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序章

 新天地を求めて移動してきた人々が、ロワール城にたどりついた。そこは小さな国で周りには魔獣やいろいろな生き物が生息していて、ロワール国の人々はそれらと共存しながらつつましく暮らしていた。

 あとから移動してきた人々は、魔法や武力に長けていて、魔獣たちを倒しロワール国を占拠した。そしてロワール城を自分たちの城とした。

 その後、スラーレン一族がさらに開拓の手を広め、切り開いた土地にスラーレン国を建国した。そしてスラーレン王家が誕生した。

 最初、開拓に精を出し、国の基盤つくりに携わってきた人々は貴族を名乗り、後から国に移住してきた人々とはエリアを分けて貴族街をつくった。


 それから数百年経った頃、アリオン神国から流れてきた上位魔術師のアスターが国王に取り入って、スラーレン法国として基盤を固めた。そしてアスターは、自らも大神官を名乗り、国王と肩を並べる権威も獲得した。

 王家スラーレンには、長兄のエクレール家、次兄のアレイン家、そして末弟のブランド家があり、スラーレンの御三家と呼ばれた。そして王位はエクレール家、アレイン家、ブランド家の順に継ぐことになっていた。

 ◇

 だが、国王が病に臥せったときだった。

 ブランド家のドルインが、アレイン家のオルコックを訪ねてきた。

「国王の病だが、まさか呪詛ではないだろうな」

「呪詛?」

「大神官のアスターはアリオン神国とかから来たよそ者。上位魔術師でもあるのだろう?」

「アスターに国王を亡き者にして何の得がある」

「彼と国王がスラーレン法国として国を定め、彼は大神官として国王と同等の権力を持った。そして国王の娘であるプロティナを女王として次期国王の玉座に座らせようとしている噂もある」

「まさか・・」

「次に玉座に座るのは兄者のはず。このままでは玉座を奪われてしまうぞ」

 だがオルコックは何も動かなかった。

「私たちから事を荒立てるのは得策ではない。噂なのだろう?」


 ◇


 リンメイは森の中に居た。時折り風の流れを感じ、近づくものの気配を感じ取っていた。

 スラーレン法国の近くの『トナの森』。リンメイが魔法や体力増進に励んでいる場所だ。

「居る。・・でも弱そう」

 リンメイは構わず山奥に足を進めた。そして足を止めた。

「この気配・・今までにない脅威を感じる」

 突然、襲い掛かるものがいた。リンメイは身をかわすと、そのものが目の前に現れた。

 獣だ。牙も生えている。

「ファイヤーアロー」

 リンメイは獣に炎の矢を放った。しかし獣はそれを避けるように消えると、リンメイに襲い掛かった。

 やられる、と思った瞬間、獣は蹴り飛ばされるようにリンメイから離れた。そして現れた者に対峙したあと、逃げるように去った。

「あなたは・・」

「無事だったようだな。私は自分の身体は癒せるが、他人に治癒魔法は使えない。君が襲われたら助けられなかったかもしれない。あれは狼魔獣ローウルフと言って食肉獣だ」

「助けてくれて、礼をいいます。あなたは・・」

「名前は公表したくない。仙人と思ってくれればいい」

「センニン?」

「その呼び方も、この世界では通じないか。きみも森で修行しているようだが、私も同じようなことをしながら、山奥で暮らしている。そろそろ場所を変えようと思っていたところだ」

「山の中で暮らしているんですか?」

「まあ・・人と関わりあうのは苦手でね。転移してきて自然の中で過ごすことにした」

「てんい?」

「それは忘れていい。きみはどうして修行に励んでいるのかな?」

「強くなるためです」

「なぜ」

「生きていくため。・・でも・・自分でもどういう生き方をすればいいのか迷っています」

「若さゆえの迷いか。その迷いが獣に対する防御も鈍らせたようだね。なら、お互い名前は明かさずに、事情を聞かせてくれれば、力になれることがあるかもしれない」

 彼は突然現れた男だったが、悪いの者には見えなかったので気を許すことにし、リンメイはおおまかに事情を説明した。

「父はある組織で働いています。魔術師でもあるんですけど、魔法も使えない母を守れずに失ったことを悔やんでいました。私も魔法が使えるので、強くなろうと決めたんですが、父は自分の生き方は自分で決めていいからと言ってくれています」

「生き方にまだ迷いがあるなら、強くはなれない。・・わからないでもない。魔法以外に武術を身につけてみないか? 私も魔法も使えるが、武術も身につけるとより強くなる」

 それが仙人を名乗った男との出会いだった。

 そしてリンメイは仙人から武術も習った。


 ◇


 そんなある日、オルコックが父のブライアンを訪ねてきた。

 オルコックは、スラーレン一族のアレイン家の当主で、次期国王になる人物だ。父が宮殿に仕えるシャドーコープスの一員であることも、縁を深める要因だった。

「リンメイはまだ森で励んでいるのか」

「ああ、私がシャドーコープスの一員だからと言って、私の後を継がないでもいいと言っているのだが・・」

「頼もしいことだ。それに次期国王の件だが・・」

「王位継承は、次期国王はアレイン家のオルコックが成るもの。いくら大神官とはいえ、アスターの思いを通すわけにはいかない」

「ブライアンが私の後押しをしてくれていることに感謝する」


 リンメイが森から戻ると、父から

「最近、帰りが遅いようだな。乗りの奥にまで入っているのか」

と言われた。

「奥まで入らないと、修行にならないし・・」

「無理をするな。私に後を継がなくていいと言っているだろう」

 オルコックからも

「しばらく見ないうちに大きくなったね。たくましくもなったようだね」

と言われた。

「まだまだ未熟です」

「私の娘のマーラもすくすく育っていてね。あの賢さには驚いている」

 オルコックが父を訪ねてきたのは、王宮に関わる用件があったからだと推察した。

 しかしリンメイは王宮がらみでは父に関わらないように言われていた。

 リンメイは森で仙人に遇って、魔法や武術を教わっていることを父にも話していない。仙人からも存在そのものを口外しないように言われている。

 その仙人から

「そろそろ別の場所に行かなければならない。きみに出会えたことは、この世界に来て糧のひとつになった」

と言われた。

「この世界?」

「私は別の世界から転移してきた者だ。君にはいい生き方が出来ることを祈る」

 そう言って仙人は去っていった。


 ◇


 そして国王が亡くなり、大神官アスターが国王の娘、エクレール家の長女のプロティナを次の国王に指名した。

「噂が本当になったな」

 ドルインは落胆し、怒りをも滲ませた。そして次期国王をめぐって内乱も起き、死者も出ていた。

 リンメイの父、ブライアンはシャドーコープスの一員だったが、次期国王をめぐる騒動の中で犠牲者の一人になった。シャドーコープスは国王の警護や内外の情報収集を担うために作られた組織だった。


 弔問に訪れた男が

「私はシャドーコープスの一員で、ブライアン様には世話になったカシムという者です。シャドーコープスの中でもプロティナ支持者と反対者の確執があり、ブライアン様の命を奪ったのは同じシャドーコープスのソドルのようです」

とリンメイに教えてくれた。

 だがまだリンメイには何も出来なかった。

 魔術師の素質があるリンメイは、魔法の腕を幼い頃から磨いていて、仙人から武術も教わった。が、将来、父のようにシャドーコープスに入るかは迷っていた。


 ◇


 プロティナが正式に女王として王宮の玉座についた。

 するとプロティナは、それまであった軍の組織を解体した。

「私は暴力も闘争も嫌いです。血を見るのもいやです。揉め事は話し合いで解決します」

 それがプロティナの方針だった。

 そしてシャドーコープスは組織としては残されたものの実質、活動は制限された。


 プロティナが女王になったのを不満に思っているのはアレイン家のオルコックやブランド家のドルインだけではなかった。プロティナの妹のシルビアも不満を持っていた。

 そしてシルビアは

「隣国のワリキュール王国の国王に嫁ぐわ」

と宣言した。

 その目的は、姉のプロティナがスラーレン法国の女王なら、自分はワリキュール王国に嫁いで、ワリキュールで権力を握るという思いからだった。


 ワリキュールの国王、リステルはシルビアを受け入れてくれた。

 そしてリンメイはシルビアから声をかけられた。

「リンメイ。あなたの父のことは聞いたわ。シャドーコープスの一員として尽力してくれたと評価されていることも。私はこれからワリキュールに嫁いで行くんだけど、私の側で働いてみない?」

 リンメイは迷った。自分の将来に目的を抱いているわけではない。父の後を継いでシャドーコープスに入ることも考えたことがあった。だが父からは推薦されなかった。声をかけてくれたシルビアに仕えるのも悪くないかな、とも思い始めた。

 そしてシルビアとともにワリキュールに移った。





















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