1-8.コーネリアを守れ
スラーレン法国に戻ったリンメイは、自分の居場所が無いことに改めて気づいた。
両親は亡くなり、リンメイの身を気遣ってくれたシルビアやマクレスも、ただリンメイの力を利用していただけで、ワリキュール王国をわが物にしようとして雅則に倒された。
リンメイはアレイン家のオルコックを訪ねた。
オルコックはスラーレン王家の御三家の一つで、次兄のオルコックは長兄が亡くなった後、国王になる予定だった。しかし大神官のアスターにより、長兄エクレール家の長女、プロティナが女王として玉座に就いた。そのためオルコックは国王になれなかった。
オルコックは温厚な性格で、リンメイも幼い頃から世話になっていた。
「リンメイか。元気だったか。ワリキュール王国に行ったと聞いていたが」
「はい。シルビア様もマクレス様も亡くなり、ワリキュール王国とエランデル国のほうに行っていました」
リンメイは自分の今までのことをオルコックに話した。
「苦労してきたのだな」
「たいしたことは・・それにワリキュール王国は変わりつつあります。馬車に代わるSLなる乗り物が走りはじめ、街には油に代わる電気というものの明かりが灯りはじめました」
「そうなんだ。私もスラーレンを出たことが無いから、他の国のことは皆目わからない」
「・・・」
「リンメイがスラーレン法国を離れている間に、マルケドーラ帝国が進攻してきた」
「え?」
「だが魔王が現れてスラーレン法国は帝国から守られた。その代わり、プロティナが女王の座を下され、今は魔王が国王として玉座に座っている」
「本当ですか。その魔王とは・・」
「ヒュンケルというらしい。もう一人、ハーロックという魔王と2人でスラーレン法国を守ってくれた」
「ハーロックが・・」
ハーロックというのは、ワリキュール宮殿でシルビアを倒した、あの男なのだろうか。
「で、これからどうする? 私のもとで力になってもらってもいいが」
オルコックがリンメイを気遣ってくれた。
リンメイはオルコックが信頼できる人物だと思っているが、またスラーレン王家に仕えることになるのを懸念に思うようになった。
「ありがたい話ですが、いろいろ考えるところがあるので、すぐおいとまします」
「そうか」
◇
プロティナが宮殿の第3の塔に居ることを知ったリンメイは宮殿に忍び込んだ。
国王であった父の後を継いで女王になったプロティナは、スラーレン御三家のエクレール家の長女ではあるが、妹のシルビアや弟のマクレスを失い、リンメイ同様、今は天涯孤独の身になっていた。
マルケドーラ帝国がスラーレン法国に進攻してきたとき、帝国をハーロックとヒュンケルが潰し、プロティナは雅則に玉座から下ろされ、ヒュンケルの臣下にされた。
それを知ったリンメイは
「変わったのはワリキュールだけではなかった。スラーレンも変わっていた」
と思った。
リンメイが第3の塔に潜入すると
「リンメイ。戻ったの?」
とプロティナに言われた。
「ワリキュールやエランデルに行ってました」
「そう。・・ハーロックの動向はつかめた?」
「いえ・・」
「どこかで魔王風を吹かせていると思っているのに」
「ワリキュール王国は変わりつつあります。油に代わる明かりが灯りはじめ、SLなる馬車に替わる乗り物が動き始めました」
リンメイはプロティナにワリキュール王国の今を伝えた。
「ふうん。興味はあるわね。・・でも私の今一番の思いはハーロックへの復讐。何か手はないかしら」
「・・・」
あの穏健なプロティナが雅則に怒っている。
プロティナの心の中はハーロックに対する怒りで燃え滾っていた。
「ハーロックが市中に紛れているのは本当なの?」
「はい。普段は姿を見せません」
「たしかハーロックにはコーネリアとかいうセキュバスの小娘が居ると言ってたわよね」
「・・はい」
「連れてきて」
「え?」
「彼女をどうこうするつもりはないわ。私は争いも血を見るのもいや。・・彼女を私の手元におけば、ハーロックも手出しは出来ないでしょう」
「・・わかりました」
リンメイは王宮を出た。
「プロティナ様は性格も変わってしまったのかしら」
◇
リンメイはまたワリキュールに向かった。
気がかりなこと。それはコーネリアの身だった。
ハーロックに恨みを抱いているプロティナが、何かを企んでいるように思えてきた。
ワリキュールに行ったリンメイは雅則たちが住む館を監視した。
コーネリアがリサと美緒の3人で馬車で館を出て行った。牧場に向かっていた。
牧場にはチーズ工場とバター工場も出来ていた。コーネリアはチーズやバターつくりを手伝っているようだった。
ただ、リンメイはチーズもバターも知らなかった。
コーネリアがバター工場からチーズ工場に戻ろうと外に出た時、何者かが現れた。
「誰?」
チーズ工場から出てきた美緒が急いでコーネリアに駆け寄った。
現れた者は美緒に魔法攻撃をかけようと魔法陣を手元に出した。
「魔術師ね」
美緒は魔法攻撃を防御魔法で防いだ。
「ひとりじゃないわね」
上からも攻撃を仕掛けてきた。
「セイントソード」
美緒は聖剣を呼び出すと、魔法攻撃を跳ね返した。
リサも追うように出てきて、襲ってきた者にかかっていった。が、魔法で跳ね返された。
「リサ」
魔術師たちが数体現れて襲い掛かってきた。美緒はコーネリアを守るために駆け寄った。すると魔術師の攻撃魔法が美緒の体に当たった。
「やってくれるわね。ソードスラッシュ」
美緒は魔術師に光を飛ばした。巧みによける魔術師。
そこにリンメイが駆けつけ、魔術師たちに襲い掛かった。
魔術師たちは形成が不利になると去るように消えた。
リンメイは美緒に
「なぜ、あなたがここに・・」
と聞かれ
「彼女たちはスラーレンのシャドーコープスという組織。コーネリアを狙ってきたの」
と話した。
リンメイはプロティナが新たなシャドーコープスにコーネリアを誘拐してくるように命じた情報を得ていた。
「どうしてスラーレンの・・組織がコーネリアを? コーネリアがセキュバスだから?」
「今は違う。プロティナの命令で動いているだけ。・・私のせいで・・」
リンメイは美緒にそう言うと姿を消した。
◇
シヤドーコープスの女たちは雅則たちの館にも目をつけた。それを知ったリンメイが彼女たちを倒そうと動いた。
「プロティナからセキュバスを殺せと命じられたの?」
「連れて来るように言われたけど、面倒だから抵抗されたから殺めたと報告するつもりよ」
「許せない」
「リンメイ。プロティナ様に逆らうって何を考えているの?」
「プロティナ様は変わってしまった。優しい心を失ってしまったようだわ。あなたたちもスラーレンに帰って」
「私たちの力を甘く見ないで」
リンメイと魔術師の女たちは屋根の上を飛び回りながら戦った。レベル80のリンメイも苦戦するほど、彼女たちの力も強い。しかも相手は複数だ。
リンメイは落とされた。やられるのは時間の問題だった。
そこに雅則がやってきてリンメイに駆け寄った。リンメイは
「大丈夫か?」
と抱きかかえられ、思わず
「どうして・・」
と雅則に聞いた。雅則に助けられる立場ではない。
「コーネリアを守ってくれたお礼だ」
雅則に言われて
「彼女らはスラーレンの魔術師、シャドーコープス」
と雅則に言った。
「ああ、聞いた。しかしどうしてリンメイも襲われている」
「プロティナの意に従わないから」
「詳しく聞きたいが、そんな状況じゃないな」
「コーネリアが狙われたのは私のせい」
「え?」
「魔王の傍にコーネリアが居ることをプロティナに話してしまったため。・・だからコーネリアを守りたかった。彼女たちはコーネリアをプロティナの元に連れて行く気はありません。葬るつもりです」
「そうか・・リンメイの代わりに俺があいつらを倒す」
魔術師が
「一緒に片付けてやる」
と雅則にマジックアローを放ってきた。
雅則が素手でそれを跳ね返そうとし、結界魔法が発動され雅則とリンメイを防御した。
「レベルは少なくともリンメイくらいはあるということか」
魔術師たちが雅則に襲い掛かってきた。
だが彼女たちはバタバタと倒れていった。唖然とするリンメイ。
リンメイは雅則の時間をコントロール出来る力と相手の脳を破壊する『Destroy』という能力を知らない。
「目立たないように、店の中に隠すか」
雅則は倒した魔術師たちを誰も使用していない、元セキュバスが開いていた店に移した。
そして
「俺は治癒魔法をまだ使ったことがない」
と雅則に言われた。
「助けてくれただけで・・礼を言います」
「経緯を説明してくれ」
リンメイはプロティナが雅則に憎しみを抱いてコーネリアを誘拐してくるように言われたが、拒否したのでシャドーコープスに狙われたと雅則に言った。
「プロティナを生かしておいたのがまずかったか。いずれ始末に行くようだな」
リンメイは雅則に教会に連れていかれた。
「ナターシャ、リンメイを治癒してくれないか」
雅則がナターシャに頼んでいた。
リンメイはナターシャが結界魔法士あることは知っているが、なぜ教会に居るのかは理解していない。
ナターシャがリンメイに治癒魔法をかけはじめた。
リンメイはナターシャが治癒魔法も使えることを知った。
「私のような者のために・・」
リンメイは申し訳ない気持ちだった。が、ナターシャは
「私は詳しい事情は知りません。ただ治療してくれるように言われただけだから」
とリンメイに言った。
リンメイは傷は癒えたが治癒魔法で体力は回復出来ない。
「館に連れて行きたいがどうしよう」
雅則が悩んでいると、イビルが現れた。
「じっとしているのは向かない性格だからさ」
「来てくれてよかった。リンメイを館に運びたい」
「わかった。リサに連絡する」
リンメイは迎えに来たリサの馬車で館に運ばれた。




