あのころの花
──健やかなる時も 病める時も
──喜びの時も 悲しみの時も
──富める時も 貧しい時も
──これを愛し 敬い 慰め合い 共に助け合い
──その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか
「……………」
「…きょうちゃんっ、返事っ」
「あっ、あぁ、はい、誓います」
真っ白なドレスに身を包んだ、私だけのつつじの花。
誓いの言葉に詰まったことは許してほしい。
私の時間を止めたのは、君なんだから。
この日のために二人で選んだ指輪。
その交換がおぼつかなかったことも。
ベールアップの手が震えたことも、全部。
白く澄んだ君が、あまりにきれいなせいだから。
「ねえ、きょうちゃん」
「ん?」
「あの日のワンピースと、どっちが好き?」
耳もとで同じ花を揺らす君。
その声の色も、瞳の温度も、まなざしの時間も。
私は一生、忘れてやらない。
「──きょうの春。」
「──好き…」
初めてもらうその言葉。
君からの口づけ。
誓いのキスは、私からって言ったのに。
そんなに抱きついたら、ドレス、しわになっちゃうよ。
でも、わるい気なんてしない。
「春」
「うん?」
「…あいしてる」
「…もうっ、きょうちゃんすぐ先いっちゃう…」
──私も、あいしてる。
また、あのころの花が咲いた──。
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どんなにたくさん集めても、想いは形に残らない。
なんど繰り返しても、言葉は消えてしまう。
だから私はいつのときも、その瞬間の君の手を離さないように固く結んで、けして色褪せない思い出を紡いでいきたい。
今日という日を白く飾る君と、ともに季節を染めて──。
「きょうちゃん?なに見てるの?そろそろ着替えないと」
「…あぁ…なんか、自販機に春いるなって」
「ほんとだ。この前の麦茶の撮影って、これだったんだ」
「飲めないくせに…」
「いーの。で、なんでぼーっとしてたの?」
「………」
「そんなかわいい?これ」
「……ん…」
私は今も、広告の中の君に恋をしている。
そして──。
「きょうちゃん」
「ん?」
「帰り送って?」
「……え、チャリで?」
「ふふ、ウェディングドレスでも後ろ乗せてくれる?」
「……ん。」
目の前の君にも、いつだって。
この恋が、終わらない。───────