第七:だから、ありすなんだと俺は思う。
「あっ……」
ありすと目が合うが、ロクな言葉が出てこない……。
「へえ~、なに植えたの?」
そう言って手を後ろに回し……。西側周りでゆっくりと、植えた場所をはさむ所までくると……、正面にチョコンとしゃがんだ。
……俺は相変わらず、ロクな言葉が出てこなかった。
「早く育つといいねっ」
ありすはニッコリ笑いかけ、腰をあげた。見上げると……、左手を前に出して出口のポーズをして「お出かけするよー」と俺に言った。
相棒はコップをひょいと拾うと、取っ手を指にかけて先に家の方に向かう――。ひらり、ひらりとエプロンドレスのリボンが揺れる。
「俺も――」と立ち上が……れず、体がコロンと横に倒れ、反動で仰向けになった。……足がしびれて動けない。
《麻痺》状態の痺れアイコンが、太陽に重なって眩しい。
目を閉じると、まぶたの緋が見えた……。……生きてる。
「家の中じゃ、……痺れなかったぞ」
そう言って、小さな手で目を覆うのだった……。
◆◆
「う、う、う……」
「「海だーーーーーーーっ!」」
『うさんちゅ』と胸元にグラデーションブルーでプリントされた――、お揃いの白いTシャツを着て……。俺たちは海沿いの町に来ていた――。
隣のありすは、麦わら帽子にデニムのホットパンツ――そして、ビーチサンダル……。
「――って、ありすってずっとアリスじゃないんかーーいっ」
「え? ありすはありすだよ?」
そういって、ありすが首をかしげる……。
「いやいや、ここでいうアリスはですね――。着る服のことを言ってまして……」
「え? もしかして……、ハクトって……『ソクバッキー系』⁈」
解説役にまわる俺に、ありすが両手で口を隠していった……。
「この俺が……、ソクバッキ―呼ばわり……だ……と……」
ズーンと落ち込む俺の頭が、何かで包まれる……。視界を上げると、帽子をかぶっている。
「帽子もお揃いだよっ」
そういってニッコリ笑うありすは……、確かにありすだ。他の誰でもない。
「……にしても、このTシャツもそうだけど。帽子も、何でこんなに丁度いいサイズなんだ?」
俺はふと、疑問に思ったことを聞いてみた。
「え? 今朝、ハクトが寝ている間に採寸したからだけど? 大きさはもっと緩めが良かった?」
「え?」
「え?」
少しの間、潮風とは違う空気が流れるのであった……。
◇◇◇◆◆
「やっぱり観光するなら海沿いの町だよね~」
「そだね~~~」
「――って、違ーーう!! 一体、いつになったら『作った人の所』とやらに辿り着くんだ?」
海沿いの町にテンションの上がった俺とありすは、観光を楽しんでいた――。
「うっぷ……」
トロピカルジュースやら、コーヒーやら……ケーキは何個食べたんだ。チャンポンした食べ物で『うさんちゅTシャツ』がパンパンだ。
「え? そこの店だけど?」
ありすがストローで指さした所は、2Fのテラスから見える『アロハシャツ専門店』だった。ちなみに、その店の前は俺が覚えているだけでも五回以上、素通りしている……。
「いやあ~、あまりにも近いと後回しにしちゃうよねえ。あはははは……ごめん、トイレ行ってくる」
そういうと、ありすは<ログアウト>した……。
「自由か……」
ありすが自由に行き来できるのを、目の当たりにすると……「本当の自由とは何なのか」を考えてしまう。
「ただいま~」
「早っ!!」
目の前にはとんぼ返りで戻ったありすがいる……、まあ今はこの時間が俺のすべてだ――。
「それじゃあ、待ちに待った本日の目的地……。行きますかー!」
「いやっ、それ俺のセリフだろーーーー!」
どこまで行っても自由なありすはきらいじゃない。