第九:くるりといなすネズミはどんなやつ?
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「ただいま~」
「おかえり~」
海沿いの町から転移ゲートを使って、ログハウスに帰り着いた俺とありす。
転移と言っても、ログハウスの裏口を出ると――、海沿いの町にある褐色屋根の白い家の玄関先へと続いていた。
「今日は遊んだなぁ~」
「そだね~~」
家に帰ると、波のように疲れが押し寄せる。ソファで休みたい……。
リビングに出ると、東の窓から差し込む夕日が一直線に西の窓へと続いている……。
ふと、西の窓から見える景色が赤茶色の何かで遮られてることに気づいた。
「まさか――」
ソファを通り抜け――、ベッドへ飛ぶ……。窓を開けると――、きょう植えたばかりのどんぐりが大きな樹木へと成長していた……。
「んっ?」
窓から見上げた木の枝には見覚えのある尻があった……。不審なケツには制裁が必要である……。
「ワッッ!」
「やあああああああああ」
キンクマは態勢を崩すも落っこちず、両の腕で枝にぶら下がった。ふぅ~と溜息をつき。
「これはこれは…………名前、聞いてなかったずら」
「ハクトだ。――白兎族のハクト」
「ハクト!! かっこいい名前ずら」
キンクマはぶら下がった枝から手を離すと、着地の衝撃を「くるり」といなした。そして、少し寄って聞いてくる。
「ね! ハクトはここに住んでるずらか?」
「そだよー」
ありすは窓に「ひょい」と突然現れると、キンクマに向かってそういった。
キンクマは特に驚くこともなく……、ありすに口が半開きとなった顔を向ける。すると――。
「初めまして、金熊鼠族のキンクマずら」
そういって、ありすにお辞儀をした……。ありすはキンクマの対応に慌てて――、「こちらこそ初めまして」と自己紹介をするのだった……。
◆◆◆
「では、合掌っ!!」
「いただきますッ」
「いただくずらっ」
目の前には、ありす特製のハンバーガーセットが並ぶ。ハンバーガーの上には小さな旗がささってる。
ポテトの塩気が俺の体内に染み込んでいくのを感じる…………。ん~うまい。その右隣りでキンクマはハンバーガーを頬張る。
「うんっ、うんっ。おいしいずら~~~」
キンクマの方を見ると、口にはソースが付いている。落ち着いて食えよ……。そういって、紙ナプキンで拭き取る。
「へえ~。ハクト、お兄ちゃんみたい」
俺たちの食事をテーブルをはさんで眺める。両手に顎を乗せてボーっと眺めるありすがいった。
ありすも手伝――、と言おうとした時だった。ウインドウ画面が勝手にポップアップする。
<条件を満たしました>
<『金熊鼠族のキンクマ』が舎弟になりました>
「えっ?」
「んごっ、ふごっ、ふごっ!!」
キンクマが何か言いたいようだが、口の中がいっぱいで上手く話せてない。
「いや、何言ってるかわからん。飲み込んでからでいいぞ」
俺がそういうとキンクマは、白ブドウサワーで口の中の物を流し込んでいった――。
「舎弟ってひどいずら~~~! ハクトとは友達ずら~~」
そういうキンクマは少し涙目だった……。
「はいはい、そうだな。友達でいいぞ、友達で」
そういうとキンクマは目を輝かせ――。「ズットモずら! ズットモずら!」と自分の体を揺らすのだった。