライツは装束を着終わると、事務室の壁を回転させ、半球状の部屋へとコレットを導く。

「理解したか? 殺すつもりでこい。俺もそれなりにやってやる」

 コレットが口の端を吊り上げた。

「わかったわ。全力で殺る」

 二人が向かい合う。

「開始の合図は?」

「お前が動いたときだ。好きにするといい」

 言うが早いか、コレットの掌から風の弾丸が打ち出された。


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