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1-5

 孤児院をシェズナの大物が訪れた翌日も、アルクとエテルは路地の警備に当たっていた。街を平和に保つには、一切の罪の芽を摘み取り、根も滅ぼす――それが、孤児院のやり方である。

 アルクは背中に身の丈ほどの無骨な鉄の槍を背負い、エテルは真っ白な布で包まれた長い「何か」をもっている。フランスパンであると言われればそうかと納得できるし、人間の腕である、といっても信じられる大きさだ。そんな二人を包むオーラは、二人が只者ではないことを告げていた。

「ねぇ、姉さま」

「ええ、兄さま」

 二人は互いに顔を見合わせ、笑う。その年齢にふさわしい、満面の無邪気な笑みを浮かべている。

「罪のにおいです」

「えぇ。私たちの根のにおいですわね」

 常人であれば嗅いだ事の無いような臭いだが、双子はそれをまるで夕飯の香りでもあるかのように、肺いっぱいに吸い込む。

 やがて、靴音と共に数人の男が二人を取り囲んだ。両手で数えるには指が少し足りない。手に手に武器を持った男達は、どう見ても善良な市民ではない。

「まだ若いが、そのケのある奴等には高く売れるだろうな」

「そっちの嬢ちゃんは俺に『味見』させてくんねーか?」

「バカ言え。商品に手を付けるなって言ってんだろうが。このロリコン」

 男達は、二人を包囲しながらそんな会話をしている。

「ねぇ、お兄さまがた?」

「ぼくたちをどうするおつもりで?」

 奇麗な声である。アルクがまだ声変わりをしていないため、声の質もほとんど同じだ。だが、その声にはどこか違和感が混じっていた。まるで、今にも壊れそうな水晶の玉ような、虚ろさも混じった声であった。

「ん? お前らが知ったところでどうしようもないんだがな。変態どものオモチャになってくんねーか、ってことだ。俺達としても、あんまり気は進まないんだがね」

 一番二人に近い一人がそう言うと、周りの男達が大きな笑い声を上げた。

「ぎゃっはははは! 良く言うぜペドフィリアのくせに! この前赤ン坊と二人でナニやってたんだ?」

「黙れ死姦趣味のくせに!」

 そんな男たちに、双子はため息を付く。

「無事に帰してはくれませんの?」

 エテルが布に包まれた何かを両手でぎゅっと握る。

「残念ながらな。コレをしくじると俺らがボスに殺されちまう」

 愉快そうな表情さえも浮かべて、男が答える。

「――十秒だけ、差し上げます」

「懺悔の言葉を残しなさい」

 その言葉に、男たちは固まった。

「ぎゃぁぁっははははははは! お前らサイコー! なぁおい! 味見させてくれよ! ちょっぴりだけでいいからさ!」

「待て待て! せっかくだから十秒待ってみようぜ。どうなるか楽しみだ!」

 男達は大笑いしながら、双子を見守る。十秒きっかり経過した後、双子が息を吸い込んだ。

「Rex(恐ろしい)」

 水晶玉の声に乗せて、歌がつむがれる。

「Rex tremendae majestatis (恐ろしい御稜威の王よ)」

「Qui salvandos salvas gratis(あなたは救われるべき者を無償でお救いになる)」

「Salva me, fons pieatis(慈しみの泉よ、私もお救い下さい)」

 レクイエムであった。双子なりの情けと言ったところだろうか。男達がぽかんと口を開けていると、エテルの持っていた白い布が取り払われた。

 現れたのは、不気味に黒く輝くG-66、アサルトライフルであった。少女が持つにはあまりにも大きく、不恰好である。

 唯一つの救いと言えば、銃身のところどころに桜の花びらのようなシールが貼られていることだろうか。男達の顔が一瞬こわばると、エテルは威嚇射撃もなしに周囲に銃弾を放った。

 空気を震わす、まるでエンジン音のような発射音が裏路地に響き渡る。アルクはエテルの脚に絡み付くように体制を低くしているため、銃弾は男たちだけに命中してゆく。

「くッッそガキどもがァァァァ!! 殺せ! あいつらを殺せェェェ!!」

 銃弾を浴びて死んだ別の男を盾にしながら、男が叫ぶ。だが、張られる弾幕のために近づけもしない。カチンと弾の切れる音が響くと同時に、アルクが駆けだした。

「あは」

「くす」

 槍を構え、男達を死なない程度に傷つけてゆく。肉が切れる音と男たちの絶叫が路地に消えてゆく。

「バケモノだ! こいつらは鬼だ!!」

「死にたくない! 死にたくないぃぃぃ!!」

 アルクの攻撃が一通り終わった。男たちは目に恐怖をたたえ、失禁しているものさえいた。五体満足な者は、誰一人としていなかった。

「さぁ、お話しなさい」

「あなたたちのボスの名前は?」

 槍と銃を押し当て、リーダー格らしい男、先ほどペドフィリアと呼ばれた男に尋ねる。

「ロ……ロボスだ! ロボス・シュトーレン! 頼む! 命だけは!!」

 泣きながらそう訴える男の情に流されたのか、双子は武器をしまう。

「今度やったら、全身の皮を剥ぎますからね?」

「もちろん、『頭からつま先まで』、余すところなく」

 クスクスと笑いながら、双子は背を向ける。男たちは双子の姿が見えなくなってもまだ、立ち上がることができなかった。

「……なあ、俺たちは悪い夢を見てるのか?」

「……急いで戻るぞ。ボスの命が危ない」

 そういうと、男達は満身創痍でアジトへと帰って行った。

 後には、肉と血の跡だけが残っていた。


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