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5-5

「ねえ、ウォル」

「ん?」

 すでにお決まりと化した部屋のグライツに、部屋の主であるコレットが話しかける。

「この組織って、何なの?」

 素朴な疑問が、コレットの口から吐き出される。

「平和のために……自らの正義の為に犯罪者を殺す組織だ」

 なんともいまさらな質問に、グライツはあきれたようにため息をつく。

「……それじゃあ、私たちも誰かに裁かれるのかな」

 ぽつり、とコレットが漏らした。

 とたんにグライツの顔が曇る。

 それを見逃すコレットではなかった。

「自分たちの正義を力で通すのは良いことなの?」

 単純にして難解な疑問がコレットからぶつけられる。

 グライツが眼を閉じ、言葉を紡いだ。

「所詮この世界は強いものが我を通せるようにできてるんだ。その世界のルールに従うために俺はこの十四年間死に物狂いで訓練をしてきた」

 コーヒーを一気に飲み干し、グライツが言う。

 瞳は冷たさを帯びている。

「殺す事でしか罪は裁けないの?」

「……目には目を、歯には歯を、だ。何の罪もない人間を殺した人間に情けなどかけるものか」

 冷たいグライツの言葉が吐き出される。

「私たちの罪は……どうやって償えばいいの?」

 ギリ、とグライツが歯を噛んだ。

 悩んでいる様子だったが、グライツは口を開いた。

「……この世界が残りの者たちでどうにかなるようになれば、俺の正義に従って俺はティンカーベル卿によって殺していただけることになってるんだ」

 コレットの瞳が見開かれる。

「な……!」

「お前には話しておくべきだった。だが、お前はまだここでは人を殺してない。今ならまだ便宜を図れる。お前の正義がそれを――」

「ちがう!」

 コレットが立ち上がり。声を震わせている。

「あなた……そのことを知っててこんな仕事をしてるの……? 死ぬために仕事をしてるの?」

 信じられない、という声のコレットがグライツを見下ろす。

「ああ。人殺しはどうやっても人殺しなんだよ、コレット。俺は今まで千人以上は確実に殺してきてるんだ。それに、一度は失った命だ。本来ならば俺はあそこで死ぬはずだった。歯車がバカになったせいで俺の未来も変わってしまった」

 コレットが何か言おうと口を開けたとたん、グライツが立ち上がった。

「ちょっと! まだ……」

「俺は自分の正義を貫くためにここにいる。まあ、それを正当化するわけじゃないがな。自分の信念を貫くには力が必要なんだ」

 自分に言い聞かせるようにグライツが言う。

「でも……」

「自分の正義に従え。俺が言えるのはそれだけだ。気に入らなければここで俺を殺しても文句は言わないよ」

 グライツが扉を開け、コレットの部屋を後にした。

 後に残されたコレットは、難しい顔をしてベッドに寝転んだ。


――――


「ああ、グライツ君。ちょうど良いところに来てくれた。ちょっと良いかね?」

 ミハエルが車椅子をきしませながら言う。

 いつもの温和な表情ではなく、硬い顔である。

 エヴァは難しい顔をして資料の束を見つめていた。

「ええ。構いません。卿、何か問題でも?」

 自らの席へと腰かけ、グライツがエヴァに問う。

「古い知り合いから入手した例の組織の資料だよ。どうやら私たちが思ってるよりもずっと深く裏の世界に根を張っているらしい」

 分厚い紙の束をグライツに投げ渡すと、エヴァはミハエルと話し始めた。

 グライツは渡された資料に目を通す。

 解放軍、と銘の打たれたその組織の構成規模、判明している名簿、拠点の場所がいくつかのっている。

 ある場所まで読んだとき、グライツの顔が変わった。

 構成員名簿のTの項を読んでいる時だ。

「ティタニア・ウィーケンヘルツ!?」

 思わずグライツが大きな声でその名を叫んだ。

「ああ。"冥王"ティタニアだ。それだけじゃない。"処刑人"クィフィ・ライズリーに"吸血鬼狩り"のウォーケン兄弟もいる」

 グライツの背中に冷や汗が流れる。

 裏の世界で名前をとどろかせている者たちが、大勢解放軍に加入している。

 加入していないのは、孤児院を含めたほんの一握りであろうか。

「これがどういうことかわかるかね?」

 冷たくミハエルが言う。

「……孤児院狩り、ですか?」

 震える声でグライツが言うと、エヴァとミハエルがうなづいた。

「冥王、処刑人、吸血鬼狩り。この三組が鬼門だ」

「加えて、統制のとれていないチンピラのような連中が加わると一般人に被害が出る。グライツ君、君ならどうする?」

 グライツが唇を噛んだ。

「即時攻撃です! 拠点がわかっているのであればそこをすぐにでもたたくべきです!」

「連中もバカではないだろうな。私がミス・オニキスと戦ったときにわかったよ。徹底している。シェズナ人を魔法使いにするのは簡単なことじゃない。罠だということも十分に考えられる」

 ミハエルにそう言われ、グライツは頭の中で方法を考える。

「そうだ、お前が戦った女に道案内をさせれば良い。無論、シェズナ側は生かしてあるんだろう?」

「ああいう手合いは仲間は売らないよ。拷問されようがなんだろうが自分の意思を持っているやつは特に、な。それに腐ってもシェズナの女だ。何をやっても無駄だろうな」

 戦争の経験からか、ミハエルは強い調子でそう言う。

「なら、自分の意思を持ってない下っ端をとっ捕まえて吐かせれば良いわけだ」

 にぃっ、とエヴァが口元を釣り上げる。

 あ、とグライツが声をあげた。

 それと同時にミハエルが眼をつむり、首を横にゆっくりと振った。

「……君の発想には毎度のことながら驚かされるよ」

「ほめ言葉と受け取ろうか。さて、シャンツェ、双子とコレットを呼んできてくれ。長い戦いになるぞ」

 言うが早いかグライツは立ち上がり、コレットの部屋の扉を開けた。

 二言三言話した後に今度は双子の部屋の扉を開け、同じように二言三言つぶやいている。

 終わった後にグライツはゆっくりと席に戻り、大きく息を吐いた。

「どうした、シャンツェ?」

「いえ、楽しみなんですよ。殺すべき奴らが一か所に集まってる。これは好機でしょう」

 その言葉に、エヴァがため息を吐いた。


――――


「……というわけだ。私とミハエル、それにコレットとシャンツェ、双子の組を基本として状況に応じてこれらを組み替える。異論は?」

 グライツの隣に新しく設けられた席にコレットが腰かけている。

 全員は黙ってうなづいた。

「さて、問題はこれからの行動だ。下っ端を見つけられれば良いが見つけられなければどうしようもない。つまり初めの一手でこれからが決まる。この任務は……」

 ぴいん、と静寂の糸が張られている。

「シャンツェ、コレット、アルク、エテルの四人で行え。シャンツェをリーダーとして判断に従うこと。大事が起きた場合には即時報告。以上だ」

「了解」

「了解しました!」

「了解です」

「了解ですわ」

 四人がうなづく。

「全員無事に帰ってこい。昼飯くらいは一緒に食べよう」

 エヴァなりの言葉をかけて、会議は終了した。


――――


 裏路地。

 うす暗く、じめじめとした場所に四人はいた。

「二手に分かれるぞ。コレットとエテル、俺とアルクがペアだ。目的は――」

「ちょっと、さっそくペア分割するの?」

 不満そうにコレットが言う。

「狭い入り組んだ場所では土や風の属性はほとんど役に立たん。逃げられたら終わりだ。つまりここではアルクとエテルを分割する必要だある。そのあとの組み合わせだが、お前たち最近仲が良いからな」

 コレットはあっけにとられていた。

 考えていないようで、しっかりと考えている。

 先ほどからまだ五分ほどしかたっていないのに、この結論を導けている。

「さすが兄上、ですわね」

「開始しましょう。一秒を無駄にすればそれだけチャンスは減ります」

 コレットが感心している間に、双子はコツコツと靴音を立ててそれぞれのペアのもとへと移動した。

「行動を開始する。ちょうど良いところで切り上げて昼飯を食おう」

 緊張のかけらもないセリフだが、グライツの瞳はすでに死神の瞳になっている。

「Rex tremendaeの栄光あらんことを」

「Rextremendaeのご加護があらんことを」

 それだけつぶやき、グライツとエテルは背を向け、反対方向へと歩いて行った。

 何が何だか分からない、という様子のコレットはあわてたようにエテルの後を追っていった。


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