第七話 『記憶』
本作はフィクションです。
喧嘩、暴力、いじめなどの表現や、それに伴う精神的苦痛を含みます。
登場する人物・団体・出来事はすべて架空のものです。
2020年6月 潮見芸術大学
今日は久しぶりの対面授業が行われた
やはりオンラインよりも対面の方が集中できる
同じ授業の人達と他愛のない会話をし、1日が終了した
2020年6月 電車内
帰宅中、何か違和感があった
なんだろうと考えていたが深く考え込んでも仕方ないと思い、今日あったことを振り返った
「あ、あれ…?」
突然のことだった
人の顔を思い出せないのである
対面では数回程度しか会っていなかったため、ただ自分が覚えるのが遅いだけだと思っていた
だが念のためと思い、高校時代の友達の顔も思い出そうとしたが全てにモヤがかかってしまい、何も思い出せなかった
ーー数週間後
あの日以来、どんなに頑張って記憶しようとしても記憶の中では全員の顔にモヤがかかってしまっていた
その弊害か"いつ" "どこで" "だれと"どんな会話をしたのかわからなくなっていた
だが消したはずの過去の記憶だけは鮮明に覚えていた
目を瞑るたびに過去の記憶が蘇り、何十層にも重ねた繭の奥底から当時の最悪な感情が自分の心を攻撃した
街中で"奴ら"に似た顔を見るだけで心は締め付けられる感覚に襲われた
「またいじめられるんじゃないか」そう思うと外出することさえも怖くなった
新しく生み出した"自分"が繭で包んで隠した"過去の自分"を制御できなくなっている感覚が伝わってくる
「もう、諦めろよ」
そうどこかから聞こえた気がした
「あぁ…そうだ…もう、終わりにしよう」
胸が苦しい
息を吸うのがやっとだった
ーー数ヶ月後
数ヶ月かけていじめ主犯格のSNSアカウントを特定した
ネットに慣れていないこともありここまでかかってしまったが今、奴がどこに住んでいてどんな仕事をしているか奴のアカウントから特定できた
SNSに投稿している内容を見た時、自分よりも幸せそうな人生を送っている奴をどうにも許すことはできなかった
何故いじめを受けた自分は苦しい思いをしているのにコイツはのうのうと生きているのか
「絶対にこいつを道連れに地獄に落ちてやる」
そう何度も何度も"奴"を恨んだ
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「本当にそれで良いかい?」
目の前にまた"自分"が現れた
だが今回現れたのは消したはずの"過去の自分"だった
「君は"復讐"を望んで、その"復讐"を誰にも悟られないように"もう1人の自分"を生み出した。だがその"もう1人の自分"が多くの経験をして、多くのものを見てきた結果、心に揺らぎが出てきたんじゃないの?」
「うるさい!黙れ!お前は消えたんだ!二度と出てくるな!」
「消したなら何故、僕は今ここに現れることができたんだい?君は20歳で死ぬつもりだったんだろう。けど君は"まだ生きていたい"と思ってしまうほどのお金では買えない思い出を経験してきたんじゃないかい?」
「…」
「また、すぐに君の前に現れるだろう。その時に"答え"を聞こう」
心は揺らいでいた
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