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8-7

 街中に雪が舞う。

 サーベルトの冬は早い。

 まだ学校は終業式の日だというのに、既に雪は足首のあたりまで積もっている。

 サクサクと雪を踏みながら歩くのは、4人である。

 ウォルを除いた孤児院年少組の4人である。

 2学期の初めから編入した3人は、早くも学校の生活に慣れ、交流の輪を広げつつあった。

 孤児院も、解放軍との一件のあとから、仕事の量が格段に少なくなった。

 裏の世界で反孤児院の組織が大部分消滅し、孤児院の名が裏世界で絶対のものとなったため、犯罪が激減したのだ。

「でも〜、このままだとおまわりさんの仕事なくなっちゃいそうだよね〜」

「あー。でも大丈夫じゃない? 最近は環境整備とか美化活動が忙しいらしいし」

「兄上も忙しそうでしたし」

「安心でしょう」

 他愛もない話をしながら、4人は歩く。

 学校前通りには、高い雪の壁ができていた。

「あー。今日から冬休みかー」

「お休みお休みー!!」

 コレットがつぶやくと、リエイアが両手を上にあげる。

「ほんの少しだけ、さみしいですわね」

「でも、皆とならいつでも会えますわ。私たちならば、住むところも同じですし」

 にっこりと、双子が笑みを浮かべる。

「よーし、そんじゃあ終わったらあのお店の前で待ち合わせ。帰る前にお土産買っていきましょ?」

 コレットが、学校前通りのケーキ屋を指さし、軽くウィンクを行う。

 3人はにっこりと笑みを浮かべ、うなづくと、各々の学校へと歩く。

 3人は小学校へ、1人は高等学校へ。

 サクサクとした雪の音を響かせ、4人は校舎の中へ消えていった。


――――


「いやー、ついてねえ。本当についてないぜい。まさか除雪車の雪をぶっかけられてリアルスノーマンとは」

「お前、それだけのことにあっても死なないんだろう? やっぱりラッキーボーイじゃないか」

 警察署のただっぴろいオフィスにて、スーツを着込んだ二人がストーブの近くで暖を取っている。

 傷が治癒した後、二人は警察に就職したのだ。

 ウォルは自らの信じる正義のため、アルフィは、バルホーク刑事に半ば無理やり招かれたためである。

「いつまで温まってやがる新入りども!」

 勢いよく扉を開け、バルホークが怒鳴る。

「何か事件でも?」

 臆する様子もなくウォルが尋ねると、バルホークは髪をかきむしる。

「あー、事件って程じゃない。っていうか手前等が働きすぎるせいで俺らのノルマがあぶねえんだよ」

 ちらりと二人を見て、バルホークは言葉を選んだ。

「っつーわけで、お前らは1月の5日くらいまで家でゆっくりしてろ」

 カレンダーを眺めていたウォルは、呆れたような笑みを浮かべてバルホークを見つめる。

「……小学校の始業式が5日ですが、何か関係が?」

「ねえよ馬鹿野郎。おら、さっさと帰れ。それとアルフィ、お前もう道端の女に不審者として通報されんじゃねえぞ?」

「う……おいらはそれをずっと言われんのかい……」

 半ば蹴りだされるように、ウォルとアルフィはオフィスから飛び出す。

「しっかし、バルホークさんも素直じゃない」

「男のツンデレってのは需要あんのかい?」

「知るか。馬鹿なこと言ってないで帰るぞ」

 二人は軽口をたたきながら、準備を整える。

 家族のもとへと帰る準備を。


――――


「年末も貴様とか。つくづくつまらん」

「覚えているだけで20回は聞いたな。毎年聞いているような気がするよ」

 ミハエルはブランデーを口に運びながら言う。

 エヴァは鼻を鳴らし、ストーブの近くで丸くなっている猫、イリヤを眺めた。

「こいつ、相当ふてぶてしいな」

 イリヤを指でさし、エヴァが笑う。

 孤児院の扉が開かれ、4人が駆け込んできた。

「ただいま〜!!」

「ただいまー」

「ただ今戻りました」

「ただ今戻りましたわ」

 教科書の詰まったカバンと、学校で使っていたであろう道具を一杯に抱えてきたのは、リエイアとコレットである。

 反対に、アルクとエテルは軽装である。

 性格の差であろう。

「おお、おかえり」

「明日から休みか?」

「ん、そうだよ〜!!」

 リエイアが今後の予定をミハエルに話している間、コレットは買ってきたお菓子類を冷蔵庫に入れる。

「お、悪いな」

「いえいえ。ついでですからー」

 にへらと笑いながら、コレットが言う。

「そういえば、聞いたか? 今月の犯罪はゼロ件だそうだ。もちろん、重い軽いはあるが、警察の世話になるような事件はゼロ。喜ばしいな」

 ストーブを見つめ、エヴァが言葉を紡ぐ。

「あー! ウォルから聞いた! すっごいうれしそうだったよ! ウォル!」

 リエイアがはしゃぎながら言うと、ミハエルが目を細め、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。

 孫を可愛がる祖父の瞳そのものである。

「老いたな、ミハエル」

「言うな。自覚はある」

 ちらりとミハエルが時計を見ると、短く息を吐いた。

「お昼の時間だな。さて、今日くらいは私たちが――」

 その時、孤児院の事務室の扉が開かれた。

「たっだ今戻りましたぜい!」

「詳しくは、食事の席で。私が作りますよ」

 アルフィとグライツが、食材を抱えて孤児院に返ってきたのだ。

「珍しいな、全員集合とは」

「休暇をもらいましてね」

 ウォルが食堂へ歩をすすめると、エヴァと車椅子のミハエルが後に続く。

「私も手伝うよ」

「私にもやらせろ」

 そんな二人の態度に、ウォルは笑みを浮かべる。

 孤児院の年少組とアルフィは、そんな3人に歓声を送り、自由な時間を楽しんでいた。

 そして、昼食時。

 本日の昼食は、白身魚のフライに、コーンスープ、それとサラダ、パンである。

 円卓の全員の席の前に、飲み物が用意されていた。

 席に就いたエヴァは、皆の顔を見渡す。

 全員が全員、穏やかな顔をしていた。

 エヴァが大きく息を吸い込み、ゆっくりと息を吐いた。

「全員、飲み物を持て」

 エヴァの声に、全員がグラスに飲み物を注ぎ、軽く掲げる。

「それでは、全員の集合を祝して、それと、世界の平和に、乾杯」

「乾杯」

「乾杯」

「乾杯」

「乾杯」

「乾杯!」

「乾杯〜!」

「かんぱーい!」

 円卓の上でグラスが触れ合い、カチンと音を響かせた。

 これからも、孤児院はその活動を続けるだろう。

 全ての罪が消え去る、その日まで。

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