1-11.指名手配の男・ゲルド
リンメイはエドワールで冒険者の仕事をしながら暮らし、時々風呂にも入れる飯店に泊まって疲れや汚れを落としていた。
そんなある日、リンメイは冒険者協会で指名手配書が目に入った。
鉄道を襲う魔物も現れることもあり、冒険者はそういう魔物を退治することで報奨金を貰うことも出来るが、エドワールの街で悪事を企む者も居る。手配書は、そういう人族を載せている。
「この男・・」
リンメイの見覚えのある顔。スラーレン法国の元シャドーコープスに所属していたゲルド。
シャドーコープスの頭領のギルが雅則に倒された後、シャドーコープスは解散に追い込まれた。その一因だったゲルドが指名手配されている。
「こっちに来て、何か悪さをしているのかな・・」
指名手配書に見入っていると
「リンメイさん」
と声をかけられた。
「ソーン」
衛兵隊第二分隊長のソーンだった。
「その男、ゲルドは衛兵隊も追っています。ワリキュールの城外の倉庫も彼に襲われたんです」
「彼がそんなことを?」
「倉庫が襲われたのは、サーベルハンターという組織の資金にするため。彼は、そのサーベルハンターの一人と思われます」
リンメイはサーベルハンターは知らないが
「彼は強いですよ。魔物を倒すほどですから」
ソーンに忠告した。
「知っているんですか、彼を?」
「彼も私もスラーレンの出の者です」
リンメイは自分やゲルドについて詳しい話はしなかった。スラーレン法国の恥を晒すことにもなると思ったからだ。
「そうだったんですか。・・以前に私がリンメイさんに助けてもらったとき、リンメイさんの強さに驚きましたが」
「『さん』はやめてください。まだまだ若輩者ですから」
「はい。でも、尊敬する一人だと思っていますから」
そう言われるとリンメイはくすぐったい気持ちになった。
「彼も強いです。衛兵隊の一つや二つは楽に倒せるでしょう」
「肝に銘じます。・・彼を倒してくれるんですか?」
「それでお役に立てるなら」
「よろしくお願いします」
◇
エドワールからワリキュールに戻るSL列車。そこに冒険者も乗り込んでいる。ゲルドの情報を求めてリンメイも乗り込んでいた。
どきどき現れる魔物たち。冒険者は列車を魔物から守る仕事も請け負っていた。
リンメイはそれには関わらず、ただの乗客として乗り込んでいた。
そしてワリキュールの街外れに作られたワルコット駅。ワリキュールの街を一周するSLの東側の駅でもあり、エランデルに向けて作られている鉄道の玄関口でもある。
リンメイは、このSL列車が悠介が設計・開発したものであることをまだ知らなかった。雅則や悠介は、まだ近づき難い者たちだった。
駅に着くとリンメイはワリキュールの冒険者協会に向かった。そして掲示板を眺めた。ここにもゲルドの指名手配書が貼られていた。
「リンメイさん?」
振り向くとソリアだった。ソリアはワリキュールの冒険者協会で働く女で、今は雅則たちの館に住んでいる。
リンメイはワリキュールの冒険者協会に冒険者として登録していないが、コーネリアを襲ってきたシャドーコープスと戦って傷を負ったとき、雅則の館で介抱されたことがあるので、ソリアにもそれを知られている。
それに館を黙ったまま立ち去った身なので、本当は顔を合わせづらいのだが、ソリアは普通に接してくれた。そこで
「ゲルドの情報がないかと思って」
ソリアに聞くと
「ああ、指名手配さえている男ですか。衛兵隊の倉庫を襲う人なんて今までいなかったから、聞いたときは驚いちゃいました。ほかに情報は入ってないですね」
「そう」
リンメイはあきらめて協会を出た。
ワリキュールの街も大きな店は明かりが灯油から電気に代わっていった。それも雅則たちの力によるものだったが、それもまだリンメイは知らずにいた。
リンメイは食事処でゲルドに関する有力な情報を得た。
「明日、エドワールに向けて金庫を積んだSLが走るらしい。馬車を先回りさせて金庫の中身を奪う作戦だ。報酬はたっぷり出る。ゲルド様は気前がいいからな」
「じゃあ早めに寝ておくか」
リンメイは気になって聴き取ろうと聴力魔法の力が働いた。魔術師でもあるリンメイに備わった下位魔法だ。
それを耳にしたリンメイは
「ゲルドが列車を襲う?・・」
と思った。
ワリキュール街の飯店に泊まったリンメイは、翌朝、SLに乗り込むために駅に向かった。
客車と貨物車が連結されたSLがエドワールに向けて走る。その貨物車にエドワールに運ぶ金庫が積まれるらしい。
SLの出発時間。ゲルドは現れた様子は無い。エドワールに向けてSL列車は走り出した。
大地に伸びたレールの上をSLは走っていく。いる魔物が現れるかわからないから。今日も列車には冒険者が乗り込んでいる。彼らも警備の仕事として報酬をもらっている。
エドワールとの中間辺りで数台の馬車が現れ、列車と並行して走りはじめた。
魔物ではないので、冒険者たちは軽視していた。
馬車から男たちが客車に乗り移ってきた。
「大人しくしろ。じっとしていればお前たちに危害を加えるつもりはない!」
列車強盗だ。冒険者たちが乗り込んで来た男たちにかかっていったが、床に伏せられた。
リンメイは、ゲルドではないが彼らの強さを知った。ゲルドの姿はまだない。
「列車はこのまま走らせていい。おまえたちには用はないからな。貨物車を切り離せ!」
貨物車を列車から切り離し、ゆっくり金庫の中身を奪うつもりだ。
貨物列車を切り離そうとする男に、リンメイは電撃を放って列車から落とした。
「魔術師か、やってくれるな」
男がリンメイに襲い掛かったが、衝撃弾を食らわして倒した。
「この女、強いぞ」
リンメイは男たちを次々に倒していった。そして
「ゲルドはどこ?」
と男の襟首を掴んで聞いた。
そこに風のように男が列車に飛び込んで来た。
「リンメイか。ここで何をしている」
現れたのはゲルドだった。
「ゲルド、あなたを待っていたのよ」
「俺の列車強盗を止めに来たのか」
「そのためにこの列車に乗り込んだの。元シャドーコープスのお前がなぜ列車強盗を?」
「それは俺のほうも聞きたい。お前がシルビア様やマクレス様に仕えていたのは知っている。そのお前がここで冒険者をしているとは。スラーレンでは陰で働いていたお前が、何をしている」
「心を入れ替えたのよ」
「俺はもとシャドーコープスでは幹部の一人だった。シャドーコープスを離れてからサーベルハンターの一員として働いている。頭領が俺の力を買ってくれた。列車強盗はそのサーベルハンターの資金源になる。お前の強さは知らないわけではない。どうだお前もスラーレンから見捨てられたなら、サーベルハンターに入って俺と仕事をしないか。いい稼ぎが出来る」
「断るわ」
「なら俺の敵というわけだ。お前を倒す」
「それはこっちの言うセリフ」
「ショックウェーブ!」
ゲルドの攻撃魔法にリンメイは飛ばされた。
「ファイヤーアロー」
リンメイが反撃すると
「火星魔法か。俺の防御魔法で防げる。俺もレベルが低くないからな。フラッシュビーム」
リンメイは防御魔法で防いだが、ゲルドの金星魔法を受けて体力を消耗した。
「お前もシルビアやマクレスに使われていただけだろう。だからスラーレンに戻らない」
そう言われると、リンメイは返す言葉がなかった。
「お前は俺と対等に闘える力もある。悪いことは言わない。俺と一緒に仕事をしないか」
「その気はないわ」
「そうか、しかしただ倒したのではもったいない。いい体をしているしな」
ゲルドがリンメイの衣服を脱がしに来たところに
「サイコバレット」
リンメイは力を振り絞って衝撃弾を放った。
ゲルドはまともに攻撃をくらって客車の反対の壁に飛ばされた。
「女だと思って油断した」
ゲルドはそのまま気を失った。
リンメイはエドワール駅に着くと、ゲルドをソーンに渡した。
「ほんとうに倒してくれたんですね」
リンメイはソーンに礼を言われた。
リンメイは冒険者協会から報奨金をもらうと
「衣服を買わないと・・」
と街に出た。
リンメイの冒険者としての新たな一歩がはじまった。




