1-9.懐かしの森
雅則たちが住む館に運ばれたリンメイは、一室のベッドに寝かされた。
翌日にはナターシャの治癒魔法が効いたのか、リンメイは体力も回復していった。
このまま館で世話になるのを気恥ずかしく思ったリンメイは、朝日が昇る前に逃げるように館を出た。
◇
雅則たちの館を出たリンメイに行く宛はなかった。ナターシャに傷を癒してもらったが、通常の体ほど体力は回復していない。
ワリキュールの街はナターシャが結界を張っているが、離れれば、どんな魔物に襲われるかわからない。弱い魔物なら倒す力は回復している。しかし凶暴な魔物が現れたら、倒す自信はない。
下位魔法は使えても、格闘出来る体力はない。そんな体でワリキュールの外に出るのは危険だ。
リンメイはシルビアに仕えていたときに寝泊まりだけに利用した旅宿で体力が回復するまで過ごすことにした。資金は十分にある。
リンメイは身を潜めながら、自分の過去を振り返っていた。
◇
リンメイの父、ブライアンは中位魔法まで使える魔術師で、スラーレン王家が設立したシャドーコープスの一員だった。
シャドーコープスは、国王の警護や内外の情報収集を担うために作られた組織だった。
そしてスラーレン王家は、長兄のエクレール家、次兄のアレイン家、末弟のブランド家があり、スラーレンの御三家と呼ばれた。王位はエクレール家、アレイン家、ブランド家の順に継ぐことになっていた。
アリオン神国から流れてきた上位魔術師のアスターが国王に取り入ってスラーレン法国の基盤を固め、自らも大神官を名乗り、それから法国の様相が変わっていった。
国王が病に臥せったとき、末弟のブランド家のドルインが、国王の病は呪詛ではないか、と疑いを持った。そして国王が亡くなると、次の国王はアレイン家のオルコックになる予定だったが、大神官のアスターが、エクレール家の国王の娘のプロティナを女王として玉座に座らせる案を提示した。
これには反対者もあり、貴族内で内紛も起こり、シャドーコープスも女王擁立に賛成する派と反対する派に分かれた。
リンメイの父、プライアンはオルコックの友人でもあり、順位として次兄のオルコックが国王になる筋だたっため、反対派だった。
魔術師の素質を持ち、父がシャドーコープスの一員だったこともあり、リンメイは修行に明け暮れていた。
だがブライアンはリンメイに
「リンメイは自由に生きなさい。私の後を継がなくていい」
と言っていた。
「ただし・・最後に己を守るのは自分自身であることを忘れないようにな」
「はい」
母はリンメイが幼い頃に亡くなっている。父の手で育てられてきた。
そしてプロティナが正式にスラーレン法国の女王になり、父、ブライアンは同じシャドーコープスのソドルの手によって命を落としたと聞いた。
天涯孤独になったリンメイはプロティナの妹、シルビアに拾われ、シルビアがワリキュール王国に嫁ぐ時に、従者として同行していった。
そして今に至っている。
リンメイは
「自分は何をしているんだろう。この先、どうなるんだろう」
と悩みながら生きながらえていた。
◇
体力が回復したリンメイは、この先どうするかを考えた。
雅則たちが住むワリキュールで冒険者になる案は却下。エランデル国に行ってギルドハンターになるほうがいい。しかしそこまでどうやって行くか。
スラーレンに戻ることも考えたが、親も亡くし、王家貴族たちから利用されていたことを考えると、そこには帰る場所が見つからない。
リンメイはスラーレンに近い『トナの森』の奥に足を運んでいた。そこには以前、仙人を名乗る男が住んでいて、リンメイに魔術や武術を教えてくれたことがあった。
その男は、人目を避けて森で暮らしていて修行に入ってきたリンメイを見かけて、狼魔獣に襲われたリンメイを助けてくれたことがある。人目を避けて暮らし、名前も明かさなかった。
だが、彼が「転移してきた」とか口にしたことを覚えていた。
そしてエランデル国で出会った雅則や悠介、美緒も、彼と同じどこからの転移者なのでは・・と思い始めていた。
しかしリンメイが仙人を名乗る男と出会わなかったら、今はどうなっていたかわからない。そう思えるほどの武術を教わった。
仙人が住んでいた小屋は残っていた。野宿の経験もあるリンメイには住むには十分な場所だった。近くには川や滝もある。
この先どうするか自分でもわからないまま、リンメイは森の中で武術と魔術を磨いた。
そんなある日、リンメイは
「気配を感じる」
獲物を狙うようにゆっくり近づいてくる気配。その気配が襲い掛かってきたとき、リンメイは高く跳躍して木の枝に飛び乗った。
「やはり狼魔獣」
以前のリンメイなら倒すのは容易ではない魔獣だ。だがリンメイには修行の相手としては不満のない魔獣になった。
狼魔獣も大木の枝をジャンプしながらリンメイに襲い掛かってきた。リンメイは枝から枝へ飛び移りながら狼魔獣から逃げるように移動した。
狼魔獣が後から追いかけるように迫って来る。
リンメイは『炎の矢』を狼魔獣に放った。
狼魔獣は、それを避けるように一旦離れたと思うと、また飛び掛かってきた。
リンメイも宙で身体を反転させ、狼魔獣にキックを浴びせた。
狼魔獣は魔獣と言っても、火炎などの魔法攻撃は出来ない。が、体力はある凶暴な食肉獣だ。肉を焼いて食べれば結構美味しい。
魔物の中には魔法攻撃をするものも居る。火を放つものは多い。別の山には空を飛ぶ魔獣も居るようだ。
◇
ある日、数台の馬車のキャラバン隊が森を避けて走り抜けようとしていた。
「ここを抜ければ魔物に襲われる危険は減る」
だが、馬車の前に立ちはだかる者たちが居た。
「あれは人族」
魔物ではないと安心して近づくと
「食べ物とか荷物は置いていけ」
と言われた。
「山賊か」
「賊扱いされた。まあ、違いないかもしれないが、命まではとらない。空にした馬車でどこにでも行くがいい」
「生憎だが、荷物は渡せない。目的地まで行って生活するための大事は荷物だ」
「おとなしく言うことを聞いたほうが身のためだぞ」
「魔物を相手にするより楽なようだ。道を開けてもらおう」
「俺たちを甘く見るなよ。魔術師も居る」
「そうか。俺たちも魔法は使える」
キャラバンと山賊の戦がはじまった。
「魔物もいろいろだけど、人族もいろいろね」
リンメイは駆けつけるとキャラバン隊に加勢した。
「何者だ」
「森で悪さをするものは人族でも許せないわ」
「この女からやっちまえ」
賊たちがリンメイに襲い掛かってきた。
リンメイは飛び上がると、賊たちを蹴り飛ばしていった。
「これでもくらえ!」
賊たちがリンメイに炎の矢を放ってきた。
リンメイも炎の矢で応戦した。
するとリンメイのほうが力があるように、賊たちの炎の矢を打ち消していった。
「大した魔力じゃないわね。ファイヤーストーム」
リンメイから放たれた炎の渦が賊たちに襲い掛かった。
「退散だ」
賊たちは逃げるように去った。
「助けに来てくれたことを感謝する」
リンメイはキャラバンの男に礼を言われた。
「たまたま見かけたものですから。どこに行くんですか?」
「新しく出来たエドワールという街です」
「エドワール?」
「何でもワリキュール王国で走らせているSLをエランデル国まで走らせる事業があって、ワリキュール王国とエランデル国の間にエドワールという街をつくったらしい。そこに行って暮らすことにしたんだ」
キャラバン隊を見送った後、リンメイは
「私も行ってみようかな」
森を出てエドワールに行ってみることにした。




