1-10.冒険者リンメイ誕生
ワリキュール街の外周を走りはじめたSL鉄道が、街の外にも伸びていった。それは雅則たちがワリキュール王国とエランデル国を鉄道で結ぶ計画を王宮側に提案して実現しているものだ。そして飛行船による空路も開通している。
ワリキュール王国とエランデル国を結ぶために作られている鉄道。その二つの街の中間に作られた街、エドワール。レールを敷くために集められた労働者。その中には仕事を求めたり溢れたりしている冒険者も居る。
街は次第に大きくなり、商業施設も出来て経済効果も高まっていった。当然、悪徳業者や縄張りを張ろうとする者たちも現れた。
そしてそんな街を警備しているのがワリキュール王国の王宮から派遣された衛兵隊で、第一分隊と第二分隊が交代で警備に当たっている。
エドワールからエランデル国方面にはレールを敷いている段階だが、ワリキュールの街とは既に繋がって貨物の運搬も行われている。
このエドワールにも冒険者協会が出来て、日雇いなどの労働環境も扱っている。
◇
ワリキュールの旅宿で体力を回復させたリンメイは、スラーレン法国の近くの『トナの森』に入って魔術や武術を磨いていた。そしてエドワールに向かうキャラバン隊を助けたことから、新街・エドワールが出来たことを知った。
リンメイは山を下りるとワリキュールに行った。そしてワルコット駅で、SL列車の警備をする冒険者を募っているチラシを見た。扱っているのはエドワールの冒険者協会。ワリキュールの冒険者協会とは別のようだった。
エドワールは、ワリキュール領の管轄になっていて、必要な物資はワリキュールから運んだり、自らが調達しているようだった。そこで使用される通貨はワリキュールと同じ。リンメイには都合のいい街のようだった。
リンメイはSL列車でエドワールに行った。前からワリキュールの街の外周をSL列車が走り始めたのは知っていたが、まだ乗ったことはなかった。まさか、このSLが雅則の仲間の悠介が設計したものとは、リンメイはまだ知る由もなかった。
「エドワールに近づいたら窓を閉めてください。魔物が襲って来る場合があります」
車内放送があった。
ワリキュールの街はナターシャが結界を張って魔物の侵入を防いでいる。しかしエドワールまでは結界が張れない。
リンメイは、それでSL列車の警備をする冒険者を募っているのかと思った。
◇
エドワールに着いた。まだ建設中の建物も多い。駅から少し離れたところに冒険者協会の建物があった。ワリキュールやエランデルの協会より建物自体も小さい。
入って行くと奥に受付がある。受付嬢かわからないが、数人の女が居た。
受付がある側の反対側に衛兵隊詰め所の看板が係っていた。
リンメイは受付に行って
「ワルコット駅でチラシを見たんだけど、SL列車の警備をする冒険者を募っているって」
と話しかけると
「ああ、はい。SL列車に乗って魔獣とか襲ってくるものから列車を守る仕事をしてもらう冒険者ですね。でも、専用の冒険者というわけではなくて、あらかじめ列車ごとに申請して仕事をしてもらいます。どの列車の警備をするかは、それぞれに申請用紙があります」
と説明された。
「ふうん。それと・・他の国というか協会でも登録しているんだけど・・」
「それも問題ありません。ワリキュールでは冒険者。エランデル国でハンターというらしいんですけど、当協会は、それらとは別ですから。ハンターをしていた人がエドワールに流れて来るのもあるし、ワリキュールの冒険者協会では見合った仕事がないという人もいました」
「そう。・・ついでで申し訳ないんだけど、泊まるところとか住むところある?」
「旅店も飯店もぴんからキリまであるし・・労働者が寝泊まりする地区もありますが、そこは女性にはお勧めできません」
旅店とは泊まる部屋がある宿で、飯店とは食事処が併用してある宿だ。
「そう。ありがとう。冒険者申請するわ。魔力検査とかするの?」
「いえ。ただ、仕事によって誰でもいいというわけではないので、魔法が使えるか? とか武技はあるかとか書き込むところはあります」
リンメイは、どう書き込むか悩んだ。魔法も並べれば結構な種類がある。レベルを書き込む欄はない。リンメイはエランデルのギルド協会で魔力検査したのを思い出して、使える魔法に『火星魔法』と書き込んで提出した。すると
「火星魔法って何ですか?」
と聞かれた。
「知らない?・・じゃあ火炎魔法にしておくわ」
「それと・・住む処が決まってない場合は、こちらから連絡出来ないので、ここに来てもらうことになります」
「そうよね。・・いろいろありがとう。名前、聞いていいかしら。私はリンメイ」
「私はカラナといいます」
宿はとりあえす素泊まりでいい安い宿にした。二階が寝泊まりする部屋が並び、一階か食事が出来る。風呂は無い。
エドワールで仕える通貨は、ワリキュールと同じ。つまり同じ通貨でワリキュール、エドワール、エランデルで使えるということだ。
◇
翌朝、冒険者協会に行った。今日のSL列車の警備をする仕事は埋まっていた。
そこに衛兵隊の服装を身につけた男がやってきて
「今日は冒険者が少ないな」
と言った。
「エドワールからエランデル方面に敷いているレールの運搬を警護してくれる冒険者がいればいいんだけど。仕方ない、衛兵隊で警護するか」
それを聞いたリンメイが
「私でよければ引き受けます」
と彼に言った。
「私も仕事が欲しいので」
「じゃあ、お願いしようかな。猫の手も借りたいくらいだから。私は衛兵隊第二分隊の隊長を任されているソーン」
「私はリンメイです」
ソーンは正直、本当に猫の手も借りたいくらいと思っていて、女であるリンメイに過大な期待はしていない。ただ魔法が使えるというのは評価出来ると思った。
◇
エランデル方面に敷いている鉄道のレールは、エドワール駅から伸ばしているレールの上を先端までSLで運んでいる。その貨物列車からレールを降ろして先へ先へと繋いでいく。
その作業も大変なのだが、魔獣などが現れる場合があるので、衛兵隊や冒険者がその警備のために必要なのだ。
衛兵隊も人数に限りがあるので、冒険者を頼っている。冒険者があまり集まらない場合は作業を中断することもある。
リンメイは鉄道がどのようにして作られていくのかを、この警備を引き受けてはじめてわかった。力のいる労働作業だ。
「SL列車は、このレールの上を走らせるということは私も理解したが、列車を引っ張る機関車については皆目わからない。ワリキュール国王がこの事業を進めているが、これを設計した人物は公表されていない」
SLや電気などの設計開発者は雅則や悠介たちだが、それは公表しないように雅則がランケル国王やハンス侯爵に言ってある。そして国王が広めていることにしている。
◇
遠くから向かって来る集団があった。
「魔獣だ!」
今までにも何度か現れた魔獣が群れを成して向かってくる。
「列車内に避難して!」
貨物列車以外に、佐合院などが乗る客車の一両繋がれている。
「窓ガラスは閉めて!」
窓ガラスは鉄を含んで丈夫につくられている。小さい魔獣なら列車に体当たりされてもびくともしないが、大きい魔獣だと脱線することもある。
衛兵隊に魔術師はいない。腕力が頼りだ。槍を構える衛兵も居る。
リンメイも一匹や二匹なら火炎魔法で倒すことが出来るが、一匹倒すのにもそれなりにライフを消耗する。雇われた冒険者の中に魔術師も居るが、リンメイのようなレベルの高い魔術師は居ないと思った。
「やつらの足を狙いますから、剣と槍で退治してください」
リンメイがソーンに言うと
「わかった」
と言ってくれた。
リンメイは襲って来る魔獣の足を狙って炎の矢を放った。警備している冒険者の中では一番強力な火炎魔法だった。
足を攻撃された魔獣たちの動き気が失せたところで、衛兵たちが魔獣たちを倒していった。
「あれは今回のラスボスか?」
あとから大きな魔獣がソーンに向かって襲ってきた。
リンメイは魔獣に向けて火炎魔法を放った。
体を燃やされた魔獣は戻っていった。
ソーンは唖然としていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう。・・リンメイさんに来てもらってよかった」
エドワールに戻ると報酬をもらった。
それから協会を出ようとするとソーンが近づいてきた。
「今日はありがとう」
礼を言われた。
「いえ。仕事ですから」
「私はあなたを見くびっていました。お詫びします」
「え?」
「今日は本当に猫の手も借りたいほど、警備の人手が足りなかったんです。それで・・女性でも魔術師なら多少は役に立つかなと・・すみませんでした」
リンメイはソーンに頭を下げられた。リンメイは
「仕事ですから、気にしないで」
と言って協会を出た。
「生きづらい世界だわ」
ほとんど一人で生きてきたリンメイには、人との付き合いは苦手だった。




