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短編集

AIの失敗を楽しそうに笑う君が好き

掲載日:2026/06/27

※バズったら連載として無理やり続きを書きます。


 俺は【小王子(こおうじ) (りゅう)】なんていう大層な苗字を持ち、大層な名前を親から付けられた。


 一応名前の通り、この教室では大層な立場である。


「龍くん、この問題なんだけど――」

「ねえねえ龍! このネイル見て! 可愛くない!?」

「龍……放課後、校舎裏に来てほしい」


 今日も数々のJKからアプローチを受け、ニコニコと愛想よく全てに対応していく。


 こんなにモテモテなのは、親が金持ちかつ、俺が優しいイケメンだから――だけではなく、この世界の男女比が【男1:女10】となっているからだろう。


「みんなごめんね。そろそろ俺は次の授業の自習をするよ。次の定期テストでもいい点を取らないと、親から怒られちゃうからさ」


 軽くウインクなんてしつつ、手をひらひらさせながら高校二年生用のテキストを開く。


 自分でやっていて小っ恥ずかしい気持ちもあるが、ここは我慢だ。


 こうやって愛想よくも少しお茶目に振る舞うことで、まるで漫画から出てきたヒーローのような、そんな男を目指す。


 全ては最高のお嫁さんを手に入れて、人生をイージーモードに生きるため。俺はこの世界に転生してきた時から、そう固く決意している。


 前世では苦労した分、今回は絶対に幸せになるのだ。


「「「はーい」」」


 女子達は目の奥をハートマークにしながら、そそくさとそれぞれの友達とだべりに行った。



――あははははは! そう、そうなんだよ!


 俺が真面目に自習していると、廊下から聞き慣れた笑い声が聞こえてきた。


 俺の心臓が小さく跳ねる。耳が勝手にピクリと動く。少しだけほっぺたが熱い。


「あははははは! ういー。みんな、おはー」


 ケラケラと大きな声で笑いながら教室に入ってきたのは、派手な格好をした一人の女子生徒。名前は佐々木雷華(らいか)


 不良というわけではないが、その独特さからクラスでは明らかに浮いている存在だ。


「なあなあなあなあ! 聞いてくれよ!」


「な、なにかな……?」


 佐々木雷華(らいか)がどかっと自分の席にカバンを置き、隣の席の委員長に話しかけた。委員長は明らかに困惑した様子だが、彼女はそんなことに気づく様子はない。


 そして、俺はそんな二人のやり取りを耳を澄ませて聞いている。もはや目の前のテキストは頭に入ってきていない。


「あのさー、AIに『私はこうこうこういう食べ物が好きなのですが、食べたことがなさそうで、ヘルシーで、私が好きそうな食べ物を教えてください』って質問したんだよ」


「うんうん」


「で、返ってきた答えのやつを作ってみたら、全然私の好みと違うの。ほんと、AIってだめだよなー、あはははは!」


 佐々木雷華はさも楽しそうに笑う。こんなことで腹がねじ切れそうなくらい笑っている。


 本当は俺も彼女の笑顔を見たい。けれど、カッコつかないので想像することしかできない。


 彼女のAIへの文句は続く。


「でよ、文句をAIに伝えたら、『これなら絶対にあなたはおいしいと感じます』って、自信満々に答えたからさ、最後のチャンスをあげたんだよ」


「うん」


「ぶふっ、あはははは! そう、この反応で分かっちゃったかな。二回目も全然おいしくなかったの! ほんとさあ、無理なら無理って言えよな。マジAIってだめだわー」


 佐々木雷華はおいしくなかったことよりも、AIが失敗したことの方が嬉しいのだろう。

 

 なんでそんなちょっとした失敗でそんな嬉しそうに笑えるんだろう。もしかして、人間の方が優れているということに、マウントを取っているのか? それで優越感に浸っているのか?


 だとしたら、なんて小さな人間なのだろう。


「はあ……」


 俺は小さくため息を吐いた。


 それから――


(好き〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!)


 心のなかで思いっきり叫んだ。


 なんで俺はあんな器の小さな女にときめいているのだろうか。

 なんで俺はあいつが愛おしくて仕方ないのだろうか。


 本当に意味が分からない。俺はハイスペックのお嫁さんを手に入れて、人生をイージーモードで生きるつもりだったのに。


 どうしてもあいつに惹かれてしまう。寝ても覚めても頭の中はあいつのことばかり。あいつの笑顔一つで俺の心はいともたやすく揺さぶられる。


 ありえない。不条理だ。不合理だ。不適切だ。


 そう、せめてこのクラスにいる奏さんとかにしたほうがいい。彼女は良家のお嬢様だし、文武両道、容姿端麗、しかも俺に好意があることは明白。彼女と結婚すれば、俺は確実に幸せになれるだろう。


 そんなことは分かっている。それでも自分の心が制御できないのだ。口を大きく開けて笑うあいつが愛おしくてたまらないのだ。


 本当に自分で自分が不思議でならない。なぜ人生はこうもままならないのだろう。


 

「で、次の日にさあ、『このズボンにはどんなコーデがおすすめですか?』って聞いたんだよ」


「うんうん」


 また佐々木雷華の話が始まった。


 本当は予習に集中したほうがいいというのは分かっているのに、俺は愚かにもまた耳を澄ませてしまう。


「そしたらさあ、『これこれの食べ物が好きなあなたには、こういうコーデがおすすめです!」だってよ。ぶふっ、今は食べ物関係ねぇよ。もうその話終わってるよ! それくらい分かるだろ、あはははは!」


「あはは」


 見ていなくとも委員長の困ったような笑みが目に浮かぶ。でもきっと佐々木雷華はそれすらも気づいていないのだろう。


「好き……」


「ん? 龍くん、何か言った?」


「いやなんでもないよ」


 危ない危ない。心の中で積もりに積もって溢れてしまった気持ちが表に出てしまった。小声だからよかったものの、このままではヤバい。いつかこの気持ちが爆発してしまう。


 帰ったら想いのたけをラブレターとして書こう。もちろん直接渡す勇気なんてないが、それでも溢れてくるのだからそうしてガス抜きしないとな。


 声を掛けてくれた隣の席の彼女に愛想よく笑いかけ、また自習に戻る。


 無意味にペン回しなんてして、どうにかしてカッコつかないか、なんて、バカみたいな行動をしてしまった。自分で自分が恥ずかしい。


 認めよう。どうやら俺は女の趣味が悪いみたいだ。

 認めよう。俺はあいつにどうしようもなく恋をしてしまっている。


 ただ、今でこそこうして高値の華として取り繕えているが、本来俺なんてただの非モテ陰キャだ。それは前世から変わらない。


 ゆえに俺は好きな子にアプローチする方法なんて分からないのだ。


 あっちから来てくれれば、どうにかできる……のかもしれない……こともないかもしれないしそうでもないかもなのだが、あいつは俺に話しかけないからなあ。



「でさあ、最近は毎日AIに占いをしてもらってるんだけど、今日の結果もゴミだったの。『特に恋愛運は大吉! 実はあなたのことが好きな男の子が近くにいるから、自分から積極的に動こう!』だってさ。ほんとさあ、私みたいなクソ女を好きになる男が居るわけねえだろ! AIってテキトーなことばっか言うよなあ」


 ……あー。


 ……そうなんだー。


 ……へえ、ふぅん。そっかそっか。


「その占い、当たってる。実は俺、雷華さんのことが好きなんです!」


 なんて、言えるわけもなく――



 結局、今日も彼女との関係は何の進展もなく、ただただ時間が過ぎていった。ただ勉強し、ただ複数の女子から告白され、ただ「好きな人がいるから」と振り、ただ家に帰っただけ。


【AIさん。質問です。同級生の佐々木雷華さんのことを考えると、ふわふわしたり、胸が苦しくなったりします。俺のこの気持ちは恋でしょうか?】


【はい。それは間違いなく恋です。是非積極的に気持ちを伝えてみてはどうでしょうか?】


「……うるせえ。ばか」


 俺は自室で一人、AIへのチャットの履歴を完璧に消したのち、ベッドに向かってスマホを放り投げたのだった。



 夕食を作る時間になると、なんとなく彼女が全然美味しくないと言っていた料理をAIにレシピを出してもらって作ってみた。


 母からは絶賛されたし、俺自身も普通に美味しく食べることができた。


 俺と彼女の好みが違うことに、少しだけ気持ちがどんよりとした。そんなことで落ち込むなんて、もしかしたら俺は重症なのかもしれない。



 風呂に入ったり、母の晩酌に付き合ったり、勉強をしたりしていると、あっという間にもう寝る時間となっていた。


「初恋は成就しないというが、本当にそうなのかもしれないなあ」


 清書した一枚のラブレターを丁寧に机の奥にしまい終えた俺は、書き損じた数十枚のラブレターをビリビリに破り、完璧に証拠隠滅した。


 普通に捨てればいいだけなのに、妙に気恥ずかしくてこんな行動をとってしまった。きっと恋が俺をこうさせるのだろう。


 こうしてわけがわからなくなるほど、俺は彼女が好きだ。


 そして、なんだかんだ俺はこの初恋をもう一年も続けている。


 何度も何度も彼女が好きである事実を否定したのちに認め続けるという「思考のループの沼」に陥り、ただ同じ空間にいるだけで満足し、何もできないで高校二年生にまでなってしまった。


「はあー、せめて連絡先くらいは交換したいなあ……」


 部屋で一人ベッドで寝転がりながら、小さく呟く。それから目をつむり、妄想にふける。


 彼女と手と手が触れてしまったら、なんてニマニマしていると、すぐに眠りについた。



 そう、この男はとことんヘタレなのであった。



作者の他作品↓


【短編】


女性が貴重な世界にTS転生してしまったけど、わりと楽しく一人で生きています。

https://ncode.syosetu.com/n0351kb/

魔法少女になんてなりたくなかった! TS転生した主人公は何故か後天的に魔法少女になってしまう。

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