1-4.リンメイと雅則
エランデル国で思わぬ経験をしたリンメイは、ワリキュールに戻りシルビアに報告した。
「エランデル国では冒険者と言わずハンターと言っているようですが、ビッグオーグを倒す力のある者もいます」
だがシルビアから
「私は魔獣とか魔族とかよくわからないんだけど・・」
と言われた。
スラーレン王家一族もエクレール家の次女として生まれたシルビアは、世間のことはほとんど知らず、王家の令嬢として何不自由なく育った。ただ王家の一人として権威をかざす欲には長けていた。
長女のプロティナがスラーレン法国の女王として玉座に座ることになった時は、驚き嫉妬もした。
そういういきさつもあり、シルビアは隣国のワリキュール王国で権力を握ろうと考えていた。
「エランデルでは巨大な魔獣として恐れているものたちです」
「それを倒せる者が居るということね。一万もの軍を全滅させる魔力を持つ者。ビッグオーグを倒しても不思議ではないでしょう。そんな力のある者が居るだろうと思い、リンメイにエランデルに調べに行ってもらったんだけど・・」
「ビッグオーグを相手に出来る魔術師は居ましたが、軍を殲滅させられるような魔術師の存在は、街の民も知らないようです。ただ、私も倒せなかったビッグオーグを倒したハンターが居ることは確かで、スラーレン法国の上位魔術師に匹敵する魔術師がエランデルにも居るようです」
「ご苦労さまでした。国王は分家していったイミナスやエランデルも手中に戻したいようだけど、今、まともに戦ったら、こちらにも大きな被害が出そうね。国王には思いを鎮めてもらわないと」
*****
「シルビア。いつまで待たせる。もう我慢の限界だぞ」
リステルはイミナスやエランデルを占領したくてうずうずしていた。
「お待たせしました。我がスラーレンより魔核がもうすぐ届きます。それを取り付ければ最強の飛行船団が、あなたの望みにこたえてくれるでしょう」
シルビアはスラーレン法国の大神官アスターに相談したところ、魔核とホムンクルスの兵団を準備すると返事が返ってきた。シルビアはアリオン神国から来たと言う上位魔術師のアスターの魔術師としての力に期待していた。
「いよいよ来るか。で、魔核をつけるとどうなる」
「結界によって(飛行)船はどんな攻撃からも守られます。あとはこちらから攻撃を加えるだけ」
「面白い。最強の空軍というわけか」
「それとホムンクルスで製造したマジックエンジェルス(戦闘用魔法戦士隊)も呼ぶ予定をしています。彼女たちの魔法攻撃で他国の内側から倒していけば、抵抗する戦力を失わせることでしょう」
「ますますたのもしい。エランデルの前にイミナスを奪っておきたかったが、大軍を進攻させて、また全滅させられたら、愚策というものだ。飛行船団を襲った鳥獣は召喚獣として、一万もの軍を殲滅させた火の玉とやら、何だと思う?」
「それはきっと最上位級の魔法と思われます」
「はやり魔法か」
「あのような魔法を出せる者は、伝説でしか聞いたことがありません」
「スラーレンにもあのような魔法を使える者はいないということか」
「私の知っている者の中ではいません」
「イミナスは魔族が統治者になって人族を奴隷にしているとの噂だが、あの魔法を使ったのは魔王ということか」
「それはわかりませんが、用心に越したことはありません」
「イミナスは後にして、エランデルから攻めてみるか」
シルビアはスラーレンから魔核が届くまで、リンメイに次の指示を出していた。
「ワリキュールにはセキュバスという悪魔の種族が居るらしいの。セキュバスは男性の心を貧弱にするらしいわ。調査隊に街中を探らせているから覚えておいて」
「はい」
*****
リンメイはシルビアの影のように従者をしているが、住まいは街中の貧相な宿だ。
昼間はシルビアの近くに居るので、宿では寝る時だけ戻っている。なので街中の様子は意外にわかっていない。
シルビアから聞いた調査隊が、セキュバスが街中でスナックを開いていると言う情報を得て押し入ったが、全員殺された。
それを知ったリンメイはシルビアに報告した。
「調査隊が?・・彼女たちを倒せるのは、相当力のある者。探して」
「はい」
リンメイは手がかりを求めて冒険者協会に足を運んだ。
クエストボードを見て
「牧場のオーグ退治のチラシがない」
のに気づいた。
エランデル国に行く前に冒険者協会に立ち寄った時クエストボードに、そのチラシがあったのを覚えていたが、そのときはまだオーグの存在も知らなかったし、ワリキュールでの冒険者としての仕事もする気がなかったので、関心を持っていなかった。
しかしエランデル国に行ってオーグ討伐キャンペーンに参加して、オーグがどんな魔物かを知った。
「ああ、それはもう解決したらしいです。オーグは倒されたようですよ」
リンメイは協会で働く女から聞いた。
「冒険者が退治したの?」
「ええ。最近やってきた冒険者らしいですけど」
「かなりレベルのある冒険者じゃないと・・」
そう思っていると、男と女が入ってきた。
「あの男は見覚えがある」
そう、エランデル国でギルド協会や飯店『ハナ』でユースケと一緒に居た男だ。
「ハーロック様。新しい依頼をお探しですか?」
協会の女が男に話しかけた・
「ハーロック?・・」
リンメイはエランデルでユースケと居た男の名前を調べておかなかった。
そのハーロックから
「あれ?・・リンメイか?」
と声をかけられた。彼もリンメイを覚えていたようだ。
「やっぱり、こっちからエランデルに来たようだな」
と親し気に言われた。彼とは言葉を交わしたことはまだなかったが。
「どうしてワリキュールに?」
リンメイも聞き返した。
「エランデルより大きい街だと聞いて、出向いてきた」
ハーロックはそうこたえた。
「牧場のオーグを退治したのはあなたたち?」
聞いてみると
「ああ。ちょうどいい仕事があって、稼がせてもらった」
「楽勝だったわよねぇ」
一緒についてきた女がハーロックに馴れ馴れしく言った。
「そうですか」
リンメイは確かにこの男もユースケと同じくらいのレベルは持っているようだと、オーグ討伐キャンペーンに参加したとき、その力を見ていた。
「エランデルでビッグオーグを倒して報奨金をもらわなかったって?」
男に聞かれた。
そう、リンメイはビッグオーグとの戦いで体力を消耗してしまったので、街に戻ると『ハナ』を引き払ってワリキュールに戻ってきてしまった。
「急ぎ帰る用が出来たので・・」
リンメイは咄嗟に思いついた言い訳をした。
「そうだったんだ」
「失礼」
リンメイは雅則に何の疑いも持たなかった。エランデルでビッグオーグを倒したほどの力があっても、極大魔法を使うような者には見えなかった。
もちろん、雅則がワリキュールの街でスナックのセキュバスを襲った調査隊を皆殺しにした者であることも知ることはなかった。




