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7-5

 わんを伏せたようなドーム状の部屋。

 孤児院の事務室へと向かう際に足を踏み入れることになる空間である。

 面接室の異名で親しまれる、机と椅子しかない空間で、少女が二人向かい合っていた。

 一人は、腰までの長い金髪に茶色い瞳の少女である。

 もう一人は、背中の半分ほどの黒い髪に黒い瞳の少女。

 コレット・リファールと、リエイア・シューリエーである。

 この二人がなぜこんなところにいるのかといえば、ウォルフガングの手引きである。

 コレットに新人の面接を行わせることで公正さを出そうとしたのだろう。

 食後のグライツのロリコンっぷりはとどまることを知らず、ついにエヴァにより"危険物撤去"の指令が出たため、ウォルは現在ミハエルの蔵書と格闘しているのだ。

 とはいえ、コレットも気負う様子などなく、淡々と質問を行っている。

 さすがに外見が外見なため、彼女が質問された"人を殺した数"という質問はしなかったが、割と踏み込んだところまで質問をしている。

 とはいえ、それは数分前の話。

 現在では、のんきに談笑を行っている。

「ん〜っと、コレットさんはウォルの"孤児院"をしってるの?」

「あー、あんまり知らないけれどね。なんせウォルったら底が見えないんだもの。訓練でも1回も勝てたことないし、たまの任務でも傷を負わないか重症。極端なのよね、あの人」

 そこで思い出したように、コレットがタロットカードの山札を取りだす。

「一枚引いてくれる? 恒例行事みたい、これ」

 ウインクをしながらコレットが言うと、リエイアは山札の真ん中ほどのカードを引き抜いた。

 タロットカードの6番、正位置である。

「これは……?」

「ん、ちょっと私も意味まではわからないわ。ウォルを呼んでくるわね」

 小走りで扉を開け、コレットはウォルを呼び寄せる。

 コツコツと靴音を響かせながらグライツはリエイアの引いた札に目をやる。

 とたんに、ウォルの顔にしわが寄った。

「……いやがらせか?」

「へ?」

 間抜けな声のコレットが言うと、ウォルは息を吸い込む。

「恋人のカードだ。よろしく"ラヴァーズ"」

 顔をわずかに朱に染めたウォルが言う。

「へぇ〜。恋人……」

 しげしげとリエイアは手元の札に目をやる。

「そういえば、コレットおねーさんとかウォルはなんて名前なの?」

「私は、"魔術師"」

 コレットがローブの内側から魔術師の札を取り出しながら言う。

「……"死神"だ」

 ウォルが装束をめくると、13を刻んだ札が服に縫い付けられている。

「それと、エヴァンジェリン卿は"悪魔"、ハイメロート公は"世界"。アルクが"太陽"で、エテルが"月"だ」

 吐き出す息に乗せて、ウォルはそれだけを言い、事務室へと戻る。

「ウォルったら、照れてるのかしら」

「ん、昨日帰る時はすっごいベタベタしてた」

 その言葉に、コレットは想像を巡らせる。

 ガッチガチに固まった顔の筋肉を不器用に動かして笑う彼の顔を思い浮かべたとき、コレットが笑みを浮かべた。


――――


 真っ白な部屋。

 木の色を表す円卓があるだけの、真っ白な空間。

 その場所で、3人の男が円卓に腰かけていた。

「なァんだってこんなクソ面倒クセェ"オハナシアイ"に顔をださなきゃァならねェんだ」

 円卓に両足を上げ、椅子に背中を預けるのは赤黒いローブをまとった、赤い髪の男。

 アドラー・シャレイオット。

「そう言ってくれるな。ミスター・シャレイオット。君の傷も浅くはないのだろう?」

 白い司祭服を纏った、小柄な老人が言う。

 胸元には見たこともない刺繍を施している。

「あン? こんなもんはカスリ傷だ」

 アドラーが面倒くさそうにローブをめくると、うごめく闇の奥に包帯が見て取れる。

「……とはいえ、そっちの意見には賛成だ。何を手間取ってるんだ、教主サマは?」

 礼儀正しく腰掛けているのは、長い銀色の髪の男だ。

 背中の中ほどまで伸びた髪の男。

 瞳は翠に輝き、汚れの一つもない白のローブを身にまとっている。

 ただ、男の顔には傷ついた仮面がかぶせられていた。

 声が反響する。

「こちらも総攻撃をかけたいのだがね。孤児院に侵入しようにも空間魔法でねじ曲げられているんだ。それだからこそ手を焼いている」

「だったら――」

「手は打っている。"クイーン"のミネルヴァと"ナイト"のヨイカワを街にばらまいたからね」

 老人のその言葉に、アドラーはアハ、と乾いた笑い声を上げる。

「ハァー。まあ、ご苦労なこって」

 アドラーはそのまま後ろに翻り、背を向けた。

「まァ、俺ァ今は"カイホーグン"とやらにゃァ興味ねェんだ。てっきり殺したと思ってた奴が生きててなァ。14年寝かした復讐の味ってやつを味わってみてェ」

 キヒッ、とアドラーが笑みを浮かべると、仮面の男がため息を吐いた。

「カニバリストめ」

「人間の肉喰ってなァにが悪いんだァ?」

 ケタケタと笑いながら、アドラーは部屋をあとにする。

「それでは、俺も失礼しよう。ああ、そうだ、冥王の処分は?」

 仮面の男が老人に向き直ると、老人は顎に手を当てる。

「任せよう」

 それだけを聞くと、男も扉を押しあける。

「……さて、プランを修正しなくては。冥王が――ナイトの一人が抜けるのは痛いものだ」

 男は円卓の上のチェス盤から、白のナイトを一つつかみ、床へと落とす。

 刻まれた名は、"ティタニア・ウィーケンヘルツ" 。

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