3-16話:裏方の死線、不屈の反撃への道
一方、ジークたちが死闘を繰り広げている跳ね橋から少し離れた後方では、ミレイユ、エレナ、カイトの後衛組が別の地獄に直面していた。
二人が奈落へ消えたことによる動揺は全員の胸を支配していたが、目の前に押し寄せるソルジャーグールや魔物の群れは、生者の感傷などお構いなしに、涎を垂らしながら迫ってくる。
「アリーシャ、レオ君……っ」
ミレイユは聖杖を強く握り締め、不安に胸をかきむしられながらも、迫りくるグールにめがけて光属性の魔術を放った。その表情は今にも泣き出しそうだったが、仲間をこれ以上失いたくないという一心で必死に戦線を維持している。
「全然キリがないね……」
カイトが短剣を振るい、懐に飛び込んできた小型の魔物を引き裂きながら、呆れたような声を上げる。だがその額にはびっしょりと冷や汗がにじんでいた。
「ほんと、嫌になっちゃうわね!」
エレナが苛立ちを隠せない様子でため息をつき、次々と火球を放って魔物の足を止める。 「こんな事してるより、あの二人の方が心配だわ! 崖の下がどうなってるかもわからないなんて……!」
「ジークたちもなんとか、あの魔族をどうにかしてくれないと……。このままじゃジリ貧だよ」
カイトが跳ね橋の激戦へと視線を向ける。あちらでは、アリーシャとレオの穴を埋めるべくジークとライラが泥臭い消耗戦を強いられており、新顔の竜人族の女――イグニスもまた、ヘルヴィーナの非道な戦術の前に本来の力を発揮できずにいた。
その時、ミレイユの脳裏に、ある仮説が電撃のように閃いた。
「……っ!? カイトさん、罠とか、隠された仕掛けを見つけたりすることってできますか?」
「え? 急にどうしたの?」
唐突なミレイユの問いに、カイトは目を丸くした。
「まぁ、専門の斥候の人達には敵わないけど、一応できなくは無いかなぁ。トラップ解除の基本くらいは心得てるつもりだけど……」
「あの、思ったんですけど……もしかしたらですよ?」
ミレイユは荒い息を整えながら、必死に言葉を紡ぐ。
「ここって、古いとはいえ『砦』じゃないですか。もし壊滅したときや、砦が完全に包囲されて破壊された時のために……地下から脱出したり、逆に地下から緊急で兵を上げるための『隠し通路』があるんじゃないでしょうか!?」
「――っ! それは……!」
ミレイユの言葉に、カイトもピンときた。アイゼン・ガルド砦のような軍事拠点は、最悪の事態を想定した隠し機構――脱出路や伏兵用の通路が作られているのが定石だ。
「確かに、それがあるなら二人が上がってくるルートになるかもしれない! ……ただ、本当にそんなものがあるのかは分からないし、探すのにも時間がかかる。その間、エレナとミレイユの二人だけでこの魔物の群れを任せることになっちゃうよ」
カイトは悩んだ表情で、次々と押し寄せる魔物の群れを見据えた。前衛としての役割も持つ自分が抜ければ、後衛の二人にかかる負担は倍どころではない。カイトの胸に、仲間を置いて戦線を離脱することへの強い葛藤と苦渋の決断がのしかかる。
「私は大丈夫です!」
ミレイユは一歩前に出ると、かつてないほど真剣な瞳でカイトを見つめた。
「私は、二人が助かる道があるなら……頑張ってこの場を何とかします! だから、カイトさんは隠し通路を探してください!」
その強い覚悟を秘めた表情を見て、横にいたエレナが「はぁ……」とこれ以上ないほど大きなため息をついた。
「カイト、行きな!」
エレナが力強く背中を押す。
「いいのか?」
カイトが不安げにエレナの顔を見つめると、彼女は不敵に笑って見せた。
「いいに決まってるでしょ! 後輩が頑張るって言ってるのに、先輩が頑張らないでどうするのさ! ほらっ! 時間はないんだから、さっさといく!」
エレナに急かされ、カイトは意を決して力強く頷いた。
「わかった。じゃあ、ここは頼むね!」
カイトは短剣を鞘に収めると、城壁の石造りの階段を勢いよく駆け降り、下へと向かった。
「お願いします、カイトさん……」
ミレイユは去りゆく背中に祈りを捧げ、聖杖を構え直す。
「頼んだわよ」
エレナもまた、押し寄せる魔物の海を見据えて魔力を練り上げる。 各々が心の中で二人の無事を願い、この場を死守しようと、残された火力を全力で叩き込み始めた。
その頃、跳ね橋の最前線では――。
「おらぁッ!!」
ジークが咆哮を上げながら、魔槍ゲイボルクで迫りくるグールを突き殺し、その視線を巨大な影へと向けた。 立ちふさがるのは、骨を晒し、死の瘴気を纏ったドラゴンゾンビ。かつてこの地に暮らしていた、竜人族の同胞たちの成れの果てだ。
ジークは一瞬だけ躊躇し、大剣を構える赤い女へと叫んだ。
「おい! イグニス! こいつらは倒していいのか!?」
「え、ええ……っ」
イグニスは苦渋に満ちた表情で、しかし拒絶するように首を振った。
「もう、こうなってしまっては元に戻らない……。倒してもらった方が、彼らににとっての救いにもなると思う」
「――じゃあ、手加減はいらねぇな!」
ジークの瞳に戦鬼の灯火が宿る。 彼はゲイボルクを頭上で激しく旋回させると、爆発的な魔力を槍身に込め、勢いよく遥か上空へと投げ放った。黄金の閃光が、暗雲立ち込める空へと突き刺さる。
「うまくいくかわからねぇが……あれを使うか」
ジークが天に向けて両手をかざし、全魔力を解放する。
「――『鬼神槍烈破』!!」
空高く投げつけられたゲイボルクが、眩い光を放ちながら無数の針の刃へと分裂した。それはまるで、天から降り注ぐ「刃の雨」の如く、ドラゴンゾンビたちの巨躯めがけて容赦なく降り注ぐ。
シュシュシュシュシュッ!!!
魔力を帯びた無数の刃が、音を立ててドラゴンゾンビの硬質な皮膚や骨を無慈悲に貫いていく。凄まじい面制圧攻撃の前に、アンデッドの巨獣たちが次々と悲鳴を上げて崩れ落ちていった。
「ははっ、見たか……っ、うぐっ……!?」
会心の一撃に笑みを浮かべたジークだったが、直後、劇烈な疲労感が彼を襲った。魔力の大半を一気に削ぎ落とす大技の代償だ。ジークは激しく息を乱し、ガクンと片膝を突いてその場に姿勢を崩してしまう。
「ジーク!!」 ライラが鋭い悲鳴のような声を上げる。
「だ、大丈夫だ……っ! 奴らが戻るまで、やられるわけにはいかねぇよ!」
ジークは持ち前の獰猛な根性を剥き出しにし、歯を食いしばって強引に体制を立て直した。レオとアリーシャが這い上がってくることを信じ、この場を何が何でも維持しようという強い踏ん張りが、そのボロボロの身体を支えていた。
「あはははは! 派手な打ち上げ花火ね! でも、それで終わりかしら?」
玉座のヘルヴィーナが、冷酷な笑みを浮かべて指先をパチンと鳴らした。ジークの猛攻で傷ついたドラゴンゾンビの傷口から、不気味な黒い霧が噴き出し、その肉体を強制的に繋ぎ止め、再び立ち上がらせていく。
前衛のジークが限界を迎えつつあり、イグニスもまた同胞の姿に心を縛られている。 絶体絶命。ヘルヴィーナの漆黒の魔術が、ジークたちの頭上へと向けられた。
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次回の更新は6月12日(金)AM1時を予定しております。どうぞよろしくお願いします。




