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あのころの花

 



 ──健やかなる時も 病める時も

 ──喜びの時も 悲しみの時も

 ──富める時も 貧しい時も

 ──これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い

 ──その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか







「……………」







「…きょうちゃんっ、返事っ」







「あっ、あぁ、はい、誓います」








 真っ白なドレスに身を包んだ、私だけのつつじの花。




 誓いの言葉に詰まったことは許してほしい。

 私の時間を止めたのは、君なんだから。



 この日のために二人で選んだ指輪。

 その交換がおぼつかなかったことも。


 ベールアップの手が震えたことも、全部。




 白く澄んだ君が、あまりにきれいなせいだから。









「ねえ、きょうちゃん」


「ん?」
















「あの日のワンピースと、どっちが好き?」



















 耳もとで同じ花を揺らす君。


 その声の色も、瞳の温度も、まなざしの時間も。



 私は一生、忘れてやらない。



















 「──きょうの春。」


























「──好き…」










 

 初めてもらうその言葉。


 君からの口づけ。




 誓いのキスは、私からって言ったのに。



 そんなに抱きついたら、ドレス、しわになっちゃうよ。





 でも、わるい気なんてしない。








「春」






「うん?」







「…あいしてる」







「…もうっ、きょうちゃんすぐ先いっちゃう…」








 ──私も、あいしてる。










 また、あのころの花が咲いた──。











    *********











 どんなにたくさん集めても、想いは形に残らない。

 なんど繰り返しても、言葉は消えてしまう。



 だから私はいつのときも、その瞬間の君の手を離さないように固く結んで、けして色褪せない思い出を紡いでいきたい。




 今日という日を白く飾る君と、ともに季節を染めて──。












「きょうちゃん?なに見てるの?そろそろ着替えないと」

「…あぁ…なんか、自販機に春いるなって」

「ほんとだ。この前の麦茶の撮影って、これだったんだ」

「飲めないくせに…」

「いーの。で、なんでぼーっとしてたの?」

「………」

「そんなかわいい?これ」

「……ん…」



 













 私は今も、広告の中の君に恋をしている。















 そして──。










「きょうちゃん」

「ん?」

「帰り送って?」

「……え、チャリで?」

「ふふ、ウェディングドレスでも後ろ乗せてくれる?」

「……ん。」








 

 目の前の君にも、いつだって。














 この恋が、終わらない。───────















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