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7-7

「ねえ、あなたの目、なんで直さないの? 今の魔道医学なら簡単に直せそうだけど」

「視神経を根こそぎ切断された上に眼球も損傷しているから、でござる」

 喧騒の広がる街中で、異質な二人が歩を進めていた。

 一人は、目の周りに包帯を巻いた。クローシャの白い和服と赤い袴の男。

 もう一人は、カジュアルな服装の、どこにでもいそうな女性であった。

 だが、その正体は解放軍の要である。

 宵川流と、ミネルヴァ・コットス。

 二人は当てもなく街を歩いていた。

「とはいえ、不自由はしておらん。音と匂いで大体がわかるようになった」

「あら? それじゃあ風の魔法相手にはだいぶ不利じゃないの?」

 こつ、と靴音を響かせ、ミネルヴァは服の袖の内側から短い魔法杖を取り出し、音もなく宵川に先端を向ける。

 宵川がため息をはく。

「この距離ならば、拙者の方が早い」

 カチャ、という金属の触れ合う音が宵川の手の中から響く。

 刀の鞘と鍔の間から、白く輝く刃が見える。

「……冗談よ。本気にしないで頂戴」

 ふぅ、と息を吐き、ミネルヴァは笑う。

「それにしても、クローシャの人は本当に変わってるわね。挑んでも勝てそうにないもの」

「戦わずして勝つ。殺さずして勝つ。之が最善ではござらんか?」

 パチン、と刀を閉じ、宵川は言う。

 周囲の人間から、包帯に好奇の視線が注がれる。

「ともあれ、目立つ行動は避けたい」

「ええ、その通り」

 ミネルヴァは時計に目をやる。

 14時13分。

「予定の時間まであと7分よ」

「長い時間であるな」

 二人は雑踏から外れ、裏路地へと体を入れる。

 一瞬にして雰囲気が変わり、死臭が鼻を突く。

「……このあたりには、孤児院の臭いがしないでござるな」

「あと6分よ」

 裏路地をさまよいながら、ミネルヴァは時計に目をやる。

 宵川が刀を抜き刃を上に向ける。

「少し気が早いんじゃないの?」

「少しでも慣らしておきたい」

 不動の姿勢で刀を構え続ける宵川に、ミネルヴァは呆れたように息を吐いた。


――――


 サーベルト標準時刻、14時20分。

 突如、世界中に12本の光の柱が降り注いだ。 

 直径数キロはあろうかという光の柱ははるか天空から降り注ぎ、地上のあらゆるものをなぎ払った。

 世界中が動揺した。

 テレビ中継は全て臨時放送に切り替えられ、あわただしくナレーターが資料を読み上げていた。

 孤児院の内部のテレビには、その様子がしっかりと写されていた。

 エヴァでさえもパニックに陥っている。

 その中でただ一人、怒りを眼に宿して窓のそとを見つめているのはミハエルであった。

「ハイメロート公?」

 思わずひるみそうな威圧感の中で、ウォルがミハエルに声をかける。

「……何が起きたかわかるかね?」

 凍てつきそうな声で、ミハエルは言う。

 ウォルは首を横に振った。

「"蒼い鳥"だよ」

 怒りに震える声で、ミハエルが言う。

 その言葉に、孤児院内に動揺が走る。

「だが、それはシェズナの……」

 エヴァがわけがわからない、というようにミハエルに尋ねる。

「ああ。戦争の遺物だ。だが、これで読めたぞ。奴らの本当の狙いが」

「奴ら?」

 ミハエルはテレビに映された、光の柱の着弾箇所の図を指さした。

「奴らはこの星全体を範囲とした魔法陣を描くつもりなんだよ」

 その言葉に、孤児院に集合している"9人"の表情がこわばる。

「だが、立体に魔法陣を描くなど……」

「蒼い鳥を頂点として活用するんだ。この星を取り囲むように……この星の周りに正二十面体を作り、力場を展開させれば不可能じゃない」

 その言葉に、ティタニアは感嘆の息を吐いた。

「そうであれば少し厄介であるな……こちらから出向く以外になくなる。そして、罠が仕掛けられている可能性が大きい」

 ティタニアの言葉に、他の面々(リエイアは理解していない様子であった)がうなづく。

「即時攻撃を仕掛けよう。大元を潰せば組織はバラける」

 ティタニアが杖を床に突き、静かに言う。 

「グループを分けよう。その方がやりやすい。9人……3,3,3が妥当だな」

 エヴァが部屋を見渡し、あらかたのまとまりを作っている。

 ミハエルはテレビの画面に集中し、状況を紙に書き記している。

 他の面々は、思い思いに思案を巡らせているであろう顔つきである。

「私とミハエル、それと、シャンツェをリーダーとして編成する」

 その発言に、ティタニアとウォルは少し驚いたようだが、異議を唱える様子は無い。

「私の隊は、コレットとリエイアを受け持とう」

 その言葉にリエイアの表情が曇るが、ウォルが視線をやるとすぐに表情は元に戻った。

 何分、戦士としても、孤児院の構成員としても半人前以下なのだ。

 エヴァが引率する以外にない。

「では、私はティタニアとアルフィを受け持つよ」

 ミハエルが宣言すると、二人はうなづく。

 老練の魔法使い2人に、柔軟性のあるアルフィ。

 おそらくは、これが本隊となる。

「それでは、私はアルクとエテルを」

 ウォルと双子の3人は、幼いころから孤児院の精神を教えられてきた者たちだ。

 精神的に最も危険な部隊が、この3人であろう。

「ティタニア、解放軍本拠地の場所を教えろ。私とミハエルの部隊は空間魔法で拠点に侵入、確保を行ったのちにこちらへのゲートをひらく。その間シャンツェは孤児院の防衛を行え。以上。細かい判断は各個の指示に任せる」

 その言葉に、全員が首を縦に振る。

「ただいまより状況を開始する。全員、生き残ることを最優先にして行動せよ」

 全員が肯定の返事をし、各々の行動を始める。

 ミハエルとエヴァは一方通行の通路を作り出し、ウォルと双子は孤児院の"面接室"に武器とデスクを持ち出し、拠点防衛の体制を作った。

「……ウォル」

 蚊の鳴くようにか細い声で、リエイアがウォルに呼び掛ける。

「……また一緒に、ご飯たべようね」

「……ああ」

 ウォルはリエイアの目を見ずにそれだけ言うと、リエイアの腕がエヴァに引き寄せられた。

「辛いだろうが我慢してくれ。全員が一緒に夕食を食べられるようにするつもりだ」

 エヴァがそんな言葉をかけると、わずかにリエイアの表情が和らぐ。

「ゲートを開く。グライツ君、向こうからつなぎ次第こちらに入れ。君との合流をもって孤児院を空間隔絶するからな」

「ええ、わかりました」

 頭を下げ、ウォルが応える。

「エテル、アルク。これが終わったらぱーっと楽しみましょう!」

「始まる前からそんなこと言わないでくださいよ」

「楽しみで力加減を間違えそうですわ」

 コレットと双子の三人は、仲の好さそうに笑う。

「……ほんっと、裏の組織らしくないぜい」

「……まったくであるな」

 アルフィはティタニアを見下ろしながら、初めての言葉を交わしている。

 9月3日、14時42分。

 外は曇り空であった。

 雲のところどころに、くり抜かれたようにぽっかりと、青空が浮かんでいた。

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