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Intermission2

 日も高く昇った頃、コレットは街の喫茶店にいた。

 大通りに面した建物の二階にあるのだが、看板が掲げられていないため客は少ない。

 いわゆる隠れた名店なのだ。

 コレットの最近の楽しみといえば、ここでお茶を楽しむ事だったりする。

 毎日食べていてはさすがに体型が心配にもなるが、ウォルにビシビシ鍛えられた後の一杯の紅茶は訓練の疲れをすっかりと流してくれる。

 三十分ほど、決まった時刻に訪れ、去ってゆく。

 十人ほどが入れるかどうかという小奇麗な喫茶店のマスターともずいぶん親しくなった。

 窓際の席に座り、人波を見つめていると、カラカラとドアに据え付けられたベルの鳴る音と共に一人の少女が店に入ってきた。

 銀髪の長い髪を持った、黒いメイド服を着た少女だ。

 白い肌に浮かぶように、銀の瞳が穏やかな光を返している。

 自ら店員をかねているマスターに二言三言注文を行っているのは、エテル・エルージャその人だ。

 コレットの視線に気づいたのか、エテルは微笑みながらコレットの向かいの席に腰を下ろす。

「こんにちは、コレット」

 屈託のない無邪気な笑みだが、どこか虚ろな声だ。

 孤児院の月の異名を持つ彼女の声はいつもこんな調子なのだ。

 この上なく綺麗で透き通った、ウォルをもってして"天使の声"といわせしめた声だが、遠くから聞こえているような虚無感が混じるのだ。

「えぇ、こんにちは。アルクは一緒じゃないの?」

「兄さまなら、まだ兄上と練習中ですわ。蒸し焼きになる前に逃げてきましたの」

 その言葉に、コレットは苦笑いを浮かべる。

 まだ幼いが、すさまじい才能と魔力を持つ双子だ、といつかウォルが言っていた言葉だからだ。

 俺と同じ年齢になる頃には、きっと俺を超えてしまうだろうな、なんて、どこか寂しそうで、どこか誇りに思っているような調子で言っていたっけ。

「ウォルは休憩なしでずっと?」

 自らの紅茶に口を付けながら、そう尋ねる。

「えぇ、貴女との練習が終わった直後から兄さまと。あの方も相当の規格外ですわね」

 そんなことをはなしているとマスターによってエテルの前にも紅茶とシュークリームが二つ乗った小皿が置かれる。

「信じられないわ……私との訓練で体力は使いきらせたはずだけど」

 自らが得意とするところの風の大砲で何百メートルかは走らせたのだ。それも、全力で。

「兄上はそう言う人です。体力がなくなれば精神力で持ちこたえる。あの方のメンタルには私もたびたび驚かされますの」

 エテルは音を立てずにカップを持ち、紅茶の香りを吸い込んでいる。

「何であそこまで強くなれるのかしらね。才能かしら」

 イチゴショートを一口食べ、コレットが考える。

「いいえ。悪魔さまがおっしゃられるに、あの方の才能は決して秀でたものではないそうですわよ?」

 悪魔さま、と口に出すときだけ、エテルの声が小さくなる。

 店内にはまだ空席が多いとはいえ、裏の事をかぎまわっている人間がいないとは保障できない。

「じゃあ何で――」

「兄上はつらい過去をお持ちです。詳しくは聞かないのが我らの暗黙のルールですけれど、さまざまなしぐさから大体わかりますわ。肉料理を好みませんし、あの方の傷を治療するときに皮膚の下に隠されたものがわかりますもの。一度圧し折れた骨をくっつけた痕が何箇所かにありましたわ。それに、初めてあの方の傷を治療したときには火傷の痕と……骨が突き出した痕が見えましたわ」

 シュークリームを一口食べ、悲しそうにエテルがいう。

「過去をたずねたとて、得られるものはありませんわよ」

 コレットが口を開けた瞬間、矢継ぎ早にエテルがそう言う。

「ん、それはウォルにも再三いわれてるわ。注意しないとね」

 紅茶を飲み干し、二杯目を注文する。

 会話が途切れ、コレットはふぅ、と息を吐く。

「あなたも、ここには良くいらっしゃいますの?」

 窓の外から通りを見下ろしながら、エテルがたずねる。

「ん? ええ、最近見つけたの。エテルは?」

「私も、最近見つけたんですの。静かで良いお店ですわ」

 ふふっ、と笑みを浮かべ、エテルが言う。

 年齢にふさわしい笑みだ。

「それ同感。この近くのカフェにも入ってみたけど、カップルばっかりだったからね」

 コレットも笑みを浮かべ、言う。

 柔らかな笑みを二人は浮かべた。


――――


 窓から差し込む光がオレンジ色になっている。

 夕日が差し込む時間までここにいたのは初めてだ。

「ここは街でも比較的高い場所ですから、景色が良く見えますの」

 エテルが指を差す先には、街の外の丘や山がうっすらと見えている。

「初めて知ったわ。至れり尽くせりのところね」

 喫茶店にはまだ空席が目立つ。

 だが、客の数は増える事はあっても、減る事はなかった。

 一人が帰れば、十分もしないうちに新しい客が来る。

 まるでしっかりと考えられた歯車のようだ。

「そろそろ、戻りましょう。夕食ですわ」

 残っている紅茶を飲み干し、エテルが言う。

「ずいぶん食べちゃったわね……体重計に乗るのが怖いわ」

 ポーチから財布を取り出し、コレットが立ち上がった。

「お会計させてちょうだい。楽しい時間のお礼に」

「まぁ、それはいけませんわ。私――」

 エテルもあわてて立ち上がる。

「その代わり、次に来たときはお願いね」

 ウインクをしながら、コレットが言う。

「あ……」

 言葉の意味を理解したのか、エテルが微笑み、頷く。

「えぇ、ではお願いしますわ」

 少し考え込み、エテルが言った。

「姉上」

 髪の色や質はぜんぜん違うけれど、二人はまるで姉妹のようであった。


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